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カピバラさんとやって来た神子  作者: 日和るか
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番外編:浮気男との遭遇

 最悪すぎるんですけど!!


 美味しいから確かにこの二股男とも何度か来た。でも互いの家からも会社からも近くはない。どうしてばったり遭うのよ!


 二人は私に気づいたけど、視線を隣のルーイに移してそこから目を外さない。明らかに驚愕している。それを見て私は落ち着いたので口を開く。


「こんなところで会うなんて、驚きましたわ」

 おーっと! なぜか令嬢口調に! どこのセレブのお嬢様だよ! 異世界仕様がついうっかり。


「私の家が近いのよ」

 彼女が不機嫌に答えた。そうだったのか。そんな情報、興味もないから知らんかったわ。


「セリナ、この方達はどなたですか?」

「ああ、会社で一緒に仕事している人たちよ」

「そうですか。セリナがいつもお世話になっております」

 ルーイは軽く会釈する。カピバラさんの指導の賜物か、実に日本的な作法に則ってるけど、その挨拶、この場に沿ってるのかしらね。


 二人は目を丸くして戸惑っていた。

 まさかね、外見がバリバリ外国人に流暢な日本語喋られたらねえ。びっくりは仕方ないかもね。


「別にお世話されてないから、その挨拶はいらないよ」

 たかが会釈だけど、ルーイがこんな奴らに頭を下げるのを見るのは嫌!


「そうなんですか? 社交辞令はこうじゃなかったですか?」

「社交辞令が要らない相手なの!」

 私の気迫で何か感じたんだろうな。ルーイは私に身体を密着させた。

 あれ……? なんか神気を纏ったよ。身体強化してるぅ!


「相手にするまでもない小物だから」

 そっと囁くとルーイの肩の力が抜けた。


「セリナ、そいつは新しい恋人か?」


 馴れ馴れしく名を呼ぶな! どうしても呼びたいなら長嶺さんと言え!

 元カレ野郎が不機嫌にぞんざいな口を利いたものだから、劣らずムッとした顔でルーイが「そうです」と答えた。


「どこかでナンパされたのかしら」

 元カレに続いて女が見下した言い方するけど、顔が引き攣っている。


 だってねえ、ビジュアルはルーイの完全勝利だし。私が遊ばれていると思いたかったのだろう。


「セリナの実家の神社関係で知り合ったんですよ。僕は異国の聖職者ですから異文化交流の一環ですね」


 嘘には真実を混ぜるといいと言うのは本当だわ。私の実家云々は嘘でも、異国の聖職者であるのは違いない! おそらくカピバラさんの入れ知恵であろう馴れ初め話はなかなか当を得ている。


「ふん! 俺のお下がりだぞ、その女」


 信じられない! どこまでクズなの、この男! 龍神様ありがとう。目を覚まさせてくださって。


「お下がり?」

 意味が分からないのかルーイが小首を傾げる。相変わらず可愛いな!


「俺の女だったんだよ!」

 苛々してまで言う必要なくない? なぜ上から目線なのよ。振ったのはこちらだ。いい加減この男、殴るのは手が痛いから、蹴ってもいいかな!?


「ああ、浮気して捨てられた前の恋人ですか」

 ルーイが小馬鹿にした笑みを浮かべた。堂々としている姿は本当に十代に見えない。


「そちらが二股かけていた女性ですか。……お似合いですよ」


 あいつらも蔑みの微笑に気がついたのだろう。

「なっ……」

「まあ!」

 二人して語彙を失っているけど、私はずっとルーイの顔を満喫していた。侮蔑の意味だろうがなんだろうがルーイの笑顔は貴重なのよ!


「行きましょう」

 ルーイが店に入ろうと私を促す。

「もう僕のセリナに関わらないでください」

 そう言い捨て置いて。ぼ・く・の、セリナだって! ありがとうございますうぅ!


 浮気相手の女、元カレの今カノが悔しそうな顔で私を睨んでいる。なんでよ! あんたは私からその男を奪ってやったと自慢げに言い回ってたじゃん。


 社内でそんな事やるとさ。まともな神経の人たちは、そりゃあんたらから距離置くよ。それをあんたは「良い男に選ばれた私に嫉妬してるんでしょ」とかやってたんだから馬鹿だよね。


 ちょっと顔が良くてちょっと営業成績が良いだけじゃない。……まあ、かっこいいと思ってた私も男を見る目が無かったな。


 二股男ってだけで評価は下がるのだとご存知ない? 私はそいつに熨斗付けてあんたに差し上げたのよ。未練なんかあるわけないじゃない。


 本当に素敵な新恋人がいるもんね! 異世界人という懸念より年齢差の方が気になる感情は、如何ともし難いけどね……。


 店内に入ってドアが閉まっても、背後にあいつらの嫌な視線を感じた。

 

 月曜日に出社したら先手必勝ね。あいつらが私の無い事無い事悪口言う前に、『彼氏とデート中に声かけられて最悪だった』と言いまくらなくちゃね。

 彼氏の写真もみんなに見せちゃう! よし、気合い入れちゃうよ!


「あいつら感じ悪かったですね。セリナ、気分害してないですか?」

「大丈夫! ご飯食べたらぶらぶらして、夕ご飯買って帰ろうか。カピバラさんが待ってる!」


 デパ地下でお惣菜を買う。今日は奮発だよ。


「あ、セリナ! 換金しないと」

 そうね。忘れるところだったわ。




 ルーイが麻袋に無造作に入れていた金の指輪やネックレスやブレスレットを、ちょっとお高いブランドのポーチに移し替えてきた。見た目もちゃんとした方が客として心証がいいでしょ? 



 全ての装飾品を売ったわけじゃない。クレジット利用が多いし、大金は持ち歩かないから現金が多いと不安なのよね。

 ルーイは折れ目のないお札を手にすると「美しい」としげしげと眺めていた。

「セリナ、これ、国に持ち帰っていいですか?」

「いいんじゃないかしらね」

 異世界の物、持ち込み不可なんて事はないはずよね。あまりにも影響の大きいオーパーツ的な物ならさすがに止めるけど。外国旅行の記念品扱いだよね。



 財布がいるわ。紙幣が折れないように長財布がいいな。



 カピバラさんが一人お留守番なのは可哀想だから、日曜日は部屋でまったりした。守護獣付き、おうちデート!

 マグネット式リバーシ盤を買って遊ぶ。カピバラさんとルーイの対局の図は、シュールすぎて動画を撮りたかったけど自重した。まあ、見られてもどうせフェイク認定されるだろうから心配はないけど。もしかしたら可愛い〜ってバズるかもね。







 月曜日は仕事。

 久しぶりにお弁当作ったよ。ルーイとカピバラさんのお昼ご飯を作り置いたついでだけど。



「おい、おまえ、いつの間に男を作ったんだよ」

 朝、タイムカードのところで、元カレに絡まれた。これは職場恋愛の弊害。破局した時、気まずいものよ。同じ営業部署だから顔を合わせて嫌だったな。今は完全に吹っ切れてるからどうでもいいけど。



「あなたに関係なくない?」

「まだ別れて半年だろうが」

 そうだっけ? 濃すぎる異世界生活があったから体感時間は長いけど。



「あんな素敵な子に出会えば恋に落ちるよねー」

「子? 年下かよ。学生か?」

「ひ、ひとつ下なだけだし。外国の公務員だし」

 うっかりした! 職業:神官って実質公務員でいいよね。七つ年下なのはさすがにバラすわけにはいかない!



「私に話しかけたら彼女さんの機嫌が悪くなりますよ」



 そのまま離れようとしたら腕を掴まれた。その手を勢いよく払って睨みつけてやる。



「なんのつもりですか? セクハラですよ」

「なっ!?」

 当たり前だっつうの。好きでもない男に触られたら気分が悪いわ。

「馴れ馴れしくしないで」

 

 何よ。私が別れを宣言した後は、開き直って会社であの女と堂々といちゃついているくせに。あんたら二人して仲がいいのを私に見せつける馬鹿だし。社内で二股とかする頭の弱い男に未練なんかないわよ。



 でもそれからもあいつの視線を感じて嫌な気分になる。見るな。HPもMPも減る。さっさと営業行け。そして直帰すればいいのよ。どうせ彼女と半同棲してんでしょ。




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