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カピバラさんとやって来た神子  作者: 日和るか
20/22

番外編:プロポーズされた!

 月曜日には水曜日からの三日間有休をとる段取りをした。私が仕事に行っていた火曜日はルーイとカピバラさんは動画やテレビ番組を見て日中過ごしたようだ。


 お休みはルーイと二人でお出かけする。

 私の働いている会社を見たがり、通勤ルートで行きたいと言うから、仕事を休んでいるのに満員電車に揺られた。

 

 これは危険はないかとの調査だったらしい。特に帰宅中に街灯が少ない、ここは路地に引きずり込まれる危険あり、などと注意事項を懇々と示された。


「セリナには龍神の加護があるから大丈夫だ」

 カピバラさんに言われていても、心配性の彼氏は安心しないらしい。


 私の卒業した大学も見たがり連れて行った。

「大きいですね……」

「そんな事ないよ。もっともっと広い学業施設はたくさんあるんだよ」


 大学近くの貴船神社にも行った。

「ここがカピバラさんの住んでいた場所だよ」

 元の住処の池にも案内した。

 

 神社の様子を動画に撮ってカピバラさんに見せたら、「懐かしいな。一年も経ってないのに」と、ぼんやりした目を更に細めた。

 きっと彼は白大蛇神を思い出してるんだろう。




「セリナと過ごせて楽しかったです」


 プリントアウトした写真や、お土産のお菓子や、その他諸々を大きなエコ袋にいくつも入れて、ルーイとカピバラさんが魔法陣の上に立つ。


「二人が帰ると寂しくなっちゃうね……」


「セリナ……泣かないでください。連れ帰りたくなってしまう……」

「……ルーイ……」


「ああ! また会えるだろう! 湿っぽいのはナシだ! 大体なあセリナ、移動自体はお前の里帰りより簡単なんだぞ!」


 野暮な守護獣だこと。別れを惜しむのは当然でしょうが。それに、魔法陣って簡単に使えるものじゃないんだから、会いたいからってすぐに会えやしないもの。

 しんみりした空気の中、騒がしくしたカピバラさんと最愛のルーイの姿が、視界から消えた。


 遠距離恋愛辛いわ……。すぐには会えない。魔法陣がこの部屋にあっても私じゃ使えないし。

 ルーイは私ひとりでも魔法陣を発動できるように改良すると言ってたから、それを楽しみにしておこう。



 翌日からまた、日常に戻る。


 元カレたちが社内で私が外国人と遊んでいるビッチみたいな噂を広めようとしたけど、残念! こっちは「今の彼と結婚するつもり」って周囲に根回し済みなんだわ!


 同期とか後輩とか“国際結婚”と盛り上がってくれてるけど、正確には“異世界結婚”とか言えば、頭おかしい人になるから微笑で躱す。


 ルーイの国籍を曖昧にするしかないので、そこが元カレたちの攻撃ポイントでもあるんだけど「あまり公に出来ないの。彼、聖職者ってだけじゃなく王族の血を引く貴族でもあるから……」と神妙な顔で広めてやった。

 ルーイの実家は過去に降嫁した姫君もいたくらいの家柄だから、まるっきりの嘘でもないしね。


 まるでハーレク◯ンロマンスじゃん!と興奮する同僚たちのために、今度オレーリアに行く時はスマホを持参して正装のルーイを録りまくらなきゃね。私もあっちのドレスを着て、あの可愛い王城をバックにした二人の記念写真も撮りたいな。




『三日後にルーイたちが来るって!』


 ルーイたちがたまにこちらに来てくれて順調に交際をしていたある日、慣れ親しんだ女神様の声がした。異世界と連絡を取るツールがないから、唯一の連絡手段と言える。女神様がルーイやカピバラさんと私の間を取り持つもどかしさも、中世時代だって手紙くらいしか交流手段はなかったんだからと、自身に言い聞かせてきた。実際タイムラグや紛失がない分、手紙より優秀ではあるしね。


「やっぱり魔法陣じゃ頻繁に行き来できないものよね」


 久しぶりに会える嬉しさは勿論なんだけど、不便さに愚痴る。


『贅沢言わないの。こっちで国際恋愛してたら飛行機代とか移動時間とか掛かるじゃない。それと比べたらお得よぉ』


 随分こっちの一般人的な感覚に染まったな、ルリアニーナ様。


「そうですね。ふふっ、ルーイの好きなもの作らなくちゃ」


『若い男は肉食べさせときゃいいのよ』


「たっぷり野菜ゴロゴロのカレーも喜んでましたよ」


『あれはいいわ。具が大きいと幸せな気分になるものね』


 いささか貧乏性な台詞を吐いて女神様は去って行った。


 それにしても久しぶりの逢瀬よ! 美容室行ってこなくちゃ。デート用の服も買おうかなっと。ああっ、楽しみ。




「久しぶりです。セリナ」

「よう! 変わりねえか?」


「いらっしゃい!!」


 三日後の夜、やって来たルーイとカピバラさんに抱きつく。


「元気そうで安心しました」


 ルーイが抱きしめて髪を梳いてくれる。これ好き。なんか全身で愛情を感じるって言うか。


「セリナ、話があります」


「え、はい」


 来て早々、神妙な顔のルーイに釣られて、私も居住まいを正す。


「セリナ、僕、十八歳になりました」


「おめでとう! ちゃんとプレゼント用意してるよ!」


 そう、誕生日に合わせて来たんだよね、ルーイってば。

「ありがとうございます。嬉しいんですが、それより」

 彼は真顔を崩さない。


「こっちの世界でやっと成人になりました。ようやく言えます」


 そう言ってルーイは私の前で跪き、木製のリングケースを開けた。中に鎮座するのは大きなアメジスト。濃い紫の煌めきはルーイの瞳の色だ。中央のアメジストを囲んでいる小さめの石は恐らくダイヤと……なんだろう、淡い青紫の……分からないけどアメジストを引き立てていて綺麗。


「セリナ、僕と結婚してください」


 ルーイは真剣だ。今更私が断るはずもないのに、紫の目は不安に揺れている。


「……はい、よろしくお願いします……」


 わざわざ指輪を準備して、プロポーズをしてくれた。あちらにはない習慣だ。こちらの流儀に合わせてくれた彼が愛おしい。


「ありがとう、セリナ……」


 緊張を解いたルーイがふにゃりと笑う。黙ってルーイの横にいたカピバラさんも「やっとだな! めでたい!」と興奮気味で、なんだか照れる。


「今度の土曜日! セリナの実家に挨拶に行きます!」


「えっ! 明後日いきなり!?」


「ええ、これは相談じゃありません。決定事項です」


 上司だ! 上司の顔だ!!


「ま、待って。心の準備が!」


「往生際が悪いぞセリナ、異世界結婚の覚悟は出来てたんだろうが」


 カピバラさんはルーイにずっと寄り添っていたからか、ルーイに感情移入している。


「だ、だって……、親にどう説明するのよ、これ!」


 恋人がいる事は家族にも伝えている。詳細抜きで。普通に外国人なら私だって悩まないよ。異世界人なんてどう伝えていいか分からないじゃん!


 挨拶に行っても、頭おかしい二人になるよ……。でも、今更ルーイ以外と結婚なんて考えられない。


「そ、そうだ! か、駆け落ちしようよルーイ!」


「何言ってんだ? セリナ」

 訝しげなカピバラさん。


「“探さないでください、外国で幸せになります”って実家に手紙出しとけば、いいと思うの!」


「どうして駆け落ちなんですか? 身分違いでもあるまいし。大事な家族に祝福してもらわないとダメです」

 

「身分違いどころか世界線違いなんですけど」


「心配すんなセリナ、女神がどうにかするって言ってた!」


「ルリアニーナ様が? 異世界の神がこっちに干渉できるの?」


 そりゃあ声は聞こえるよ? でもこっちの縄張りを荒らすような真似は出来ないんじゃないかな。


「お前の実家の龍神が協力してるから大丈夫だ!」


 大丈夫の根拠がよく分かんないけど、龍神の加護でどうにかなるものなの? ってか、女神様、ずるい。私は未だに龍神様を見た事ないんだけど。


「ルリアニーナ様は五色輝(ごしきあきら)様と会って色々と話し合われたみたいです」


 ……龍神様、由緒正しい長い本名があるんだけどなあ。まあ、本人?本神?が気に入ってるならいいか。


「あの女神、会いに行く時はデートだって浮かれてるぞ。全く俗物でしょうがない女だぜ」


 ちょっ、カピバラさん! 敬虔な信者の前でそんな暴言!


「ルリアニーナ様はイケメン好きを自認していますし、神々しさを捨てた残念な、いえ、庶民的な女神なのは今更ですよ」


 おっと、そうだった! この神官、信仰心はあるものの、割と女神様に塩対応だったわ! 

 それにしてもウチの龍神様とデートですってえ! やっぱりずるい!


「一応、挨拶の仕方とか仕込んどいたからな。セリナは黙ってルーイの横で頭でも下げとけ」

 挨拶ってアレ? 娘さんと結婚させてくださいってやつ?


 反論したって、どれも二人に言い含められるのだろう。神様が絡んでたら、どうにかなる気がしてきた。

 それに、ルーイの“娘さんをください”をこの目で見たい……。


 

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