45話 創造されし、三つの組み合わせ
指定された場所は、かつて、俺が滅ぼした村だった。
いや、かつて村であった場所だ。
人々が暮らしていた家は消え、今では削れた巨大な地面があるのみ。
その中心に――ドラウはいた。
「りーひっひ、り。待ちくたびれましたよ。というか、こないんじゃないかと思ってたんですけど、偉いですね。ちゃんと来ましたか」
後ろで腕を組んで身体を逸らして笑う。
何度聞いても耳障りな笑い方。俺はその笑みに眉を顰めなて周りを観察する。この場所は幸か不幸か俺が全てを消滅させた場所。そのために見晴らしは良い。中心で笑うドラウの他に姿は見えなかった。
ガイが俺の頭の上で挑発する。
「当たりめぇだろ! そういうお前こそ、ちゃーんと強い仲間引きつれてきたのか? こっちは十悪とやら全員相手でも構いやしないんだ」
「りーひっひっひっひ、り、ひひひ、り。そうですか。笑わせないでください。あなた達など私で十分。あなた達が負けた時は、私が有効活用してあげるので安心してください?」
「有効活用……?」
首を傾げる俺にドラウが言った。
「おや、ひょっとしてあなた方は気付いていないのですか? 私の実験に!」
「実験だと?」
「はい。そうです。人間に生物を繋ぎ合わせる実験です」
その言葉に俺は直ぐにドラウが言いたいであろう事に行きついた。
「まさか!」
「ふふふ。そう、あれこそ私が作った生物なのです。よくできてたでしょう?」
廃病院で戦ったコウモリ男。あの【魔物】は複数の特徴を持っていた。
そして俺達が苦戦した植物男。
あの二匹はドラウが作り出した【魔物】であるということか。しかも、人間を使ってだ。
許せない……。
「おお怖い。そんな顔しないで下さいよ。大丈夫、安心してください。人間で欲しいのは肉体のみ。ちゃんと殺してから使ってるので、あなた方は手を下してないですよ」
「そんなことで怒ってんじゃねぇんだよ!」
ドラウは俺が、自らの手で殺めてしまったことを怒りの原因だと思ったようだが――ふざけるな。
それ以前の問題だ。
俺は感情を整理することなく叫んだ。
怒りに呼応するようにガイが黙って【鎧】となった。
「なんでそんな人を弄ぶことを……」
俺の問いかけにドラウは悪びれずに笑って見せる。その笑みは他者を見下す者の笑みだった。俺が【ダンジョン防衛隊】で幾度と向けられた表情と同じだった。
「簡単なことですよ。私がやりたかったからです。私は見ての通り医者でしてね。それはもう、優秀で優秀で人の命を何度も救ってきました」
「なら、なおさらなんで人の命を狙うんさ? 異世界じゃ医者は人を殺すことが仕事なのか?」
この世界の医者と異世界では名称こそ同じだが内容が違うのだろうか?
だが、ドラウは俺の問いかけに、「同じですけど?」と身体が地面と水平になるまで傾けた。
「同じならなんで! 人を殺して人体実験を行うんだよ! やってることが逆じゃないか!!」
「逆? それはあなた方の方でしょう!!」
常に笑っていたドラウであったが、初めて――怒りを見せた。
子供のように地面を何度も踏みつる。
「私はこれまで何度も他の生物と人を繋ぎ合わせて救ってきました。足を失った男には馬の足を。腕を無くした女には猿の腕を。だが、彼ら彼女らは救われたことに対して「ふざけるな。今すぐ戻せ」と言ったんです! なんでもいいから治せと求めたのは誰だ! どの口が言っている!!」
激高するドラウの言葉に俺は何も言えなくなる。
生物と生物を組み合わせる力を持ったドラウ。その力を使って人々を救ってきたのだろう。だが、その行為は人に受け入れられなかった。
失っているときはどんなものでも埋めたいと願うが、手に入れた途端に文句を言う。
そんな人間は確かに存在する。
その言葉が――ドラウを凶行に走らせたのか。
溜められた怒りはまだ収まらない。
「さあ、おかしいのはどっちで真実はどれだ! 自分が言った真実に背き奴らは私を訴え、追放した! それどころか、何度も私は殺されそうになった」
正当な理由で多数を得た人間は――どこまでも残酷だ。
その残酷さを1人で受けたのか。
しかし、だけど――。
「それが人を殺していい理由にはならないよ。それだけの力があるんだから――他の方法探せば良かったんだよ」
『全くの同感だ。綺麗な言葉で自分の行いを正当化してんじゃねぇよ』
俺とガイの言葉に笑顔を消して悲しそうに息を吐く。
「すいません。凡人には理解できなかったですね。ですから、望み通り話はやめて戦いましょうか。出でよ、『ザ・サード』!!」
ドラウが手を振るうとそこから1人の人間が現れた。
いや、それは人間と呼んでいいのだろうか?
姿形はこれまで戦ったコウモリ男と植物男よりも人間に近い姿をしていた。上半身は人そのもの。
だが、右手には毛に覆われ異様なほど筋肉が発達しており、左手に関しては腕ですらなかった。肩から蛇のような生物が生え身体を揺らす。
下半身は昆虫のように細い足。
「なんだよ……これ」
さんざん、【魔物】を見てきたが――なんという化け物だ。
感情のない顔は殺される恐怖が張り付いたまま利用されていた。
悪趣味にもほどがあるだろ……。
「いけ、『ザ・サード』!!」
ドラウの命令に従い攻撃を始める。左腕の蛇が肩口から宙を這って伸びる。どうやら、身体を自在に伸縮させることが可能な【魔物】らしい。
だが、移動速度は普通だ。見切れないほどの速さではない。俺は伸びた蛇の攻撃をスウェーで躱し、伸びきった胴体を掴んだ。
「こんな身体にされてしまって悲しいよな……。俺が救うからもうちょっと耐えてくれ」
「救う? りーひっひっひ。り、そうじゃないでしょう? 彼は死んでるんですよ? そもそも、あなたは1人と一匹で創った【創造獣】にすら勝てなかったのです。その三倍ですよ! 簡単に倒せる訳がないでしょう!!」
簡単に倒せない。
その言葉の通り、掴んだ俺の腕を支えにして、蛇が胴体が身体を縮めて一気に距離を詰める。
『な、おい、ちょっとそりゃヤバいって!!』
移動をしながらも『ザ・サード』と名付けられた【魔物】は攻撃態勢に移行する。
右腕に付けられた獣の腕。
その特性なのか、只ですら人間よりも筋力を持った腕が何倍にも膨らんでいた。握った指が俺と同じサイズだ。
俺は掴んでいた腕を離して頭上に飛ぶ。
「こいつ!」
俺の行動に即座に反応し同じように空中へと跳ねる。
その高さは俺よりも高く、地面に叩きつけるようにして右手を振るった。
咄嗟に防御体制を取るがバレーボールの如く打ち抜かれ地面に叩きつけられた。
「が……」
「どうです? 【風船猿】の腕は? 身体に空気を入れて自在に膨らむことが出来るんですよ」
『大丈夫か、リキ!? こいつ、パワーも速さもトリッキーさも全部持ってるのかよ……』
しかも、意識が統一化されているからか、動きに無駄がない。剥き出しになった地質はゴツゴツとしており、俺はその一つを支えに立ち上がる。
「どうしたんですか? まさか、その状態で私に勝てると思ってるのですか? り~ひっひっ、非常に甘い。早くあの【黒い鎧】を使ったらどうですか?」
『俺達だって使いたいんだよ!』
「まあ、使おうが使わまいが結果は同じなのでいいんですけど!」
『じゃあ、聞くんじゃねぇよ!」




