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トメちゃんが 桃を
きょうもその《元締め》の家にむかう道をめざす。
「―― あん?」
おもわず声がもれたのは、風が強くぬける道、あの白壁の蔵の前に、小さな影があったからだ。
赤い木綿の着物を来た、七つほどにみえるこどもで、小さな手を胸の前でなにかすくいあげているようにしてあわせ、蔵の壁によりかかるよう座り込んでいる。
「お嬢さん、どうしなすった?」
そばについたヒコイチが、顔をのぞきこむようにして声をかける。
小さな顔がおどろいたようにあがり、目が合うと、トメちゃんが、と小さくこたえる。
「『トメちゃん』ってのは? お友達かい?」
こどもは頭をふり、妹よ、とヒコイチをみる。
「ああ、妹さんがくるのを 待ってンのかい?」
ところがこどもはまた首をふり、オトメちゃんが桃をくれるの、と自分の両手をのぞきこむ。




