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帰りには老婆が
礼をいって《元締め》の家をでれば、もう陽がかたむいている。
西に山の連なるこのあたりには、夕闇が来るのがはやい。
もう、この時刻に子どもは外にいないだろうと思いながらも、すこし急ぎ足になってあの道を通る。
ときおり強い風はあるが、土を巻き上げることもなく、すう、と抜けるだけだった。
まだのこった陽のあたる蔵の壁は、白くまぶしかった。
もちろん子どもはいない、 ―― と思ったら、今度は老婆がそこにいた。
行きに会ったこどもと同じように、蔵の壁を背に、丸まるように座っている。
よくみれば、漬物石のように大きな石があり、そこにこしかけている。
こんな道端に座り込むにはもったいない着物を着ており、足袋は白く、下駄の鼻緒も凝っている。




