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カピバラさんとやって来た神子  作者: 日和るか
16/19

日本に帰ります

次で最後です

 王都に帰ると早速ルーイは登城だ。はい、もれなく神子と守護獣もついています。


「やっぱりあの馬鹿、何をしでかすか分からないな!」

 そして謁見にはもれなくキラ王子がついてくる。案の定、隣国の皇太子に憤っている。


 無主地にての邂逅に、王も渋い顔で「第二皇子に接触でもするか」と宣った。


「父上、介入はまずい。“お前んとこの皇太子がいちゃもんつけてきたぞ。喧嘩売るのか?”を丁寧な抗議文にして皇帝に書簡を送りましょう」


「殿下、“女神の神子を愛人に寄越せとはふざけてるのか?”も入れてください」

 ルーイがしれっと追随する。


「うむ、更に“同盟国やめるし召喚魔法陣も売らないぞ”を加えておこう」


 強気外交だねえ。どこまで本気か知らないけど。


 それからの私はルーイの家でのんびりしつつ王城や神殿に出向いたり、街の探索などしながら気ままに過ごしていた。穏やかな日々が続いていた。



『やったわよ! セリナの元の時空が特定できたわ!』


 夜、ルーイとお茶を楽しんでいると、いきなり頭に女神の声が響いた。


『セリナの守護神と繋がったおかげよ! 協力してくれるからすぐにでも帰れるわよ!』


「え!?」


 期せずしてルーイと声が重なった。


 落ち着くんだ。最初から帰してくれる約束だったじゃない。突然だから驚いただけ。

 

 ……やっと自分の正しい世界に帰れる。間違いなく嬉しい。家族や友人の元へ戻れる。同時に寂寥感に苛まれるのはどうして。涙が滲む。それは……。

 ──こちらで紡いだ縁が切れるからだ。


「いつでも帰れるならまだここにいても……」


 ルーイの声は戸惑っていた。


「いえ、あちらで時間が経っていないなら、こっちで過ごす時間との乖離が大きくなる、から、準備でき次第、帰して、ルリア、ニーナ……様……仕事の続きも、忘れちゃう……」


 息ができない。上手く言葉が紡げない。


『世話になった人たちと別れを済ませたら呼んでね』


「女神様!」


『なあに、ルーイ』


「早すぎます……」


『そもそもあなた、早く帰してあげてとせかしていたじゃない。あとは頑張りなさいよ』


「…………」


 ルーイは黙り込んだ。彼が私を、見た、気がする。でも、涙で見えない。

 次の瞬間、私は彼に抱きしめられていた。


「セリナ、僕は」

「言わないで!!」


 叫んでルーイの声を遮る。言ってはいけない。聞いてはいけない。

 だって、結末は悲恋になってしまうでしょう?


 今まで黙って私の足元にいたカピバラさんが、のそりと立ち上がった。


「喋るカピバラもどきの俺はあっちに帰れない」

 飄々と語る。嘘でしょう!?


「うちの実家に住めばいいじゃない!」


「リスクが高すぎるだろうがよ」


「守護獣の仕事を放棄するの!?」


「……ずっとお前の守護獣だよ」


 ルーイは離してくれない。そして、とうとう言ってしまった。


「僕はあなたが好きだ!」


「どうして言っちゃうのよお」


 涙腺が崩壊したじゃない!


「離れたくない!!」

「私だって、ルーイといたいよ……」


 もうごまかしが効かないじゃない。七つも年下のこの少年が……


「…………好き」


 ルーイが指で涙を拭ってくれた。この土壇場で心を通わせても、待っているのは今生の別離だと言うのに。

 ──どうして。


「どうしてそんな幸せそうな顔してるのよぉ」


「初恋が実ったんですから、嬉しくてたまらないんです」

 年相応に見える満面の笑み。


『あなた、そんなお花畑全開の笑顔が出来たのねえ』

「恋する青少年、青春だねえ」

 

「女神もカピバラさんも酷い。恋人にもなれずに別れるのに呑気な反応で……」

 涙声になっちゃった。


「セリナ」


 ルーイが益々腕に力を込めた。


「必ず迎えに行きます!」


 突然のルーイの宣言。反射的に彼を見上げる。紫の瞳は自信に溢れ、気休めとは思えないほど力強かった。


「と言うか、セリナのところと往来を可能にします」


『ルーイはその魔法陣の組み立てをずっと頑張っているもんね』


「試行錯誤して作成してるのは技術省の連中だけどな」


『次元を超えた恋人に会うために、新しい魔法陣を作ろうとするなんてさすが私の寵児』


「えっ!?」

 悲壮感も涙も、ついでに悲劇のヒロイン心も引っ込んだ。

 ルーイ、そんな事してんの!?


「特定の場所での往来を可能にします。想定は僕とセリナの家です」


 さらっと言ってるけど、実現したらすごい事だわ。

 ん? “ずっと”? 私の気持ちを知る前から取り組んでいるってわけ?


「セリナに特定の相手がいないから、追いかけて口説こうと思ったんです」


 マジ!? 他人なら執念にちょっと引くけど、愛故と感じられるのが恋心ってもんなのかな。あばたもえくぼ的な。


「言ってよ……」

「まだ未完成なんです。理論を構築したのはかなり前なんですが」


「まずは元の世界の特定から始まったしな」

『カピバラさんの媒介で、やっとセリナのとこの龍神様と繋がったのよ』

「向こうも探していたぞ。安堵していた。座標を龍神が固定した。あとは俺の流す妖力を伝って、女神がセリナを送る」


 理屈はわからないけど。


「じゃあこれからもルーイやカピバラさんに会えるのね? 会えるのね!?」


 念押すわよ。


『ルーイの魔法陣の完成には龍神様の承諾が不可欠なのよ。彼の神力と私の神力を繋ぐから。つまりルーイは龍神様の加護を受けたの』


「どういう意味?」

「平たく言えば、ルーイをおまえの男だって龍神が認めたんだよ」


 カピバラさん、言い方!! でもそれって実家が交際相手を認めたに等しいのよね、多分。そういう意味よね? 


「おまえ、前の彼氏の家で浮気現場見ただろ? あの日おまえと友達の一泊旅行がキャンセルになったから、思いついて急に押しかけた」


 思い出させないでよ、気分が悪い。あいつも馬鹿よね。合鍵渡した女が急に来る想像も出来ないなんてね! 旅行だって油断させる罠かもしれないのに。まあ、喜んでくれるかなってウキウキしていた私は愚かにも、浮気なんて疑いもしなかったんだけどね!「今何してるの?」「家で一人寂しくゲームしてる」なんてラインくるから安心して行ったんだけどさ。まさか最中に出くわすなんて最悪。お互いにとんだサプライズだったわ!

 

「あれ偶然じゃないんだぜ。“男に会いに行け”と龍神がおまえに念を送ったんだと。何となくその気になって行っただろ?」


 龍神様、親切心か過保護か分かんないけど荒治療すぎる。あんな修羅場、繊細な子なら吐いて男性不信になるわ!

 

 相手は部署が違うけど同じ会社の顔見知りな女でびっくりした。社内恋愛の三角関係なんて信じられない! 私が捨てられたなんて勝ち誇った顔で言い回っているらしいけど、あんたも浮気されてんだからね? そんな不誠実な男、いらなくない?


「セリナ、抱きしめるの駄目なんですか?」


 ハッとして声が降ってきた方を見上げる。困惑して眉尻の下がったルーイと目が合う。元カレを思い出して苛立ちのあまり手に力が入っていた。私の両手は私を抱きしめたままの彼の胸を、思い切り押していたのだ。客観的に見て、抱擁から逃れようと暴れている図だ。


「ごめん! 恥ずかしくてちょっと動揺しただけ……」


 力を抜く。想い人に抱きしめられてるのに、立腹とは言え他の男の事考えるのはアウト! 反省してしおらしい態度をしておこう。


「可愛い……」

 

 ルーイは本当に幸せそうに呟いて微笑んだ。可愛いと思ってくれるのね。ありがとう、そしてごめん。ちょっとだけ“ちょろいな”と思ってしまった。


『二人の世界に浸らないでー』

「……セリナ、少年を騙すんじゃねえぞ」


 女神の真っ当な言葉はともかく、カピバラさんは言い過ぎよ。今更でも好きな人の前では取り繕うわよ。猫の五匹くらいは余裕で被るわ。


『頑張って早く<純愛の魔法陣>を完成させなくちゃね!』

「その命名、ホント勘弁してください」

 ルーイは心底嫌そうだ。同意。女神のネーミングセンス酷すぎでしょ。

「すまんなルーイ、俺がキラ王子に伝えたせいで技術省でも正式名扱いになって」

 

 カピバラさんが戦犯なのね! キラ様に言ったら絶対面白がるじゃん!

「女神様のもいいけど、<純情の魔法陣>でもいいよね、なんて言ってたぞ、あの王子」

 やっぱりね! 恥ずかしすぎるわ! 私と離れないために作る魔法陣だから完全否定できないところが何とも……。


「永遠の別れにはならねえ。実家に帰りますって挨拶回りしとけ」


 なんだかヨーロッパ旅行から日本に帰るみたいな感覚になってきたわ。


 


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