皿は割れた
「 ほんとうに申し訳ございません。《ホテエさん》のとこには、うちのもんがいま、謝りにいっております。 お品はすべて、うちで買わせていただきますんで」
「いやあ、そんな割れた皿買ったってしかたねえでしょう。 元締ンとこにはおれがこのまま行くんで、買うこたアねえですよ」
「そうはまいりませんよ。 うちのばあさまがあんな暴れなきゃあ、皿だって割れていませんから。いやほんと、つかまれたとこはだいじょぶですか? うちのモンはあんなふうにばあさまにつかまれると、跡が残るんですが・・・」
この家の主人だという男はヒコイチの背負った皿を、割れたものをふくめすべて買い取りたいと申し出た。
道に座っていたのは自分の母親で、ときどきあんなふうに、ひどく取り乱すのだという。
「 いや、そりゃあ、 ・・・お子がいなくなりゃあ、だれだって、あんなになりまさア」
ヒコイチのことばに、当主はさらに困ったような顔になり、いなくなったのは、と奥の間を気にするようにふりかえってから、声をひそめた。
「 ―― いなくなったのは、ばあさまが、子どものころでして・・・」
「・・・あの、大奥様が、こどものころ?」




