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袖ひく手
つめよってこちらをみあげる顔が、おどろきとおそれを合わせたようになり、いままで、どこか遠くをみるようだった眼が、しっかりと合う。
「 しってなさるのですか? どこに? いまどこにいるんですっ? 」
いきなりとりすがられて、ヒコイチの背の、箱の中身がゆれる音がする。
「 いや、その、 ちょっと まってくだせえ 」
売り物の皿を傷つけるわけにはいかない。
落ち着かせようと老婆の手をつかもうとすると、ぐい、と袖を下にひかれた。
―― ちいせエ・・・手が・・・
寒気もせずに、ヒコイチの袖を引くそれを目にした。
「 どこにいるのです! 」
「 っつ 」
からだをゆすられ、箱の中で嫌な音がした。
むこうから、騒ぎに気付いた家のものがでて、ばあさまやめろ、とあわてている。
ヒコイチの背では、ガチャガチャと箱がゆれていた。




