表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コーヒーカップティラノ

作者: たのし




 親友の不思議ちゃんこと、ほのかちゃんが、他の人には内緒だよっと言わんばかりスススっと私に近づき、肩に顎を乗せヒソヒソ言った。


「今日うちにコーヒーカップティラノ見にこない?」


 コーヒーカップティラノ?また始まった不思議ちゃんの妄想癖が…そしていつもの様に付き合う調子で、また新しいぬいぐるみを作ったの?と聞いたが首を左右に振り違うと答え、新しく描いた絵本の話かな?っと聞くとそれも違うと答える。じゃーコーヒーカップティラノって何なの?って聞くと、小さいティラノって嬉しそうに答えた。


 小さいティラノ?意味が分からない。っと思ったのと同時に何億年前の大きい獰猛なティラノサウルスがコーヒーカップくらいの小ささになっている。っと言うギャップだけで、どんな玩具だろうがゲームだろうが萌えるに違いない。もし、萌えたら誕生日も近いしプレゼントに買って貰おう。そんな楽しみと下心を携え「じゃー放課後ランドセル置いたら遊びに行くね」っとほのかちゃんと約束した。


 そして、門限が17時半っと言う事もあり、急いで家に帰るとランドセルを玄関に投げ捨て、お母さんに後から宿題するからと一言添えてほのかちゃんの家まで走って向かった。


 インターホンを押すとすぐにほのかちゃんは出てきて、こっちこっちっと私をリビングに通してくれ、ちょっと座っててっとコーヒーカップティラノなる物を取りに2階に上がって行った。


 どんなおもちゃかな?可愛いぬいぐるみ?それとも新しい飼育型のゲームソフトかな?胸を躍らせながら待っていると、ほのかちゃんは、そろっと物音を立てずに2階から降りて来て、リビングの扉を開けた。


 両手には黄色の布が被せられた四角い箱を抱え「今、眠っているみたいだから静かにね」っとそっとテーブルに四角い箱を置いた。


「今眠っているの?」

「うん。眠ってるよ。ぽかぽか暖かったからきっと眠くなったのね」


 そう言うと、ほのかちゃんはテーブルの前に座り黄色い布が被った箱の前に座りうっとりと眺めていた。


 その光景を眺めていると、いくら不思議ちゃんのほのかちゃんでも私を呼び出しといて、この箱の中で小さなティラノのぬいぐるみを飼っていますっとなれば少し友達として一言言ってあげなければならない。そうよ。それがきっとこれから先のほのかちゃんのためにもなるわっと決意した時だった。


「ーーグルルル。グルルル」


「あっ。いびきだわ。可愛いわ。どんな夢みてるのかしら」


 頬をピンク色に染めうっとりと黄色い布が被せられた箱をつんつんっと触ると「寒くない?後から藁を敷き直してあげるね」っとこの箱の中にいるコーヒーカップティラノに保健体育で習った母性の様な物を抱いている様子だった。


 私のお腹ではないし、確かにこのテーブルの上にある箱の中から聞こえるいびきの様な音から何かしらの生き物がいる事には違いないと思い、うっとりと自分の世界に入りきっているほのかちゃんに「私、門限があるしそろそろコーヒーカップティラノを見せてよ」っと聞くと「いいよ。でも起きちゃったら可哀想だから、ゆっくりこっちに来て」っと少し横にお尻をスライドさせたので、向かいのソファからほのかちゃんの横に音を立てない様息を殺して移動した。


 私が横に座ると「行くよ」っと私達がいる側の黄色い布をそっと捲ると、ハムスター飼育用の箱の中に藁が敷き詰められおり、木で作られた楕円形の小屋とその横にプラスチックで囲われた水飲み場と餌を置く木製の小さなお皿が置かれていた。


「あそこ。あそこ」っと小さな声で囁くほのかちゃんの指差す方を見ると、頭はすっぽり藁に覆われているが、お腹から尻尾までは藁からはみ出していて、尻尾で身体を守る様に丸まって眠っている。お腹はグルルル。グルルルの音に合わせて上下運動をしており、繊細な皮で覆われているのか、お腹が凹むとトクトクと一定のリズムで脈を打っていて、時々身体全体がピクリっと動く。


 藁から出ているお腹から尻尾を更に観察すると、茶色っぽい色でお腹は白く、毛は生えていなくてゴツゴツと筋肉質。特に足は筋肉の筋が浮き出ており、伸びる足先には黒く光る鋭い爪が生えている。でも小さい。見えない頭を入れても私の片手くらいの大きさ位だ。


 身体半分しか見ていないけれど、萌えた。体だけ見たら凄く凶暴って感じ。だけど、小さくまとまって眠る姿に上手く説明できないけれど、弱々しさがあり、一瞬で可愛い。守ってあげたい。っと思った。


「ほのかちゃん。可愛い。凄く可愛い」


 隣に座るほのかちゃんに親指を立てて言うと「でしょ。でもまだまだ可愛さはこんな物じゃないんだから」っと私の好奇心を更に昂らせた。


「そろそろかな?」っとほのかちゃんは時計を確認するとキッチンへ向かい、戸棚からキッチンバサミとピンセットとおやつサラミを3つ持って来ると、私の横に座り1つを私にもう1つを自分の口の中に入れ、ティシュを敷くとその上で最後の1本をキッチンバサミで小さく切り始めた。


 おやつサラミを細かく切り終わると、ピューっと口笛を鳴らす。すると、頭に被っていた藁がザザッと反応を見せた。そして出ていたお腹から尻尾が同時に動作をはじめ、2本の小さな筋肉質の足で立ち上がろうとする。体に似つかわしくない大きな頭が藁から出て来ると辺りをキョロキョロと見渡し、ほのかちゃんがもう1度ピューっと口笛を吹くと後ろにいる私達の方を確認し、ふらふらのそのそと歩いて来る。


 全体の身体のバランスを考えると頭は大きい。3頭身か4頭身になる程の頭の大きさで、目は大きくて瞳は細く鋭い。あくびをする口の中は小さな尖った牙が丁寧に並んだU字型。前足は手羽先みたいな形をしていて、L型に閉じている。先端には黒い小さな爪がおまけ程度に付いており、立ち姿は体育でする小さく前に習えをしている様で一言で言うなら、精巧リアルな動くプラモデル。


 そして、まだ頭が重いのか時々頭を地面に落とし伏せの状態になる。その時私達方を大きい目とその中の細い瞳で上目遣いで見てくる。その姿と鋭い目のギャップで私の心は更に撃ち抜かれた。



 ほのかちゃんは口笛で寄ってきたコーヒーカップティラノに「おはよう」っと言うと、ピンセットで細かく切ったおやつサラミを1つを取ると格子状の柵の隙間から入れ、コーヒーカップティラノの口元に持って行く。匂いを嗅ぎガブリと食らい付くと、くちゃくちゃと小さく咀嚼音を出し重たい頭で見上げる動作をするとゴクリと飲み込んだ。味を占めたのか、キャーキャーっとゴツい身体からは似つかわしくない高い声で鳴くと欲しそうに口から涎を垂らしている。


「まだまだありますからね」っと2摘み、3摘みっとおやつサラミをあげていく。「私にもやらせてよ」っと言うとピンセットを渡してくれたので、食べやすい大きさのおやつサラミを取るとコーヒーカップティラノの口元に持って行った。大きく口を開けるとピンセットごと口の中に入れ、力強く引っ張りおやつサラミだけ器用に引っこ抜きくちゃくちゃと咀嚼音を立て飲み込んだ。


 次はわざとコーヒーカップティラノより少し遠くの柵からおやつサラミのピンセットを入れると、重たい頭をコツコツと柵にぶつけながらふらふらのそのそと歩くとガブリとピンセットを丸呑みし2、3度引っ張ると少し私を睨む様にゴクリと飲む混むとキャーキャーっと文句を言っている様だった。


「あんまりいじめちゃ駄目よ」

「ごめん。ごめん。可愛くってついつい…」


 とても気に入ったコーヒーカップティラノを欲しいって思った私はほのかちゃんに「何処のペットショップで買ったの?」っと聞くと「いやいや、流石にティラノサウルスはペットショップに売ってないわよ。天然ね」っとあのほのかちゃんに言われたので、ムスッとなり「なら、何処で買ったのよ」っと聞くと、「スーパーで買ったわ」っと答えた。


「ん…スーパー?あの野菜とかお肉とかお菓子とか売ってる?」


「そうよ。3丁目のあのスーパー」


 3丁目のスーパーはお母さんも良く買い物に行くので、ついていく事あるけど、コーヒーカップティラノなんて精肉売り場にも野菜売り場にも冷凍食品売り場でも見た事がない。


「コーヒーカップティラノはいくらだったの?」


「セールで158円だったかな?」


 もっと訳がわからなくなった。このゴツくて小さいコーヒーカップティラノがスーパーに売っていて、それにセールで158円なんて…そんなセールがあったら、絶対欲しい私は1週間前から店の前で待っているに決まっているわ。


「3丁目のスーパーで158円のセールで売ってるコーヒーカップティラノなんて聞いた事ないわ」


「売ってたの。Mサイズ10個入りパックの卵の中に」


「え?卵ってあの鶏から産まれる?」


「そうよ。先週、お母さんが3丁目のスーパーでMサイズ10個入り158円のセール品の卵を使って晩御飯にオムライスを作ってたら、1つだけ緑色で…割れてる卵があってよく見ると動いてるから気持ち悪いってお父さんに言ったら、お父さんが緑色の卵を捨てようと掴んだの。そしたら冷蔵庫に入れてた筈なのに温かいよって。もしかしたらヒヨコが孵化するかもって割れた卵の穴から中を覗いたの。するとね…嘴じゃなくて小さな牙が生えた大きな口が見えて、硬い殻をペンチで剥ぐと、小さく弱って丸まったこの子が出てきたの」


「じぁ、コーヒーカップティラノって品種とかじゃないの?」


「コーヒーカップティラノはお母さんとお父さんと私で決めた品種よ。この子以外にいる訳ないじゃない。もし、誰かに知られたらこの子は連れて行かれて、変な実験されて、殺されちゃうから秘密にしようってなったのよ。だから、絶対誰にも言ったら駄目だからね」


「もちろん。絶対秘密にする。可愛いからまた会いに来るね」


そして、コーヒーカップティラノに「また来るね」っと言うと、私を見て体を左右に揺らした。


私はほのかちゃんの家を出ると大急ぎで家に帰った。Mサイズ158円。Mサイズ158円と何度も忘れない様繰り返しながら。


玄関を開けるとキッチンにお母さんが晩御飯の支度をしている。


「お母さん。誕生日プレゼントなんだけど」


「そんなゼーゼー息切らしてどうしたの?何が欲しいの?」


「3丁目のスーパーのMサイズ10個入りでセールの時の158円の卵が欲しい」


「え?」


その後、何度も3丁目のスーパーで卵を買う度に1個1個確認しているが、コーヒーカップティラノの卵は見つけれていない。


そして、ほのかちゃんの家のコーヒーカップティラノはコーヒーカップより少し大きくなり、最近小型犬用の柵に引っ越しました。




おしまい。


tano

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ