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また風強く
外はもう真っ暗で、月は雲に隠れていて、下女にわたされた提灯を頼るしかない。
先ほど届けられた《元締め》からの手紙をその明かりでみれば、『ヒコさん 皿をとりにきたれ』とある。
道にでれば、またしても強い風がとおりぬけ、提灯がゆれた。
これでは元締めの家につくまえに、ろうそくが消えてしまいそうだ。
オトメちゃんが桃をくれるの
ふいに声がよみがえり、蔵のほうをみる。
蔵の裾に、ぽつんと置かれた石には誰も座っておらず、ヒコイチはなんだか、がっくり、と首をたれた。
・・・おれが、あのときしっかり留めておけたら・・・、
子どもは神様に隠されずに、すんだろうか?




