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売り物は皿
その日に元締めがヒコイチに売るように示したのは、うっすら青みがかった白磁の皿だった。
舶来ものよ、と言うのに、どこから?ときくと、まあ、あっちの方さな、とだけ答える。
仕入れ元をこちらに明かさないのはいつものことなので、へえそうですかい、とそのまま藁のような枯れた草にうもれた皿を、皿売り用の箪笥づくりになった箱に移す。
「たしょう値は張るが、ヒコさんのお客になら、売れるだろ」
「まあ・・・、物好きな旦那とか、繁盛してる料理屋なら、あては、あるがよ・・・」
「どうした?ああ、これか?」
ヒコイチの目がさぐったのが伝わったらしく、太ったからだをひねり、うしろにある籠をもちあげた。
元締めの家の板の間は広い。
囲炉裏は台所ちかくにあって、太い柱をはさんでもまだ板の間で、畳の部屋はその奥だ。
板敷のほうが尻が休まる、と言うのは本心かどうかはわからないが、たしかに尻の下にはなにも敷かない。
その板の間に、籠にはいった《桃》が、いくつも置いてある。