第11話 ケイジュはカードゲームで悪気を抱いちゃいました!?(3)
一つ一つの物語という名の線が、一つに交差する。
交差した点は、終局を奏で始める。
これはその一つの線である。
ケイジュ編(3)
コウヤが人混みの方にバイクのハンドルを切る。オレ様たちは、つまり歩道をバイクで堂々と走っているが、外を歩く人間たちは、オレ様たちに無関心だったくせに、意外と避ける。実に興味深い。
「一丁前に避けてやがる。そこは通常の人間と変わりないのだな。」
「ケイジュくん、僕としてはその方が断然ありがたいよ。。。。」
「黙れコウヤ、お前の感想などいらん。いいから続けろ、この道をひたすら真っ直ぐだ。」
「ひぃぃー。怖いよ、ケイジュくん〜。」
外を歩く人間たちは、コウヤの運転するバイクに何人かは轢かれる。轢かれる度に以前は目を背けるような場面や鈍い音が聞こえる。けれど、今は何も感じない。この人間たちの心を聞こうと思ってみたが、
苦痛も、快楽も、聞こえてこない。この人間たちは何も考えていない。
何も考えていない人間たちは、オレ様たちが突撃して轢かれる人間たちに気が付くと、少しずつ道を開けるようになる。コウヤが中途半端な運転をするため、すぐに、開けた道を進むようになってしまう。
けれど、開けた道を走っていると、一人だけ、「逃げなければ」と思っている人間の心を感じ取る。
「止まれ、コウヤ。」
「え、どうしたの急に。」
「いいから止まれ。」
「う、うん。」
コウヤがバイクのブレーキをかける。意思を感じた人間の方向を改めて確認する。
正面、もう少し離れているがすぐである。
「よし、いたぞ。」
オレ様は、独り言を吐き捨てて、バイクから飛び降りる。およそ、10メートルは離れているであろう、意思を持つ人間の目の前までジャンプをする。
この湧き上がる力は何だろう。このゲームが始まってから、【心を読める】だけではない、身体能力が確実に上がっていく。こうしている今も、どんどん増えていく。他のやつも同様なのだろうか。オレ様は【読心能力】以外にも、身体能力が通常の何倍にもなっている。あとで、コウヤで試す必要があると思いつつ、目の前の心が読める人間を確認する。
見た目は外を歩く人間たちと同じである。男も女も大人はスーツ姿、高校生くらいの年頃は学生服とセーラー服である。目の前にいる奴はスーツ姿の女である。オレ様はスーツ姿の女に尋ねる。
「貴様、考えているな?」
「。。。。」
スーツ姿の女はオレ様から離れようとする。オレ様は瞬時に回り込む。なるほど、逃げる一択か?ババ抜きという名目なら、オレ様から1枚取ってみせる気概をみせてほしいものである。
「。。。。」
スーツ姿の女はやはり、無言で逃げようとする。やはり、取りにはこないようである。
「取りに来ないのか?ではオレ様から行くぞ?」
オレ様は、またもや逃げようとするスーツ姿の女から、カードを両腕ごといただく。鈍い音と共に、スーツ姿の女が膝から崩れ落ちる。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」と、声には出していないが、スーツ姿の女の心の声が聞こえてくる。スーツ姿の女の両腕は、オレ様がもぎ取った箇所から、解像度の荒いテレビのように、モザイクがかかっているかのように、デジタルな血しぶきが出ている。オレ様は目の前にいるにも関わらず、不思議とその血しぶきが着衣を汚すことはない。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
ようやく到着したコウヤが叫び出す。人間の両腕を持っているオレ様に驚いているのか、腕がぶった切れた人間に驚いているのか、その両方なのか。オレ様は気にせずバインダーを確認する。
「ふむ、■と■か。」
消せるのは1枚だけか。まぁよい。これで、オレ様の対象カードは残り2枚だ。
オレ様は用の無くなった、スーツ姿の女の両腕をコウヤの方へ投げる。コウヤが「ひぃっ」と言いながらも腕を避ける。
ここにいる人間は、見られる、触れられる、だがデジタルのような存在と、考えれば良いのか。では、あの時のケンゴは、どうなのだろう。このゲームが何となく分かってきた気がするな。
そのまま放置していたスーツ姿の女は、デジタルではあるが、血を出し尽くしたのか、そのまま倒れ込み、砕けるようなエフェクトと共に弾ける。
弾けたスーツ姿の女の方を見ながら寄ってきたコウヤが、おれに尋ねてくる。
「ケイジュくん。。。、今の人、死んじゃったの?」
「どうかな。普通の人間は、あんなゲームみたいな消え方はしない。つまり、あれは本物の人間ではなきということだ。本物ではなければ、死んだとは言えないかな。」
「そうなのかな。。。。」
「少なくとも目の前にいる、あの人間たちは、だがな。」
「?」
不思議がるコウヤを一瞥して、再び【読心能力】を使う。やはり、先程の奴は完全に消えたか?近くには感じない。けれど、遠くに3つ、小さいが感じる。これは、スバルとシオンとライトの気配がする。けれど、おかしい。スバルの心がノイズが走るように乱れている。そして。。。。消えたようにスバルの心が全く聞こえなくなる。ライトの声が、やけにハッキリ聞こえてくる。これは、ライトが。。。そういうことか。
「くっくっくっ。ライトがか。なるほど。平々凡々なライトも、どうやらオレ様と同じく、最強の肉体となったということか。」
思わず声に出して笑ったことで、コウヤが尋ねてくる。
「ケイジュくん!オレ様と同じってどういうこと!?まさか、ライトくんが、シオンさんのこと。。。!?」
「何故、そこでシオンが出てくる?まぁいい。お前の期待してきた展開と違い残念だが、シオンではない。どうやら、ライトがスバルを殺したようだな。」
「っ!!ど。。。どうして、仲間同士でそんな事が。。。。」
「そんなこと、オレ様は知らん。けれど、シオンも時間の問題かもしれんな。」
そう言うと、コウヤから、プツンと何かがキレて弾けたような感覚がある。
「ど。。。どうして、仲間同士で。。。。それにシオンまで。。。。シオンさんは、絶対に助ける。。。。何があっても。。。!!」
コウヤは文字通りキレたのか、心の中が怒りと悲しみで満ちている。
「もう、ケイジュくんに付き合ってる暇はない!僕はシオンさんを助けに行く!!」
コウヤから、これまでに無い力に満ち満ちたものを感じる。コウヤも俺と同じく、このゲームに参加してから何かしら【能力】を得て、そして、常人離れした肉体を手に入れているはず。
面白い、ここらで、オレ様たち同士の戦いの結果がどうなるのか、確認させてもらうとするか。
「見せてもらおうか、コウヤの【能力】の実力とやらを!」
「僕の【能力】はまだケイジュくんには明かしてない!心を読むなら、考えなければいい!」
コウヤが、本当に出来るのならオレ様は勝つことが出来ないだろうことを言ってのける。
「ほう、出来るのならやってもらおうか。」
コウヤは甘い。人間は考えなれけば動けない動物なのだ。オレ様は、その考えていることが、逐一分かってしまう。けれど、それ故に伝わってくる。コウヤ、お前の決意を感じるぞ。シオンへの想いか、自身への苛立ちか。お前の感じる全てが、これまでのお前からは信じられないパワーに溢れている。けれど、そのお前を倒し、オレ様はまた一歩強くなるのだ。
コウヤが、構えそして一歩踏み出す。すると同時に、コウヤの姿と気配が消える。何処からともなくコウヤの心の声が響いてくる。
「僕の【能力】は【無音】。姿も、気配も、全てが見えなくなる。いくら僕の心が読めても、何処から攻撃するか分からないなら、意味はない。悪いけど、ここで戦闘不能になってもらう!」
なるほど、声は聞こえるが姿も気配も消えるか。また、【無音】の状態では、足音さえも聞こえない。これはたしかにこのままでは捉えるのは難しいだろう。
「だがっ!!」
オレ様は、力強い右足を空に掲げるように地面と垂直に構えると、思いっきり地面に叩き込む。地面は激しい地響きを鳴らしながら、揺れているかのように錯覚するほどの衝撃を与える。
これでオレ様の周りは、衝撃でホコリが舞っている状態である。少なくとも正面からの攻撃なら、いくら本人が見えずとも、ホコリが勝手に相手の位置を教えてくれる。と、でも思っているだろうなあ、コウヤは。
そう、どっちでもいいんだよ、コウヤ。
「そんなホコリを纏ったって!!」
後ろじゃなければ前。
「前じゃなければ後ろだろう!」
「!!」
コウヤの決意は本物だということを考えれば、一撃で戦闘不能を狙える頭部を狙う。後は簡単である、ユウヤの声の距離に合わせて、オレ様は後部に裏拳を決めるだけである。
オレ様の裏拳が、何かに突き刺さる感覚が分かる。「なんで、僕の位置が。。。?」と、コウヤの声が聞こえてくると、コウヤの姿が露わになる。
「ホコリが無くても良かったのだよ、コウヤ。」
「!?」
「心の声にも、方角、距離はある。そして何より、決意を決めたお前は、オレ様を確実に戦闘不能にするために、背後からの一撃を狙うだろうと予測もできたからな。」
「そ。。。そうだったんだね。。。。」
コウヤは、オレ様の射程外まで飛び退くが、かなりふらついている。立っているのがやっとなのだろう。
「それでも。。。、僕は君を倒さなくちゃならない。シオンさんを助けるために。。。助ける。。。ため。。。に。。。。」
コウヤはそう言うと、地面に転がった。
オレ様はコウヤに近付いてから、再度右足を空に掲げてコウヤの頭部を睨む。
けれど、コウヤの心意気、この胸に打たれるものがある。これまで、確かに感じた力強さ、それとは別の何か。
「そうか。。。。」
オレ様がアイナを想う気持ちと、コウヤがシオンを想う気持ち。同じ気持ちなのだと悟る。
「オレ様は、ここでコウヤの命を絶って、ライトに並び、いやそれ以上の存在となり、シンジをも倒すつもりだった。」
けれど、この"想う気持ち"は誰しも平等にあり、決して、それが必ず伝わるものでは無いと、今なら分かる。オレ様は、掲げていた足を下ろし、片膝を付く。コウヤの顔をゆっくりと撫でる。
オレ様はシンジに嫉妬していた。けれど、コウヤは嫉妬などしないのであろう。決して伝えることのない想いだとしても、オレ様に向かってくる勇気と変わる。その強さ、オレ様も、見習ってやろう。
「お前のその強さに敬意を払う。お前の助けようとしたシオンは、オレ様が全力を持って、お前の前に連れ帰ってやる。安心して、そこで休んでいろ。」
少しだけ意識があるのか、コウヤがこちらを見やる。
「。。。、ありがとう。」
「ふんっ。」
オレ様は、コウヤの顔を撫でていた手を離し、遠くに感じる心の声を探る。
「何故か意識を持っているCPUも、ライトの近くに向かっているな。ん?この気配はアイナとシンジもか!?これは都合が良い。」
オレ様はその足で、一気にシオンたちのもとへ向かった。
次回、一つ一つの物語という名の線が、一つに交差する。