2話「受け入れて、また歩み始めるのです」
オーツクの表情に迷いはない。
どうやらもう完全に心がアルバニアに移ってしまっているようだ。
彼は私のことなど少しも愛してはいない――悲しいことだがそれが現実なのだろう。
「分かったわ。じゃあ婚約破棄、受け入れるわ」
だから私はそう答えた。
何を言っても無駄なら、縋りついても惨めなだけ。
ならば先を見据えてここまでにしよう。
まだ年寄りは訳ではないのだから、私にだって別の出会いの機会もあるだろう。
「ようやく分かってくださったようですね」
アルバニアは私に向けて毒を放った。
「だらしない男を必死になって持ってはいたくないだけです」
私はそう返した。
黙っていることはできなかった。
何か一つでも言い返しておかないとやっていられない。
「じゃあわたしたち、幸せになりますね! さようなら」
「ごめんなリア。じゃあこれで。幸せになれるよう願っておいてくれよな」
こうしてオーツクとの婚約は破棄となったのだった。
もう滅茶苦茶だ。何もかもが。想定はすべて変わってしまった。こんなどんでん返しがあって良いものか、それもこんなこちらに何の非もない形で。
けれども折れはしなかった。
だって、ここで心折れていたら、新しい希望なんて掴めないと思ったから。
周囲はたくさん心配してくれた。それは嬉しくて。もちろん多くの優しい言葉に励まされていた、それは事実だ。ただ、私は、皆が思ってくれているほど弱ってはいなかった。むしろ澄んだ心で未来を見据えられていたのである。
前を向いていればきっと良いことが訪れる。
根拠なんてなくともそう信じて。
そうやって歩いていこうと心を決めていた。
まだ何も終わっていないのだ、ただそんな気がしているだけで。
◆
そんなある日、前日に怪我をしてしまった親戚のおばさんの代わりに地域のパーティーに参加することとなった。
私はこれまでパーティーのような華やかな場へは行かないようにしていた。というのも、幼い頃一度行ったのだがあまり馴染めなくて。それで苦手意識が生まれてしまい、以降、そういう場への参加はなるべく控えるようにしていたのだ。
だが今回ばかりは仕方ない。
事情が事情だから。
そんなことで、私は、ものすごく久々にパーティールックに身を包んだ。
「似合ってるわよ! リア」
母はそうやって褒めてくれた。
でも少し戸惑っている。
こういう上品かつ華やかなドレスをまとうのは驚くくらい久々で。
「本当?」
「もっちろん!」
「変じゃない?」
「当たり前よ、変なわけがないわ。リアはおめかししたらすーっごく綺麗になるんだから! ふふ、それは昔からよね」