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オフクの手
風がひょおとぬけ、提灯がゆらされる。
ゆら、ゆら、ゆら、と。
「―― お、ふ、」
みれば、
―― 提灯を揺らしているのは、ちいさなこどもの手だった。
「・・・オフクちゃんかい?」
―― さっきも、袖をひいた。
こどもの手が、こっちだというように、提灯をひく。
その方向には、蔵がある。
ヒコイチはひかれるままに、蔵の方へと足を向けた。
いや、だが。
目をむけたままのあの石には、誰もいないままだ。
提灯が、おおきく揺れ、軽くなったように感じた。
「オフクちゃん?」
《こどもの手》は、もう、提灯にも、ヒコイチの着物の袖にもついていない。
――― が。




