十悪②
「【扉】は――あいつも作れるのか?」
当たり前のように【扉】を使って消えたドラウを見て、目は席にへと座ったサフトに聞く。
現代世界では解明されていない未知の扉。
そんなものを自在に操れる人間が多数いることに驚いていた。
「うん。というか、ここにいる僕たち【十悪】は――全員、作れるよ。世界を繋げる力を、あの人から預かってるからね」
「世界を繋げる……?」
それは一体どういうことなのか。目は更に問い詰めようとするが、
「その辺は、あの人にあった時に聞いてみてよ。折角の貴重な対話を僕が邪魔するわけには行かないからさ」
あの人。
それが誰を指しているのか。目は見当が付いていた。
(どうやら、あの少年が【十悪】のトップのようだな)
そう考えれば辻褄が合う。突如として姿を見せたことも自在に【扉】を開いて移動できるのであれば説明が付く。
だが、今の目に必要なのは理解でなく力。【扉】を開く力があるのであれば、手に入れたい。
その焦りからサフトに近寄り、力の催促を促す。
「俺は別に構わない。誰だろうと俺を強くするのならば――」
「早く、紹介……して」
目の言葉を遮ったのは呪い言葉のように、暗くしわがれた声だった。その声が金色の長髪にある内側から放たれた声だと気付くのに、目は十秒ほど時間を要した。
鮮やかな髪色とは正反対の黒い声。
性別すらも塗りつぶされたかのような声に目は言う。
「紹介なんてする必要はない。俺は二度と組織に属する気はない」
人が徒党を組めばどうなるのか。目は【磯川班】で痛いほど経験をしていた。自分だけでなく妹までもが心を壊されたのだ。
目の言葉に、「そう……なの」と、掠れた声で彼女は答えると、円卓から立ち上がり【扉】を作って見せた。
手にした人形を子供のように抱きかかえて黒い渦に消えていく。残ったメンバーはサフトとモウゴの2人だけだった。
モウゴがいなくなった金色の髪の変わりと言わんばかりに、目に聞く。
「おや。じゃあ、なぜ、君はここにいるんだ? だったら、最初から来なければいいのではないかな? 来ておきながらその言いぐさは感じが悪い。ましてや、力だけ手にしようなんて流石に都合が良すぎやしないか?」
「そりゃそうだろ。誰だって都合が良いほうが良い。それに、俺がここにいる理由も、サフトが俺の攻撃を躱してみせた。それだけで俺が勝てないのは分かったからな。だから、従った。それだけのことだ」
「……そうか。だったら、私が良い事を教えてあげよう」
モウゴの視線が鋭く強く目を捕えた。モウゴが発する殺気に気圧され、後ずさりし、最後には尻もちを付く。
「ここにいる【十悪】は、全員が君よりも強い。彼らが生意気な君を殺さなかったのは、あの人が仲間と認めたからだ。そこは勘違いしない方が良い。何かあれば直ぐに殺せると言うことを――忘れないでくれたまえ」
モウゴはそう言い残して席を立つ。
そして、去っていった2人と同じように【扉】を開いて、自身の世界に帰ろうとする。
「あ、モウゴ、ちょっと待って」
「……なんだい? サフト。私はもう顔合わせは充分果たしたと思うんだけど」
「うん。ばっちしな対応だったと思うよ! 僕の予想通りだよ。そんな僕の予想はもう一つあるんだけどいいかな?」
「……やれやれ。嫌な予感はするが、可愛い末席の子の頼みだ。聞くだけ聞いてあげようではないか」
「ありがと! それでね、僕の予想っていうのは、目くんがモウゴの元で共に生活したら、もっと強くなれると思うんだ。だから、しばらく行動を共にしてくれないかな?」
サフトの申し出に驚いたような表情を浮かべる。提案にこそ驚いたようだが、行動を共にすること事態は否定的でないのか、「私は構わないが……」と、曖昧に頷いた。
「本当!? 良かった~。目くんに必要な物はさ、【十悪】の中で、間違いなくモウゴが一番持ってると思うんだ」
「……とかいいながら、本当に【十悪】に相応しいか、私に確かめろと言っているのか。相変わらず純粋な笑みで人を使おうとするのだな、サフトは」
「まあね。僕はそうやって生きてきたから」
「ふふふ。まあいい。サフトの言う通り彼の面倒はしばらく私が見ようではないか」
「ありがと! じゃあ、僕は……ドラウの所にでも行ってこようかな」
サフトは言いながら翼を広げる。天井にはステンドグラスで作られたかのような美しい【扉】が開かれた。
黒い羽根が色彩豊かなガラスを黒く染めて消えていく。
「サフトは本当にいい子だね。じゃあ、私たちも行くとしようか? おや、なんだ、その目は。まさか、あれだけの醜態を晒しながら、まだ反抗しようなんて気はないと思うのだけど、どうだい?」
「……」
揶揄うように言葉を畳みかけるモウゴ。
目は屈辱を覚えると同時に、心の片隅で歓喜する自分がいることを感じていた。
(これだ。力があれば――僕もこれが出来る)
天秤を与えるも与えないも、重いも軽いも全てを決定する力。
これだけの力があれば絶望に導くことなど容易い。
「ふふ。なんだ、良い目をするじゃないか。少しばかり楽しみになってきたよ。じゃあ、行こうか――私の世界へ」
目に未来を見通す力はない。
故に【磯川班】で間違えた選択を、また、繰り返していることなど――当然、知る由もなかった。
一旦、これにて物語を終わろうと思います。
もし、ここまで読んでくださった方がいましたら、深く感謝します。




