第12話 シンジは友達を助けることにしちゃいました!?(2)
一つ一つの物語という名の線が、一つに交差する。
物語という名の線が、一つに交差し、
交差した点は、終局を奏で始める。
シンジ編-発動-(2)
「おーい!」
聞き覚えのある声に、俺とアイナが振り返ると、ユキトが手を上げてこちらへ向かってきている。少し後ろから見知らぬ少女も一緒である。誰だろう。
「ユキトくーん!こっちこっちー。」
アイナが手を振りながらユキトに声をかける。けれど、もう一人の少女を見て、アイナも頭にハテナを浮かべている様子である。追いかけられている様子ではないので、この空間の中で見つけた人物なのだろうか。
ユキトともう一人の少女は、少し小走りで近付くと、ユキトが俺の正面に立ち、少女は少し隠れるようにユキトの後ろに立つ。そこから、身体をゆっくり起こして、俺とアイナを交互に見やる。
「シンジはアイナと一緒だったんだな。良かった、2人なら少し今の状況でも淋しくはなかっただろう。」
俺はその通りと言わんばかりに頷く。
「そうだな。俺たちはなんとか二人で乗り切ってるよ。ちなみに、そっちの女の子は?」
俺はユキトの後ろに隠れている少女に視線を移す。ユキトは、隠れている少女を促すように、俺とアイナの前に出す。
「ア。。。、アズサと言います。よろしく。。。。」
アズサと名乗った少女は、和服を少し着崩した感じの可愛らしい少女で、少し照れくさそうにしている。
「普段はもっと不思議な喋り方をするんだがな。まぁ、そのうち分かる。」
ユキトのその言葉に反応したアズサは、ユキトの脇に肘打ちを入れている。ユキトは「いてっ」と言いつつも、どこか嬉しそうな顔をしている。仲いいな。
「アズサさん、と言ったか。君もこのゲームに巻き込まれたのかな。」
俺の言葉を受け、アズサの顔が少し曇るのを感じる。するとユキトがアズサを庇うように前に出る。
「そのへんはオレが簡潔に話そう。ひとまず、アズサは敵ではない。彼女も、シンジの言う通り、このゲームに巻き込まれてにここにいる。かなり特殊な形でね。」
ユキトの最後の言葉が俺には難しい。俺の頭にハテナが浮かんでいるのをユキトも察したのか、説明を続ける。
「最初にオレたちの前に現れた仮面の者たち。そのうちの一人がアズサだ。」
「!!」
俺とアイナは驚いてアズサに目を向ける。アズサはその視線に驚いたのか、うつむき、更にユキトの後ろに隠れる。
「驚くかもしれない。実際、オレも驚いた。けれど、最初に言った通り、彼女は敵じゃない。巻き込まれたんだ。そして、このゲームの背後にいる黒幕が関係している。」
「ちょっと、待ってくれ。」
俺は思わず両手を開いてユキトに向ける。
「どんな経緯があって、仮面を被ることになったのか、それは分からない。けれど、今は味方なんだよな。だったら、それで良いよ。ちょっと驚いてしまったけれど、おれはそれ以上は聞かないことにするよ。」
俺はアイナに視線を送る。すると、アイナも同じように笑みを浮かべてこちらを見ている。
「私も、シンジと同じ気持ちだよ。ユキトくんが信じてくれって言ってる。シンジはそれを信じるって言ってる。それで十分。私はあとで、少し事情は聞いてきおきたいけどね。」
アイナはウインクをしながら、ユキトとアズサを見やる。
一通りの挨拶は終わり、俺は皆を一通り見てから、シオンがいる方角を向く。ユキトとアズサも自然と同じ方角を向いてくる。
「聞いてくれ、ユキト、アズサさん。今、仲間の一人がピンチかもしれないんだ。それを今から追いかける。二人とも、付いてきてくれるか?」
「仲間の一人か。誰のことなんだい?」
「シオンだ。」
ユキトの質問に俺はすぐに答える。ユキトはゆっくりと頷くが、アズサは誰だろうという顔をしている。それは当然だろう。俺は、アズサに軽く説明をする。
「アズサさん、君が俺たちの眼の前に現れたときに、後ろの方にいた琥珀色の髪と瞳で、髪は後ろで束ねた、大人しそうな娘だけど。。。。」
流石に覚えていないか、と言おうとしたとこで、アズサは軽く頷く。
「分かった。右奥の方にいた人。。。だね。」
俺もアイナも、そしてユキトも驚く。
「すごい、覚えているんだね。」
「ほんと、アズサちゃん、すごーい!記憶力抜群だね
!」
二人が驚きとともに褒めるので、アズサが照れくさそうに、またユキトの後ろに隠れそうになっている。
「そのへんにしておこう。アズサさんが照れているじゃないか。けれど、たしかにそのとおりだ。そのシオンがピンチなんだ。とにかく、後を追いかけよう。」
皆が頷いてくれたので、俺たちはシオンの後を追うことにした。
数分後、俺たちが全力でシオンの声が聞こえた方角へ向かう途中、ふと思う。普段であれば、声が聞こえただけで方角まで分かるはずがないが、今なら分かる。感覚が研ぎ澄まされたように鋭い。おそらく、アイナやユキト、そしてアズサも同じなのであろう。
そういえば、走っている最中にアズサから言われたこと。「さん付けはやめてください、ユキト同様に呼び捨てで構いません」と言われた。俺はさん付けされて、俺が呼び捨てなのはちょっとなあと思うけれど、本人がそうしてほしいのであれば、そうするとしよう。距離感が少しバグっているアイナは、アズサを最初からちゃん付けであったが、アズサはそれを否定していない。問題ないのだろう。また、走っている間に、アイナとアズサが何か話している。先程ユキトが言っていた特別な事情だろうか。アイナが少し暗い顔になっている辺り、かなり深い話みたいだが、俺は深く聞かないことにする。仲間なら、それでいいじゃないか。
更に走ること数分、走っていて感じること、自分自身の身体能力の向上。どれだけ走っていても疲れない。これも、【能力】の付加効果なのか。これも皆俺に付いてきているということは、つまり同じなのだろう。
ここまで来ると、もはやカードゲームは関係ないような感じになっている。カードゲームに体力なんて必要無いしな。。。。
悲鳴が聞こえたであろう、場所に到着すると、そこにシオンの姿はなかった。けれど見える。【0】の能力でここで何が起こったのか。
「アイナ、ユキト、アズサ。。。。ライト。。。もう一人の仲間だったやつは敵になった。出会ったときは最大限警戒しろ。。。!」
俺はアイナに振り返ることなく言い切る。
「。。。何か分かったのね。。。。了解したわ。」
更に。ライトの【能力】なのか、プラズマのようなものが伸びているように見える。ここからそう遠くない距離に。この先にライトがいる。
味方同士で争うことだけは避けたかったが、おそらく手遅れなのだろう。。。。
「おい、ここで何が起こった?」
突然後ろから声をかけて少し戸惑う。そこには、ケイジュがいた。
「ケイジュくん!無事だったんだね!」
アイナがその場でジャンプしながら喜ぶ。ケイジュはそんなアイナを見て少し微笑んでから、俺の方を睨みつける。
「どうやら、アイナと一緒だったみたいだな。」
「あぁ、そうだ。」
「アイナに変なことしていないだろうな。」
「。。。変なことってなんだよ。。。。」
おれが聞き返すと、ケイジュは柄にもなく頬を赤らめる。
「うるせえな!変なことは変なことなんだよ。してないなら別にいい。」
「心配するな。こんな状態だ。それどころじゃないぜ。」
「その言葉を信用するぜ。ところで、ライトのやつが、どうやらオレ様たちに牙を剥いたみたいだな。」
俺はケイジュの一人称に疑問を抱きつつもスルーすることにした。
「そうみたいだな。おまけにシオンを一緒に連れているようだ。」
「コウヤの頼みだ。シオンは無事にあいつの前に連れて帰る。」
「わお!ケイジュくん優しいね!」
急にアイナが割って入ってっきたが俺はふと疑問を抱く。
「そのコウヤをお前はどうしたんだ?」
「それは、今この場で答える必要があるのか?」
その答えでだいたいの想像はつく。
「いきなり後ろからブスリ、というのは無しだからな。」
「安心しろ。アイナの前でそんな卑怯な真似はせん。」
前じゃなければするのかよ。。。。と疑問を残しつつも、今は共通の敵に向かうとしよう。
「ライト。。。。どうしてしまったんだ。。。。」
「オレ様にはだいたい想像が出来る。普段からおとなしいやつほど、【能力】という絶大な力を手に入れたときの反動が大きいのさ。まるで世界のすべてを手中に収めたかという錯覚にな。」
オレ様とか言ってるお前も十分にやばいと思うのは俺だけか。。。。
「そんな顔をしなくても大丈夫だ。オレ様は本当に強いからな。」
「そうかい。。。。」
俺は気を取り直してライト達に気を張る。そんなに離れたところにはいない。一緒に連れているシオンを人質に取られる前になんとかしたいところだけれど、このままいけば難しいかもしれないな。。。。
「ケイジュ、お前結構余裕そうだけど、何か良い作戦でもあるのか?」
俺はケイジュにおもむろに聞いてみると、ケイジュはニヤリと悪そうに笑う。
「ふふふ、オレ様の力をもってすれば、他愛もない話だ。作戦すら不要だ。」
「それは流石に駄目だろ。。。。こっちは5人いるんだ、協力してまずはシオンを救うことを考えたほうが」
「不要だ。」
完全に言い切るケイジュ。これでは作戦も何もあったものではない。
「なら、俺とアイナはシオンを救うことに専念して、ユキトとアズサはそのフォローを。ケイジュには、ライトの相手をしてもらうしかないぞ。」
「いいだろう。」
とにかく、シオンをライトから引き離すことに専念するようにアイナにも伝える。
「よし、いくぞ。」
俺の能力【0】で見えているプラズマを追っていくと、やがて二人の影が見えた。
「いた、あそこだ。」
俺は足を止めて皆に伝える。アイナに視線を送ると、お互いコクリと頷く。出来るだけライトの視界に入らないように人ごみに紛れながら進む。
かなり近づいたところでケイジュがこちらを睨む。
「オレ様が名乗りを上げてやる。その間にシオンを引き離せ。」
ケイジュなりに考えてくれていたようで、俺はアイナと互いに目線を送る。ケイジュから少し離れるように移動し、再び人ごみをかき分けながらシオンの見える位置に移動する。
俺はケイジュの方を見やると、俺の方を見る気はなく、既に飛び出す直前、まさに名乗りを上げようとしたときだった。
「あ、やっと来てくれたんだね、ケイジュくん。」
「!!」
ケイジュが声を出す前にライトはケイジュに声をかけた。俺も驚いたが、おそらくケイジュも驚いたはずだ。こちらの動きが読まれていた!?いや、気付いた素振りは見せなかったはず。ケイジュがバレているなら、俺やアイナの位置もバレているのか、そんな疑心暗鬼になっている中、ケイジュはそのまま名乗りを続行した。
「ほう。。。。良く分かったな。お前の【能力】は、人を感知することなのか?」
ケイジュが堂々と【能力】のことを問いただすことに対して、ライトは笑いながら口を開く。
「仮にそうだったとしても、君に教えるわけないじゃないか、ケイジュくん。もちろん違うけどね。なんだか、勘が鋭くなっているっていうのかな。【能力】以前の自然に湧き上がってきた力だよ。おそらく、みんなそうなんじゃないかい?」
「!!」
こいつ、どこまで気付いているんだ。。。。いや、今はシオンの救出を最優先させる!