山の神様
「ありがてえ。こりゃあの子もよろこぶ」
「こどもか? そうか。ヒコさん、どっかにこしらえてきたのか?」
「おれのじゃねえよ。 ここに来るとちゅう、蔵の前にかわいらしい子がいたんだよ」
蔵の前?と元締めが《桃》をひとつ手に取った。
なげ渡された桃をふところにしまいながら、あのでかい家には女の子が二人かい?ときくと、元締めはおかしな顔をした。
「 こどもはいるが、・・・男じゃねえかなあ。 ヒコさんのいうそりゃ、あの家の子じゃねえだろう」
「・・そうかい。いや・・・」
あの蔵ン中で遊んでるようだったから、と続けようとした言葉はなんとなく飲み込んだ。
「・・・このあたりの子は、このからっかぜの中でも元気なもんだ」
「そりゃあ、生まれたときからさらされてんだ。 でもな、―― あの風は『山の神様』がとおるときに吹くらしい」
「山の?・・・ま、このあたりの《山神様》がどんなもんかは知らねえが、悪いもんじゃねえだろう?」
ヒコイチの生まれ育った山の神様は、かなりおおらかな神様だ。




