第1話 友達とカードゲームに参加しちゃいました!?(1)
一つ一つの物語という名の線が、一つに交差する。交差した点が、終局を奏で始める。
これは、その線の始まりである。
シンジ編(1)
「なぁなぁ、シンジ、カードゲーム尾形って知ってるか?」
皆で行ったカラオケの帰り道に、唐突に、藪から棒に、俺の前を歩いていたケイジュが振り向くと、良いことでもあったのか、にやりとしながら、カードゲーム屋について聞いてきた。
「なんだケイジュ、突然、いや、知らんよ。」
俺は素っ気なく答えた。俺は、あまりカードゲームをしないし、興味がない。
ケイジュはドライブが趣味の1つである。そこで、見知ってくる様々なカードゲームのお店をよく俺に紹介してくれる。また、ケイジュはカードゲームも趣味の1つであり、そして得意である。ケイジュが、カードゲームでよく優勝したことを、俺によく報告してくれる。
ケイジュは、たまに卑怯なことを厭わないのは良くないと思うが、言っても聞かないので、直らない。ちなみに、ケイジュは、いつもニヤニヤしている。そのため、俺はこれが標準の顔なんじゃないかと、たまに疑ってしまうことを誰が責められよう。もちろん、本人には秘密である。
俺が思ったことが伝わったのか、ケイジュが怒ってこっちに詰め寄ってきた。先程までのニヤニヤは何処にいった。
「お前、さてはカードゲームを舐めてるな!?オレはあちこち行って場数踏んでるからな!舐めんじゃねえぞ!」
「俺がいつカードゲー厶を舐めたって言ったよ。俺が舐めてるのはケイジュだけだよ。」
「よーし!しょーぶだ!カードを出せ!!」
「出さねえよ!冗談だから落ち着け!!」
というか、カードゲーム以外でもそうだけど、そもそもお店でやるなんて、度胸の必要なことをやったことがない。というか出来ない。顔は人並であると友達からはよく言われる。それでも、人より気も大きい方ではないと自負している。
だからこそ、自分に自信をつけるために、自宅で筋トレをずっと続けている。自分で言うのも何だけど、こう見えて、体格は良い方だと思う。もちろんジムに行ったことないので、基準は分からないけれど。
髪も染めようとしたけど、お店で染めるように話しかけることが出来ずに、自宅でこっそり染めている。おかげで、後ろは微妙に染められてないと母さんにも言われている。
今日の皆で行ったカラオケだって、知っている歌がどんどん歌われていくのをただ聴いているしかなかったことを思い返すと、なんだか悲しくなる。。。
すると、俺の右横を並行して歩いていた少しポッチャリ系を自負しているユキトが、こっちを見ている。
ユキトは俺も知ってるぜと言わんばかりに、流暢に話に割って入ってくる。
「シンジは、知らないのかいっ!?その尾形って店、昭和を漂わせる古臭い感じなんだけど、何故か最新ゲームを取り揃えててなあ。ただし、どうも曰く付きらしい。尾形も、実は本当の名前じゃないとかなんとか。。。」
「なんだよ、ユキトまで。」
ユキトは、いつも特徴的な大きめなメガネフレームを付けている。また、速く動けるポッチャリ系と細マッチョになりたいのが夢らしい。前者と後者で矛盾している気がしているが、あえてツッコまない。また、言ってるだけで行動に移さないのが玉にキズ。けれど、愉快なヤツであり、俺の親友である。
俺は肘打ちをユキトに軽く入れたあと、その更に横にいるケンゴを見る。
「お前も知ってるのか?ケンゴ?」
ケンゴはダルそうに、空を見ながら、まくし立てるように愚痴る。
「んあ?シンジはもう知ってるっちゃろ?オレ、そういうの興味無いき。超常現象的な?そう言うのは物理や化学で証明出来るし。将来目指してる情報系の仕事的に、ちょっちねっ。」
ケンゴは鼻を鳴らして再び空を見る。何も変わらない、いつも通りのケンゴである。
ケンゴは、何かと科学や情報系が関わると、一通り理由を証明した上で、「興味ないね」と一蹴する(ちなみにFF派ではなくドラクエ派)。だとすれば、証明した内容が分からない時は、1から10までちゃんと説明してくれるのだから、もちろん、悪いやつではない。きちんと証明することがケンゴである証しなのである。ただし、面倒くさがりなのと、イレギュラーな対応には少し弱い。
「そうかよ。。。うわっ。」
返事をしたと同時に突然、肩に何かがのしかかった。視界に見えてくる肌のきめ細いシルクのような腕と、整えられた指先。何より、背中にそのふくよかな胸が当たっている。。。この柔らかいメロンちゃんは転生したらあれだった件。。。もとい、この娘は、ケンゴの妹であるアイナだ。
「私もよくわかんないけど、行ってみたぁい♪シンジー私をミセまで連れてって〜♪ふら〜いみとぅざ〜お〜みせ〜♪」
「やめろ!色々著作権は大変なんだ!あと、何か色々間違ってる気がするぞ!」
アイナは、とても信じられないことに、正真正銘ケンゴの妹である。また、ケンゴの妹とは思えない、あどけなさは残るが綺麗な整った顔立ち。長いまつ毛と瑠璃色の大きな瞳。輝くように美しい長い銀髪が、透き通るような青みを帯びた空に舞う。まるで外国人のような出で立ちだが、立派な日本人である。そう昔、色々あったのだが、今は俺たちの仲間であり友人だ。そのへんの話は、人気が出ればまたおいおい話そうと思う。(俺は誰に向かって話しているんだ?)
「アイナ!おれをリア充にさせるな。俺から降りろ!」
「なにそれ。。。よいしょっ。」
俺の肩から降りて左隣に並んで歩く。
危ない、俺の鼻血が爆発寸前だったぜ。。。。
アイナは、昔色々の末、いつもこうやって、オレにくっついて来る。嬉しいことは間違い無いのだが、オレたちは、もう大学2年生。男と女がくっつけば、色々と思うこともある。アイナは、そういうことはわりと無沈着なところがある。けれど、だからこそ、このメンバーは、きっと全員、アイナのことが好きなんだと思う。
全員。。。もちろんオレもだ。あくまで友達として、である。本心は。。。本心は。。。だ、駄目だおれ、しっかりしろ!
そういえば、アイナが戯れてくるとき、いつも何処からか、視線を感じるような気がする。。。きっと気のせいだろうと思うけれど、アイナは人気者だから、誰かの嫉妬の目線だったりして。。。。うん、気のせいにしよう。
気を取り直して、俺たちの後ろには、ウヅキがいる。少しだけ後ろを振り向いて俺は問いかける。
「ウヅキはどう思う?」
ウヅキはいつも通り、素っ気なく答える。
「あんまり興味がないかのう。シンジが行くなら付いていくけぇ。」
「。。。そうかい。」
そう、俺は答えてから、再び前を向く。全く持って予想通りの返事だったからだである。そういう男なのである、ウヅキは。何事も基本的には我関せず。けれど、誰かがやるとなれば、ウヅキもちゃんと参加し、寡黙にさらっとこなす。ウヅキは、いつの間にか終わらせている。
そして、クセなのか、いつもだいたい腕組みをしている。。。。
ウヅキの更に後ろに4人くらいいる。声はかけてこないが、シオンとライト、それにスバルやコウヤがいる。この4人は、今はまとめてその他としておこう。
「なぁなぁ!せっかく人数いるんだしさぁ、行ってみようぜ!カードゲーム尾形に!実はさっき調べてみたんだけど、ここからわりと近くだしさ!」
このケイジュの言葉を皮切りに、俺たちはそのカードゲーム尾形という店の話題に拍車が掛かる。
隣にいるアイナもこちらを見てウインクしてくる。
「いいんじゃない?シンジー、いこーよー。」
何故かアイナも行く気になっている。当然、俺は興味がないのだが、皆が行くというのであれば、渋々着いていくしかないのである。というか、この2人以外は誰もノリノリじゃないのだけれど。多数決なら、完全に帰りましょう組が勝利をこの手に掴んで輝き叫んでるよ?でもここで、帰るって言うと絶対色々面倒くさいし、この状況で、帰ろうぜって言える度胸が俺にはない。。。。つまり、結局のところ、行くしかないのである。
カードゲーム尾形に向かう途中、ふとアイナが独り言のように語りだす。
「なんだか、この辺も随分と変わったね。昔はもうちょっと華やかというか、賑わっていた気がする。」
「俺たちが子供の頃の話しだろ。今はもう、地元のちょっと外れた道なんて、こんなもんだよ。」
俺の素っ気ないない返事が気に食わなかったのか、アイナがほっぺを膨らませている。
「もうっ!せっかく、皆で集まってるんだから、「そうだね、あの頃に戻りたいよね」くらい言いなさいよ。」
「そう思ってるのはアイナだけだよ。。。。」
何故集まっているかというと、1つの手紙が届いたからである。
その手紙には『久々に友人たちで集まって、地元のカラオケ倶楽部クロケットに行こう』と書かれており、ゴールデンウィークということもあり、帰省ついでに集まったのである。
俺はアイナに返すように、けれど独り言のように愚痴る。
「しかし、あのカラオケボックス、なんで、地元のちょっと外れた、ところにしか無いのかね。」
とても問題である。だとすれば、けれどこの地元も随分寂れているからな。。。過疎化も随分と広がっていることだろう。
「いいじゃん、おかげでカードゲーム屋さんが近くにあるんだから。」
アイナは謎にご機嫌である。俺が、色々感慨にふけっているのが馬鹿らしくなってくる。
けれど、結局のところ、そのカードゲーム尾形という店に、行くしかないのは変わらないのが、俺はとても嫌であった。
歩いて5分もしたころだろうか。本当にケイジュの案内通りに付いた場所に、カードゲーム尾形は見えてくる。けれど、俺の不安は一気に高まる。錆びれた看板にうっすらと書かれた文字。もう、かすれ過ぎて読みとれない。屋根が煉瓦で作られた古い建物ではあり、明らかに、普通の店ではない雰囲気である。カラスさえ近寄らない、まるで魔王城のように、俺には見えた。まだ夕方でないにも関わらず、お店全体が暗がりにあるような、不気味な雰囲気である。
「ユキト、とても最新ゲームが置いている店には見えないのだが、そこんとこどう思う?」
俺は、ユキトに思ったことを素直に質問する。
「商店街と一緒の系統なんじゃないかな。見た目は寂れてるけど、置いてるゲームはちゃんと更新してます。。。的な。」
ユキトは、言葉とは裏腹に、明らかに動揺していることが見て取れる。
「顔が笑ってないぜ、ユキト。」
「だよね、ゴメン、嘘ついた。噂は噂だね。正直、ここまでとは思わなかったよ。。。。」
俺やユキト以外も皆、雰囲気に飲まれたのか、誰も動こうとしなかった。「向こうの空は綺麗だ。。。帰ろう。。。」そう言って踵を返して帰りたいのを我慢して、俺は、胃を軋ませながら、キシキシと歪む入口の扉を開けて、店内に入ることにした。
あれ、そういえばあの手紙の送り主。。。一体誰から送られてきたものだったのだろう?