10話「出会いから数年後、ある朝」
出会いから数年、私は王子ウォシュルの妻となった。
「おはよう、リア。今朝採れたばかりのりんごジュース、飲まないかい?」
「えっ……新鮮なやつですか? 美味しそうです」
「じゃあグラスに注ぐよ」
「ありがとうございます、嬉しいです」
今日はウォシュルに仕事が入っていない日だ。だからこうして朝から二人同じ部屋で過ごしている。朝の静けさ、心を落ち着かせてくれるような匂い、この空間に在るすべてが私たちの穏やかな時間をそっと彩ってくれているのだ。
「確かリアってさ、前、フルーツジュース好きだって言っていたよね」
「はい好きです」
そっと黄が注がれたグラスを窓から射し込む朝日が煌めかせる。
彼と一緒にいるからか。
はたまた単にそういう状況なのか。
それは定かでないけれど――今は世界がとても美しく見えるのだ。
「りんご嫌じゃない?」
ウォシュルは、はい、とグラスを差し出してくる。
私はそれを静かに受け取った。
「はい」
冷えたグラスの温度が手のひらに伝わる。
「嫌だったらはっきり言ってくれていいからね?」
「お気遣いありがとうございます。けど、本当です。りんごジュースは嫌いではありません。むしろ好きなくらいで」
「なら良かった」
「とっても美味しそうです、このジュース」
「飲んでみて飲んでみて」
二人以外誰もいない部屋で、私たちはお互いを大切に抱きながら幸福を感じ取る。
そこには誰も割って入れやしないのだ。
私たちだけの時間。
私たちだけの場所。
「あ……! 美味しいです、これ……!」
「本当? なら良かった! 気に入ってもらえそうで嬉しいよ」
「ウォシュルさんも飲んでみてください!」
「あ、う、うん」
「どうです?」
「……ああ、良い味だ」
◆終わり◆