復讐サイド 2話 十悪 ①
【扉】を潜った先は巨大な城だった。日本のような城ではなく、おとぎ話にでも出てくるような外観。その昔、目が幼かったころ、遠足で一度だけ行ったことがある遊園地に建築されていた城に似ていた。
少し懐かしい気持ちを抱いて城の中に入る。外観こそ立派であったが中に入ると、ここ数年はロクに手入れがされていないのだろうか。床に敷かれたカーペットは硬く、埃が歩くたびに舞う。埃に眉を顰めながら歩くと、城中央部に辿り着いた。広さは体育館程の広さがあった。
この広間の壁は貴重な石材で出来ているらしく、これまで通った通路と色も材質も違っており、光沢を帯びた黒い石材だった。
黒く光る石材がより、重厚な雰囲気を醸し出す。
そんな広間に置かれているのは巨大な円卓。
等間隔で椅子が10個並べられており、円卓の中心はドーナツ状に穴が空いた。開いた空洞部には、突起するような台座に一際巨大な椅子が鎮座していた。
玉座とも言うべき絢爛さだ。
広間に入るなり黒い羽根を持つ少年は、円卓に座る人数を数えて小さくため息を吐く。
「1、2……3。うん。やっぱり、全員は来てないよね」
その言葉の通り埋まっている椅子は10ある内の3つ。一番端に座っている人物は金色の長髪で顔を隠しており、手に持った人形で1人遊んでいた。
一人は黒い羽根の少年が姿を見せるなり、親しみを込めた声を掛ける。
「やあ、遅かったじゃないか。君が時間に送れるなんて珍しい。私は心配で夜も眠れなかったよ」
「もう、やめてよ。集合は今日だから、まだ、夜は迎えてないはずだよ、モウゴ。相変わらず適当なことばかりだね」
「適当とは失礼な。心配する気持ちは本物なんだけどな」
黒い羽根を持つ少年は心配の声を上げる男の隣に座った。
彼はモウゴと言うらしい。椅子に座っているので性格な背丈は分からないが、それでも細長い体型なのが分かる。
円卓の下で組まれた足は、見るからに胴体よりも長かった。
整った顔立ちを惜しげもなく晒すように長い髪をオールバックで纏めている。掛けている眼鏡が恐ろしく似合っていない。如何にも無理矢理付け足したような印象だった。
自らも席に着いた少年は「ようこそ、【十悪】へ。と言っても、これじゃあ、【五悪】だけどね」と、羽を揺らした。
この場にいるのは目を含めて5人。
どうやら、この場所に来た時点で目も仲間だとカウントされているようだった。
「勝手に数に入れないでくれ。俺はまだ入るとも言っていない」
「えー。そんなこと言わずにさ。皆、歓迎してるよ。ね、ドラウ?」
二つ離れた席に座る最後の1人に声を掛ける。
深い緑の白衣を来た男だった。着ているのは白衣だけなのか、短い丈が椅子に座ることで、かなり際どいラインで人として大事な部分を隠していた。
見る人が見たら汚らしいと感じてします姿だった。
目は、その男を見ないように視線を外した。
「り~ひっひっひ。そうですねぇ。歓迎はしてませんねぇ。私もあなた達と仲間になった気はありませんので、これを機に数を減らしてはどうですか?」
視線は外しても不快いな笑い声が目の耳に入ってくる。他のメンバーも感じている思いは近しいようで、モウゴが背を大きくのけ反らして言う。
「だとしたら、私は最後までドラウ。君に残っていて欲しいよ。私は君ほど大事に思う人間はいないからねぇ」
「り~ひっひっひ。凌辱的に気持ち悪いことを言わないで下さいよ、モウゴ。君が私を嫌っているように、私も君を嫌いなんですからねぇ」
「はっはっは。また嬉しいことを言ってくれるじゃないか。後でゆっくり話し合いでもしようか?」
話し合いというが、明らかに言葉で語る気はないようだ。挑発的にモウゴは掛けた眼鏡の位置を直した。
ドラウは長髪に答えるように右手を上げるが、すぐに何かに気付いたのか手を落として、不快な笑い声を返すのだった。
「り~ひっひっひ。り、そうでした。私は今、面白い相手を見つけたんですよ。彼らを倒すまでは――この勝負はお預けにしてあげましょう?」
「ふん。一々、相手によって自分を作り変えるなんて本当、勤勉で尊敬しかないよ。私は感動し高ぶっている。」
モウゴは詰まらなそうに椅子に座りなおし円卓に肘を付く。
2人の言い合いが一通り落ち着いたのを見計らい少年が言う。
「とかいいながら、ドラウはちゃんと来てくれてるじゃない。ドラウは本当はいい子なんでよね」
「い、良い子など! あなたに子供扱いされたくありませんよ、サフト」
黒い羽根の少年――サフトは笑う。
子ども扱いされたことが嫌だったのか、「り~ひっひ、り。そんなことでしたら、私は帰りますよ。新入りの顔も見れたことですしね」
「あ、ちょっと、待って」
席を立ったドラウを引き留め、2人で何やら話を始める。
サフトの言葉にドラウの表情が狂気に歪んだ。
「本当ですか?」
「うん。でも、あまり大きな声で言わないでね。彼らは他の人にも狙われてるみたいでさ。その人に横取りされる可能性もあるから」
「その人……? ああ、なるほどですねぇ~。では、後で招待状を用意して置くので、是非、彼らに届けてください」
「招待状って、ほんと、そういう無駄に凝ること好きだよね、ドラウは」
「あなたには負けますよ。では、私は理想像を作ることに専念したいので――」
ドラウはそう言って手を前に翳す。すると、何もない場所から獣が口を開くようにして、【扉】が現れた。
ドラウが中に入ると【扉】は、広間の景色に溶け込んでいった。