山の桃は神様の
「 ええ。 そのころはまだここの桃は、山だけにあって、村に桃の木はなくてね。 山にある桃は、《山神様》のものだから、バチをこわがって、村のモンは口にしなかったんです。 ―― それが、うちのばあさまが―― 、」
そこで先ほど手紙をもってきた下女がまた、「旦那様、大奥様がおよびで・・」とすこし困ったように廊下に膝をつき声をかけた。
「 おれが、よけいなことを、大奥様に言っちまったみたいで・・」
ヒコイチが頭をさげるのに、当主がこちらこそ、と頭をさげ、ホテエさんには改めてご挨拶にうかがいます、と立ち上がった。
玄関に送ってくれた下女に年寄りのようすをきくと、声をひそめて、大奥様は元からの持病があってもう長くなく、自分でそれがわかっているから、道端に座ってオフクちゃんを待っているのだと小声でさびしげに言ったあと、 でもきょうは、これからオフクちゃんが来てくれそうだと、うれしげに騒いでいるという。
「 ―― それで、これからオフクちゃんが好きなものを用意するように、と言い出して・・・。いつもとちがって、小さなこどもみたいに楽しそうにしてるんですよお」
これから忙しくなる、とうれしそうな顔の下女にみおくられて家をでた。




