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カピバラさんとやって来た神子  作者: 日和るか
10/20

辺境からの要請

 守護神官長と行く異世界の浄化の旅──


 を終えて旅疲れも取れた二日後からルーイと一緒に神官庁に行く。異世界の話を記録するのだ。これはもう出勤だよね。神官庁の職員じゃん。私は観光客扱いでのんびりしていいはずだったのに。召喚者の義務だってか?


 そう愚痴ればカピバラさんに「王室直管で国庫から報奨金が出ているんだろ? 給料じゃないから公務員じゃなくね?」と言われた。

 じゃあなんだろ。賓客の立場だけど客人は普通お金貰わない。


「<職業:女神の神子>の特殊階級だろ」

 カピバラさんは私の相手が面倒なのか、欠伸をしながら適当に流した。不親切。


 神官庁本部の学校の少人数クラスの教室みたいな部屋で異世界を語る。神殿書記官相手に形式は質疑応答だ。だって何を話せばいいか分からないし、聞きたい事に答える方が時短で合理的でしょ。


 休憩時間になり食堂に行こうとしたら、神官庁の職員に呼び止められた。

「神子様、緊急協議だそうです。午後は本館三階の第一会議室に行ってください」

「え? 何の?」

 言わば派遣社員みたいな私が会議に出席?


「存じ上げません。私はただの連絡係なので」

 申し訳なさそうな職員は、「アシュロン守護神官隊長も招集されていますから」と私を安心させるように告げた。

「分かりました」

 ルーイがいるなら心配ないな。って、……私、彼への依存度が高すぎない?

「男は頼られると嬉しいもんだ」

 カピバラさんの男性代表みたいなセリフは信用していいの?



 まあご指名なので、昼食後は会議室に向かった。会議室の前でルーイが待っていてくれていた。さすがに神官庁本部の建物内で迷ったりしないのにねえ。

 扉を開けてもらうのにも慣れた。これが当たり前になると日本に帰ったら高慢な女になりそうだわ。

 

 部屋に入ると見覚えある眩しい金髪が目に入った。キラ様がにこにこと手招きをする。おじさんたちに混ざると美しさが浮いているわね。

 ……第二王子って暇なの?


 キラ様に呼ばれて彼の左隣に座る。私の左隣を当然の顔でルーイが陣取る。席次とかいいの? いいんだろな。キラ王子の意向一択だよね。


「キラ様、神官庁の会議にも出られるんですか」

「重要会議には王族が一人は出席する決まりなんだ。環境省と技術省と神官庁は私が総責任者だからね」

 暇とか思ってごめんなさい。がっつり仕事だったんですね。

 

「あっ! ブリンダちゃん、こっちこっちー」

 部屋に入ってきた人物を認めると、キラ王子は大きく手を振って呼んだ。

 巫女総括部長のブリンダさんはアラフォーで三人の子持ちだ。そんな年上の女性を“ちゃん”付けとはさすがだ。彼女は苦笑しつつ近づいてきた。

「さあ、ここ座って」

 キラ様は私と反対側の隣を勧める。


「よろしいのですか?」

「おっさんばっかりなんだよ! せめて両手に花でいたい!」

 慣れているんだろう。ブリンダさんは形だけ声をかけたようで、遠慮なく座った。美形度ではルーイに劣る私ですが、僭越ながら花の片方を務めさせていただきます!

 

 しばらくすると全員揃ったようだ。

 静かになった部屋で「お忙しい中、緊急に集まっていただいて恐縮です」と神官大臣が重々しく口を開く。

「ストロング辺境伯から巫女派遣要請がありました。速やかな対応を決議したいと思います」

 神官庁トップのこのおじさんは、神官畑出身の人ではなく純粋に政治家である。


 会議の内容に場がざわつき、ルーイも身体をびくりとさせて反応した。


「ドレインシュミット領に大規模な瘴気が現れたんですね」

 ストロング辺境伯はルーイの親戚だ。黙っていられなかったのだろう。


「<シェ=モングルドの森>に瘴気が認められた。魔獣も現れている。早急に数名の巫女を寄越してほしいそうだ」


「無主地か……」

 キラ様が呟いた。どの国にも属さない土地って事は。

「その森はオレーリア神王国の管轄なんですか」

 国境に接しているため国際法かなんかで決められているんだろうか。


「<シェ=モングルドの森>は神王国と隣のミトラ帝国との間にある不可侵地域です」

 ルーイが説明してくれた。


「地形も複雑で管理が難しくて、敢えて両国の緩衝地帯になったんだが」

 と、キラ王子が続ける。

「帝国側も<浄化>に動いてるかもな」

 厄介だと言わんばかりの顔だ。


「可能性は高いでしょう。国に被害が及ぶのは防ぎたいですからな」

 知らないお偉いさんがキラ王子の言葉を肯定した。


「セリナ神子様に出向してもらいたいのです」

 ルーイ直属の上司の総神官長だ。


「セリナ神子様が多大なる浄化結果を残したと聞いております。大神殿所属の巫女はそうそう貸し出せませんから、協力していただけると有難いですな」

 追随するのは治癒神官隊長だ。


 ルーイに敵対心を持っている奴らは私もちゃんと覚えているんだよ。

 顔色を変えて声を発しようとしたルーイの肩に手を置いて、発言を制する。


「オレーリア神王国も大した自衛体制は無いのですね。国境を守るのさえ巫女の出し惜しみをするとは」

 私は笑顔を絶やさずに喧嘩を売る。いや、先に売ったのはあっちだな。


「それとも<聖女>ですらない異世界人にも劣る実力しか、<神王国の巫女>は持たないのですかね」


「なっ!」


 おじさん連中が気色ばんだ。

 ブリンダさんとルーイは無表情だけど、キラ様は明らかに面白がっている。王族が味方なら遠慮はしないよ!


「勘違いしないでくださいませ。アシュロン守護神官隊長は私を観光旅行に連れて行ってくれたのですわ。行き先でたまたま目についた瘴気を浄化しただけ。この国に貢献する義理はありませんのよ」


 令嬢口調は許してほしい。威圧的でいいのよ、これが。


「<女神の神子>は客人だ。神官庁の連中はそれを理解していないようだな」

 初めて聞くキラ王子の厳しい口調だ。

「巫女は国の安定を担います。辺境であろうと出向きます。統括部長として巫女の侮辱とも取れる発言は看過出来ません」

 我慢できなかったらしいブリンダさんも参戦した。


「ご安心ください。強行軍も厭わない平民の巫女を選びます。令嬢巫女は行かせません」


「ブリンダちゃん、言うねえ。急ぎの日程でほぼ野宿だろうし、令嬢にはきついからそうしてもらえると助かるな」


 上層部は貴族だ。令嬢に気を遣うのは当然だ。しかしあからさまは駄目でしょ。

 巫女総括部長のブリンダさんは公爵家令嬢の元巫女で、<聖爵>を利用して初恋の守護神官に嫁いだんだって。こんな才色兼備上位令嬢を娶った男爵家次男、勝ち組すぎない? 格差婚ってロマンティックよねえ。

 そんな彼女とキラ王子の発言は上層部も無下に出来ない。


 あ、お偉いさんへの当て擦りなだけで、二人とも令嬢巫女たちをディスってるわけじゃないのは伝わったよ。

 さて、ここで神子様ムーブをかまそうか。


「でも女神ルリアニーナの寵愛を受けるこの国を守る事は、神子である私もやぶさかでございませんわ」


「二国が牽制しあった無主地に興味あるんだろ」


 こら、守護獣、余計な発言は帰ってからにしなさい。

 それだけじゃないわ。ルーイがヤンチャな少年時代を過ごした辺境地を見てみたいのよ。これって聖地巡礼?


「セリナちゃん、行ってくれるんだね?」

 第二王子様に頷いてみせる。


「じゃあ指揮官はルーイで決まりな。巫女と守護神官と護衛騎士の選出を急ごう」


「キラ殿下! 若輩の守護神官長には荷が重すぎるのでは!?」


「総神官長。ではお聞きするが、貴殿は浄化立会い経験はあるのかい?」

 キラ王子の反論に彼が言葉に詰まる。はーん、貴族の官職なのね。


「私以上の適任者はいないのでは?」

 無意識に煽っていくタイプのアシュロン氏。


 もう結論は出たでしょ。


「今日中に各部署、申請書を私の執務室に届けるように。では、かいさーん」


「王子様よ、いつもそんな態度なのか? ナメられそうだな」

 カピバラさんの不敬な言葉も全然気にしないキラ王子。薄ら笑みさえ浮かべている。

「軽薄さが目立ちますが、割と仕事は出来る方なんですよ」

「ルーイ、それって純粋に私を庇ってくれているんだよね!?」


 性格が逆だからか結構いいコンビよね。


 

 辺境からの緊急要請という事で、速やかに浄化隊は結成された。

 翌日、ルーイの屋敷に現れた馬車に、私たちは口をあんぐりとさせた。


「……キラ殿下、この馬車は?」

浄化隊指揮官のルーイが声を絞り出した。


「母上がさ、娘さんたちの負担が軽いようにと貸してくれたんだよねー。セリナちゃんと巫女三名とルーイ、カピバラさん用だよ!」


「王妃様専用馬車!?」

 そういう事だよね。銅色の馬車には王妃様の紋花であるバラが、同じく銅色のレリーフで飾られている。三頭立てで、六人掛け用の気品ある馬車だ。


「こんな豪華なの、畏れ多いって!」


「大丈夫だよ、セリナちゃん。これは王妃の肝入りですって知らしめる貸出用だから。あの方、金の馬車、二台持ってるし気にしないで」


 なんと宣伝用とな!?


「それより、どうして殿下が馭者をやってんですか。護衛騎乗騎士たちが馭者を護る不可解な体制になってるじゃないですか」


「ルーイ、そりゃ君たちの激励に決まってるじゃん」

 キラ王子は馭者台からひらりと降りる。わざわざ自分が手綱取る必要ある? 絵にはなるけどね?



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