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復讐サイド 1話 異世界からの誘い

 さかん ゆうは名残惜しそうに眼下に建てられた平屋を眺めていた。家というよりもプレハブ小屋に近いその建物は、さかんが19年間育ってきた場所だった。

 玄関の前で毛布に包まれて眠る妹のゆう

 本当は家の中まで送り届け、4人の弟、妹の頭を撫でて別れたいが――今の自分にはその資格がないことを、さかんは受け止めていた。

 自分はもう人間じゃない。

 化け物だ。

 愛すべき家族を化け物の手で触れる訳にはいかない。

 瞳を閉じ心の中で家族の顔を思い出す。

 心の中の家族は笑顔だ。

 それならば、まだ、頑張れる。


「行くか」


 さかんが目指す場所は決めていた。【ダンジョン防衛隊――本部】だ。本部であれば全隊員のデータが保管されている筈。

 追放されたと言う臆病者、瀬名せな りきの情報も残っているかもしれない。そうすれば、きっと居場所が分かる。


「これは復讐だ……」


 自分が化け物になってしまった因縁を果たす。【磯川班】という人間の腐敗が集まったような集団に、なんの罰も与えず自分だけ逃げた罪を断罪するのだ。

 それこそが、自分に残された最後の使命だと――さかんは自分に言い聞かせる。

 我が家を離れ、ゆっくりと歩き出す。

 すると、さかんの道を塞ぐようにして、1人の人間が現れた。

 黒い羽根を散らして微笑む。

 中性的な顔立ちは性別の判断が難しかった。


「誰だ、お前は……?」


「僕は――君の仲間って言っておこうかな」


「仲間……? 俺にはそんな存在はいないし、必要もない」


「またまた、そんなこと言わないでくださいよ。君も力を貰ったんでしょ?」


「力――」


 さかんは自身の手を見つめる。【磯川班】を消滅させたあの力。そして、その時に現れた未知の少年。


「そうそう。話はあの人から聞いてるからさ。取り敢えず、付いてきてよ。歓迎する」


「……断ると言ったらどうする?」


「うーん。僕たちは基本、個人の意見を尊重する集団だから、別にこなくてもいいんだけど、今回は新たなる仲間であり、最後の仲間でもある君を紹介したいから――来て貰わないと困るかな」


「黙れ!!」


 さかんは自身の力を発動する。建物ごと消滅させる力を正面から受けた少年は跡形もなく消えたかに見えたが――、


「ギリギリセーフ!」


 両手を水平に開いて笑って見せた。開いた腕を戻し、今度は自身の顔を守るようにして構える。


「どうする? 僕も本気を出していいなら、戦うけど――」


 さかんは考える。

 今、この少年はどうやって自分の攻撃を躱して見せた?

 素早く身体を動かした訳でもない。

 攻撃で相殺した訳でもない。

 となれば考えられるのは、当然、自分と同じく未知の特殊能力を手にしていると言うこと。

 ならば、ここで殺意のない相手と無理に争う必要はない。

 時間と命の消耗は避けるほうが利口だ。

 いざとなれば逃げればいい。

 さかんは頭の中で、思考をしたのちに出した結論を少年に伝える。


「……分かった。付いていこう」


「あれ? 意外に物分かりがいいな。もうちょっと反抗すると思ったんだけど?」


「反抗してもいいけど、互いに無駄なだけだろ。僕は殺したいやつが殺せればそれでいいだけだ」


「……へー。意外に賢いじゃない」


 さかんの態度に少し驚きつつも、構えを解いて背に付けた黒い羽根を広げた。

 翼で起きた風がさかんの髪を揺らし、周囲の砂や埃を巻き上げる。飛来する砂埃に目を手で守っていると、羽の内側から黒く渦巻く【ダンジョン】が現れた。

 突如として現れた扉に、今度はさかんが驚く。


「……自在に【ダンジョン】が出せるのか?」


「自在ってわけじゃないけどね。ほら、早く入ってよ」


「……」


 さかんは、連れていかれる場所が【ダンジョン】だと分かり、中に入るのを躊躇う。その理由はさかんが【ダンジョン防衛隊】に所属していたために、【ダンジョン】の中に入る危険性を熟知していたからだ。


ダンジョン】の中では動きが鈍り、呼吸さえも困難になる。

 そんな場所では逃げることすら不可能。

 逃げることならば達せられると思っていたが、その可能性を潰された。【ダンジョン】を見て警戒を強くしたさかんに、「あ、そうか」と、少年は手を打つ。


「異世界の特性知ってるんだっけ? だったら、尚更大丈夫だよ。むしろ、僕たちが特別であることが、実感できると思うよ?」


「……」


「ま、ビビッてなければだけどね。僕としてはこんな誘いにも乗れない臆病者が仲間に入るのは御免だから、こないならこないでいいよ」


 黒い羽根を持つ少年はそう言って自らが開いた【ダンジョン】に消えていく。


「なんなんだよ、あいつ」


 こないと困るなどと言っていたくせに、手の平を返し去って行った。

 言葉の通り、【ダンジョン】に入らずに引き返せばいい。

 だが、この力をもし手に入れられるのならば――。


「俺はもっと強くなる。全ては復讐のために」


 どれだけの絶望を与えることが出来るのか。

 力はあればあるだけ良い。

 復讐に取りつかれたさかんの考えは狂い始めていた。

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