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2、クラブ〈トナカイ〉の怪奇現象

 ランドの今回の任務は、依頼人の兄の、霊媒師ゲールを見つけ、深い眠りにおちいったフェリシアの魂を目覚めさせることだった。


 フェリシアの伯父で依頼人のシモンが、ゲールの失踪のいきさつを話しだす。


「おれは、アベロンの都市にある兄の住まいをおとずれた。ゲールの〈双子の魂〉館には、霊媒師の弟子ひとりしかいなかった」


 その弟子によると、ゲールは、先週の日曜日に会員制のクラブ〈トナカイ〉での降霊会に出かけたきり、3日たっても帰ってこないという。


「おれは、クラブ〈トナカイ〉で兄の消息をきいた。見るからに柄の悪い大男が、そんな男は知らない、降霊会なんか開いたこともない、と取りあわなかった」


 シモンは、クラブ〈トナカイ〉の噂を都市の住人にきいてまわった。その会員制のクラブは、盗賊団〈赤鼻〉のアジトらしいとわかった。


「おれは、兄が犯罪にまきこまれたとにらんでいる」


 シモンの聞き込みが正しければ、その可能性は高いとランドも感じた。


「お願いします」フェリシアの婚約者のオベリスが、すがるような眼差しでランドにうったえかけてきた。


 陽だまりのベッドのフェリシアは、うつろな瞳を天井に向けたままだ。霊媒師が、彼女の魂を呼びもどせるかどうかはわからない。とりあえずは――。


「わかりました。ゲールさんを探してみましょう」ランドは引きうけた。


 ランド、ゴーラ、チビットの一行は、かたいパンとスープの昼食をいただいて水車小屋を出発した。アベロンまでは徒歩で1時間ほどの距離だという。


「盗賊団〈赤鼻〉の一味が、霊媒師になんの用があったのかしら」


 チビットが、ゴーラの頭のこけの上からたずねた。


「死者の魂を現世に呼びもどしたかったんだろう。その死者の口から、盗賊団にとって都合の悪い事実がゲールの耳にはいったんじゃないか」


 ランドは自分の推測をあかした。


「じゃあ、ゲールは口をふうじられたかもしれないのね」


 それはありえる。ゲールが消されていたら、今回の依頼は達成できない。ランドは、心配してもしかたない可能性を頭からふりはらった。


 アベロンの都市に到着したのは昼下がりだった。塔をそなえた石造りの城壁が、短い影を落としていた。ランドとゴーラは、門衛に通行税をはらい、アーチ型の樫の門をぬけて市内にはいった。


 門前広場で、あんぐり開いたゴーラの大口からチビットが這いでてきた。1人につき1ゴールドの通行税をごまかしたのだ。あとでシモンに請求する必要経費に、その分が計上されるのは間違いない。


「どひー、苦しかったあ」チビットがあらい息をつく。


「うへっ、息苦しかったのはおいらのほうなんだな」ゴーラが不平をとなえた。


 体長20センチの妖精を口に入れていたのだから無理もない。


「門番のやつ、都市になんの用だ、日帰りか、宿泊するなら宿屋はどこだって、どれだけたずねるのよ。うたぐりぶかいんだわあ」


「それが門番の仕事なんだから、しかたないよ」


 ランドは、クラブ〈トナカイ〉の求人に応募すると答えた。職が決まれば、そこに住みこむ。そうでなければアベロンを立ちさると説明した。〈トナカイ〉の店名に、門番はうさんくさげな目つきをかえしていた。


 ランドは、チビットがなんのために金を貯めているのか疑問だった。チビットのかせいだ金は、ランドがあずかっている。チビットがそれを出すよう請求したことはない。使いみちのない金はたまるいっぽうだ。


「通行税をけちりたかったら、飛んで城門を超えればよかったじゃないか」


 ランドは、思いついた案を話した。


「飛行にも魔力が必要なのよ。もったいないじゃない」


 ただのしみったれなんだとランドは結論した。


 ランドはゴーラとチビットとともに門前広場からのびる目抜き通りを進んだ。


 アベロンは、都市の中央をカナヅチ川が流れる、外周4キロの城壁にかこまれた城塞都市だ。通りの両側には露店や商店、宿屋、居酒屋などがならび、多くの人であふれている。


 人なみのなかには、細身で背の高い、端正な顔がさかしらげなエルフや、屈強でずんぐりした、気むずかしそうなドワーフ、子供の背丈くらいで無邪気な顔つきのホビットもまじっている。


 行きかう市民は、ゴーラとその頭上のチビットに視線をなげるだけで、ほかの関心事や用事にいそがしそうだ。ゴーレムと妖精は、アベロンではそれほどめずらしい存在ではないのかもしれない。


 クラブ〈トナカイ〉の場所は、依頼人のシモンから教わっていた。


 ランドの一行は、客でにぎわう市場広場にはいった。市外の農家や漁師、交易商人などの屋台が所せましと並ぶなかをぬけ、盗賊通りにおれる。地面がむきだしの通りは細くいりくんでいる。四階建て木造家屋が左右に軒をならべる道は、いっそうせまく感じられた。


 この界隈の人通りはすくなかった。道ばたにたむろする黒マントの3人組の、フードごしの視線がこちらのふところぐあいを値踏みしているかのようだ。ランドは用心の神経をとぎすませた。


 曲がりくねった道の袋小路に、石造二階建ての、横に長い建物が姿をあらわした。その玄関ポーチのひさしに、〈トナカイ〉と木の看板がかかっている。


「ここだ」とランドは、窓がふたつある切妻屋根を見あげた。


 ランドはポーチの階段を上がり、ノッカーで樫のドアを叩いた。


 しばらく待ったが、返事はなかった。午後三時をつげる教会の鐘が鳴っている。ふつうの酒場なら、とっくに開店しているはずだ。


 ドアを押すと、誰かに引かれたように、すうっと開いた。明かりとりのない板張りの廊下に、ほこりのまう光りのすじがのびる。


 ランドは足音をしのばせて、一歩ふみこむ。視界のすみに、白い刃が一閃した。


「あんたは誰だ。会員以外は立ち入り禁止なんだけどねえ」


 ドアのわきにひそむ影が、ランドに短剣をつきつけているとわかった。


 廊下の奥からは、だみ声の讃美歌の斉唱が聞こえている。〈トナカイ〉はなんのクラブなんだ? 盗賊のアジトとではないのか、とランドはいぶかった。


「ここは降霊会のクラブだそうだね。粉ひきのシモンさんの紹介で来た」


「降霊会なんて開いたことないね。シモンてやつも知らない」


「じゃあ、ぼくの勘違いかな。有名な霊媒師ゲールの会だと聞いている。どんな迷える霊でも現世に呼びもどせると評判らしい」


「なにが有名なもんか」と影の男は声をあららげた。「あんなヘボじじいのことなんか知らないね。降霊会があんたの目的なら、とっとと帰れ」


「そうするよ」ランドは静かに体を引いた。


 樫の頑丈なドアが、拒絶するように音をたてて閉まった。


「なにが知らないね、よ」チビットが宙をまっている。「知っているから、ヘボじじいだなんて言えるんじゃない。ここはクラブに突撃よ」


「だめだよ。ゲールの失踪に赤鼻団がからんでいるのは間違いない。けれど、ゲールの行方はわかっていないんだ。ここで騒ぎを起こしたって、なにも解決しない。まずは霊媒師の居場所をつきとめないと」


 まだ生きていればだけど、という言葉をランドはのみこんだ。


 クラブ〈トナカイ〉の建物と、隣家のあいだに石畳の路地がつうじていた。ランドは、〈トナカイ〉の建物の周囲を偵察することにした。


 ランドと、チビットを頭にのせたゴーラは、幅2メートルの路地にはいった。クラブの建物の石壁にそって、鉄の手すりのある石段が地下に続いている。


 ランドは、ゴーラを先にたたせて階段をおりた。これは、うしろでつまずいたゴーラの岩の体に押しつぶされないための、いつもの用心だ。


 階段をおりきった先の地下室のドアにはカギがかかっていた。


 チビットが金色の光りをちらして、ドアノブの周囲をホバリングする。開錠の魔法(アンロック)で、かちりと錠前がまわった。


 ランドは、開いたドアから体をすべりこませる。ゴーラもそれに続いた。


 天井のすみの、細長い明かりとりの窓から、昼下がりの光りが地下室を横ぎっている。壁ぎわにワインの樽が並び、ベーコンや塩漬けの脂身がぶら下がっている。三段の棚に保存されているのは、にんじん、玉ねぎ、にんにく、豆類などの作物、袋詰めの香辛料や乾パンだった。


 食糧庫の奥の壁ぞいに、地上階に通じる石段がのびている。


 そのとき、ランドのするどい耳が、外の階段をおりてくる足音をとらえた。ランドとゴーラは、出入り口のドアの両側にすばやく身をひそめた。


 ほどなく、開いたドアの逆光のなかに、小柄な人影がうかびあがった。


 ランドは、地下室にはいってきた男の口を手でふさいで、そのまま石の床に押したおした。その背中に、どすんとゴーラの岩の尻がのっかった。うめく男の目の先に、短剣の刃をつきつける。


「静かにしないと、あんたの声帯を使いものにならなくするぞ」


 ランドは低い声でおどしてから、


「これから、いくつか質問をする。よけいなことを話したり、騒いだり、あばれたりしたら、あんたの肺はつぶれることになる」


 天井からさしこむ光りのなかの男の目に敵意がひらめいた。その30半ばの男は茶のドミノをまとい、ずれた頭巾から黒い総髪をのぞかせている。土でよごれた手には、もぞもぞと動く布袋をにぎっている。


「先週の日曜日にクラブ〈トナカイ〉で霊媒師ゲールの降霊会がおこなわれた。それ以来、行方不明のゲールの居どころをあんたは知っているはずだ」


「知っていたとしても、おれが口をわると思うか」


「ゴーラ」ランドの合図で、ゴーラが岩のかたまりの体重をかける。


 悲鳴で開きかかった男の口をランドはふさいだ。ゴーラの重みはしだいに増していく。男の顔色がむらさきに変わり、大量の脂汗がふきだしてきた。


「どうだ、質問に答える気になったか」


 相手は観念し、うんうんと首をうなずかせた。


 ランドの尋問で、クラブ〈トナカイ〉が盗賊団〈赤鼻〉のアジトだという噂は本当だと確かめられた。その男も〈赤鼻〉の一味でブーマーというらしい。


「ゲールのじいさんは生きている。このクラブに捕らえているんだ」


「なんのために捕らえた。どうして3日間、解放しないんだ」


「トンゴってやろうが仲間を裏切ったのが話の発端なんでさ」


 盗賊団〈赤鼻〉は、アベロン市長の娘の誕生祝いに購入された、大粒のサファイアを盗むのに成功した。それをトンゴが持ち逃げしたのだ。


「トンゴが売春宿にしけこんでいるのを見つけ、おれたちはその宿に押しいった。やつは二階の窓から逃げようとして転落し、首の骨をおっておだぶつになった。サファイアのありかはわからずじまいってわけなんだ」


 それでゲールにトンゴの霊をおろさせ、宝石のありかをはかせようとしたのだ。


 ゴーラの下敷きになったブーマーの手で、布袋がうごめいている。


「だったら、この中身はなんなんだな」


 腕をのばしたゴーラが布袋をうばいとった。そのなかをのぞきこんだチビットが「どひゃあ」と宙にまいあがった。袋のなかでは、いもむしや、むかで、イモリなどが、うじゃうじゃとひしめいている。


「降霊術に必要なんだそうで。ずいぶん苦労して集めたんですぜ」


 ブーマーがあわれっぽい声でうったえた。


 降霊術の触媒らしい。それをいまだに採取しているところをみると、


「トンゴの霊はまだ呼びだせていないのか」とランドはきいた。


「それがお笑いで、あのヘボじじいがなにを間違えたのか、おかしらのおふくろの霊をおろしちまったんでさ」


 赤鼻団の頭領の母親は、生前に修道院長をしていたという。


「おかしらはガキのころから、厳格なおふくろにしごかれてきたんだそうで。おかしらが10歳のとき、おふくろが亡くなると、厳しくしつけられた反動でぐれて、盗賊家業に足をふみいれたんでさ」


 その母親の霊が現世にあらわれたとたん、頭領は聖歌隊のリーダーみたいに行儀よくなったという。いまでも母親には頭が上がらないらしい。


 事情はわかった。ランドは、チビットの睡眠の魔法(スリープ)でブーマーを眠らせた。降霊術の触媒のはいった布袋は、ランドがベルトにあずかった。


 ランドとゴーラとチビットは、食糧庫の石段をあがった。揚げふたをどけて、はいあがった場所は厨房だった。その出入り口のドアの向こうから、男のだみ声の聖歌斉唱が聞こえてくる。


 ランドは厨房のドアを細く開いて、そっと外をのぞいた。


 そこは20×12メートルほどのクラブのホールになっていた。片側にカウンターがあり、6組の丸テーブルがおかれている。向かい側のステージでは、屈強な20数人の男が横三列に並んで合唱している。


 前列の中央で歌っているのは、180センチをこえる長身の、鼻のあたまの赤い男だ。盗賊団の頭領だろう。頭領が、筋肉のもりあがった体をしゃちほこばらせ、目をむき、鼻の穴を開いて、がなり声をあげている。


 がらの悪い聖歌隊の前で合唱指揮をするのは、50がらみの痩身の男だ。彼は灰色の髪をうなじまでたらし、黒いローブの背中をこちらに向けている。


 ステージに近いテーブル席には、白いウィンブルをかぶった、黒いダルマティカの恰幅のいい婦人がすわっている。その体の輪郭は、どこかおぼろげだ。頭領の母親の霊魂だろうか。


 聖歌の斉唱がおわった。かつての修道院長が、音のない拍手をする。


「ヨーゼフ、けっこうでした。あなたの清い心はあなたの歌声にもはっきりあらわれていましたよ。わたしは、あなたを生んだことを誇りに思います」


 赤い鼻の頭領が、母親の前に進みでた。


「ぼくの歌を気にいってもらえて、とてもうれしいよ。ママがいなくなってからも、ぼくはこのとおり清く正しく生きているからね」


「これで安心しました」修道院長が立ちあがった。


「ママ、お帰りですか」頭領の顔によろこびの色がうかぶ。


「いいえ。せっかくあなたが呼びもどしてくれたんですから、わたしは当分あの世には帰りません。現在の修道院長にご挨拶にうかがうつもりです。わたしが院長だったころも立派な人でしたが、わたしのあとを引きついだあとも、いっそうすばらしい人になっているでしょう」


 修道院長がおもむろにステージに進むと、さっとわれた聖歌隊のあいだに道ができた。院長がステージ奥の石壁を通りぬけて、クラブ〈トナカイ〉を出ていった。


「あのばばあ、ようやくおれの目の前から消えてくれた」


 赤鼻の頭領がいらだたしげに、丸テーブルにこぶしを叩きつけた。


「おかしらも、おふくろさんの前ではかたなしですねえ」


 不用意な発言をした子分の胸ぐらを、頭領の太く毛深い腕がつかんだ。


「二度といまみたいなことを言ってみろ、おまえの命はないと思え。おれの前でだろうと、誰の前であってもだ。わかったな」


 頭領の怒りのまなざしがつぎにむかったのは、指揮をしていた初老の男だ。浅黒い顔に、灰色のひげとあごひげをたくわえている。シモンから聞いた、霊媒師のゲールの特徴にあっている。


「おい、霊媒師、3日も休息したんだ。おまえの精神力も回復しているだろう。おれのおふくろを今すぐ霊界に戻すんだ」


 あの灰色の髪とひげの男がゲールだとランドは確信した。


「除霊の儀式に必要な触媒がまだそろっていないんですよ」


 ゲールの言う触媒とは、あの虫や爬虫類なのだろう。赤鼻の頭領はしびれをきらしたらしく、顔面を紅潮させて怒りの頂点に達しつつあるようだ。


「もう待てん。おふくろが修道院から帰ってくるまでに、いや、戻ってくるようなことがあったら、おまえの目玉をくりぬいて、その触媒といっしょに煮こんでやる。四六時中、おふくろにつきまとわれ、盗賊団の仕事はあがったりなんだ」


 腰からあざやかな手つきで抜いた隠しナイフをゲールの首につきつけ、


「おれは我慢の限界だ。わかったな」


 大男におどしつけられ、ゲールは細い体を震えあがらせている。


 すぐに助けださないと、こんどこそゲールの命にかかわる。ランドはそう判断した。20人以上の荒くれ集団のなかから、どうやってゲールを救出するか。


 もう猶予はない。不可視の魔法(インビジブルサイト)を利用することにした。これは術者のチビットを中心に半径60センチ、高さ180センチの範囲を相手から見えなくする。


 チビットが魔法を発動した。ランドは、チビットを頭にのせたゴーラと歩調をあわせてホールに出た。ゴーラの身長は低いが、横幅はある。魔法の効果範囲からふみださないよう慎重に足を進めた。


 ホールにいくつも並んだテーブル席のあいだを抜けていく。みしりみしりと板の床をふむゴーラの足音が気になった。


 ゴーラの岩の足が、ランドの革靴の足をふんだ。「痛い」


 赤鼻の頭領とゲール、ステージの盗賊の視線がこちらを向いた。


 ランドとゴーラはぴたりと静止した。赤鼻の盗賊団との距離は、いまや5メートルほどだ。相手から見えていないとわかっていても、集中する視線の圧力に、ランドは居心地の悪さをおぼえた。


「おまえら。誰か、痛がったやつはいないか」


 頭領の質問に、手下の誰もうなずかなかった。


「おい、霊媒師。おまえまた、おかしな霊を呼びだしたんじゃないだろうな。おまえの役目は、おれのおふくろを永遠にあの世にとどめておくことだ。いいな」


「わかりました。お母さまの除霊をやってみましょう。触媒なしでこころみるので、なにかさわりがあるかもしれません」


 そう前おき、ゲールが祈祷の文句をとなえながら、痩身を精いっぱいのばした。


 その間に、ランドとゴーラはゲールの背後にせまっていた。ゴーラの伸ばした腕が、ゲールの肩をつかんだとたん、霊媒師が悲鳴をあげた。


「ああっ」と盗賊団からもおどろきの声があがった。祈祷をはじめたとたん、空中から出現した岩の腕がゲールをわしづかみにしたのだから無理もない。


 ランドは、ゲールの体をゴーラの肩にかつぎあげるのを手伝った。


「霊媒師の顔が宙にういてる」盗賊団の1人が恐怖の声をあげた。


 ゲールの頭部だけが、魔法の効果範囲からはみだしているのだろう。ランドとゴーラは二人三脚の足どりで、ホール後方の出入り口に急いだ。


 外の廊下のつきあたりが玄関だ。前にランドに短剣をつきつけた見張りの男が、あっけにとられた表情で、玄関のドアの前に立ちつくしていた。見張りからは、ゲールのばたつくサンダルの足だけが見えているのだろう。


 ランドは、ベルトの短剣を投げつけた。その刃がドアに突きささり、見張りが悲鳴をあげて、廊下の壁に体を押しつけた。


 ゴーラの岩の体が、投石機からはなたれた弾丸のように、樫のドアを粉砕した。クラブ〈トナカイ〉を出て、ランドとゴーラは走りつづける。


 曲がりくねった盗賊通りのあちこちで、恐怖の叫びがあがった。


 クラブ〈トナカイ〉で発生した怪奇現象はこのあと語りぐさになり、霊能者としてのゲールの名声をいっそう高めるだろう。ゲールの救出に成功したランドは、そう確信した。



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