おまえさまが『桃』を
「 ・・・しばらくして、ある日どうしても、蔵に入りたくなりました。 ―― あの中の、いちばん高い場所には、わたしの婆さまの嫁入り道具ですとか、いまはつかわないお膳ですとかが、しまいこんでありましてね。 ちいさなわたしたちには、いい遊び場所で、ふたりでそこに入り込んでは、子守によびもどされていました。 ―― あのときも、・・・どうしたわけか・・・いつもオフクちゃんと入るときみたいに楽しみで・・・」
遠くをみていた目がもどり、年寄りは、自分の後ろの白い壁をみあげた。
「 ・・・梯子をのぼって、いちばん上のたかいとこまで行ったら、いつもはそこのすみにあるはずの行李が、目の前にあって、ふたが、・・・ちょっとずれていました。 いまさっき、あけられて、いまあわててしめたみたいな気がして、・・・オフクちゃんが、隠れているような気がしたんです・・・。 いっしょに遊んだ時に、その行李には、かくれたことはないけれど、 どうしてか、そんな気がして ―― 」
ここで、蔵をみあげたトメは、なにか思い出したよううすくわらい、手をとるヒコイチの顔をしっかりとみすえると、こどものような笑顔をうかべて言った。
「 ああ、おまえさまが、 ―――
オフクちゃんに、《桃》をくれたんですねえ 」
きゅう、と、 手がつよくにぎられる。




