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風とおる
「 ああ、だから、そうやって待ってるわけか?」
桃をもらうために、さきに、小さな両手をすくうようなかたちで合わせて待ってるのか、と納得すると、どうにもおかしかった。
今背負っているショイコは空だ。
子どもにやれるような、菓子も玩具ももちあわせていない。
「 オトメちゃんもきっと、すぐ来るでしょ。 あんま来ねえようなら、いちど家にお帰ンなさい。ここは風が冷たくっていけねえ」
その小さな両手を下からすくいあげるようにとれば、こどもの手があまりに冷たくて、ぎくり、とする。
びょおおおっ
つむじ風のようなものが通り、あおられたヒコイチはこどもの手をはなした。
すなぼこりがはいった目を何度もしばたき、ひでエ風だ、と顔をむけたときにはもう、
――― そこに子どもはいなかった。