36話 異世界人の現代化
「ガイ、川津 海未を見なかったか?」
翌日。
昼になろうというのに、川津 海未は一向に姿を見せなかった。
俺よりも先に起きてリビングにいたガイに聞くが、「あん? 俺は知らねぇけど」と、知らない様子だった。
「まさか、あの後――帰ってきてないのか?」
俺の脳裏にある予感が浮かび上がる。
玄関に行き川津 海未の靴が置かれているのか確認する。玄関に靴はなかった。ならば、やはり、この家には帰ってきていないことになる。
俺は廊下を走り川津 海未の部屋を目指す。
ノックもせずに扉を開けると――俺の予想通りの【葉】がフローリングに落ちていた。
「これって……、行方不明者の部屋にあったって言う【葉】だよな?」
ガイが部屋に入り【葉】を拾う。
見た目はどこにでもあるような、変哲もない植物のようだった。
「恐らくは……」
そう言うことか。
俺達は既に知っていたではないか。
行方不明者たちにあった共通点を。
それは「やる気」だ。
堀井さんも言っていたし――川津 海未が手に入れた情報の中にもあった。それが分かっていれば、常に川津 海未を見張っていたのに。
俺は川津 海未が張り切っているのは、自分と同じ境遇の子を作りたくないからだと勝手に思っていた。
いや、実際にそれもあったのだろう。
だから、俺とガイは気付けなかった。
「でも、それが分かったからってどうすればいいんだ?」
立花さんに頼んで、ここ数日で「やる気」を出した子供たちを見張って貰うか?
いや、駄目だ。
そんなことしたら、守るべき対象人物が多くなってしまう。
「一番、速いのは川津 海未を見つけることなんだけど……」
携帯に連絡をする。
電源は入っているようだが、応答はない。
くそ。
どうやって探せばいいんだ?
闇雲に探して見つかるわけはない。いなくなった子供たちの共通点こそ見つけれど、どこに行ったのかは見当が付かないのだ。
1人焦る俺の下で――ガイが不敵に笑った。
「ふっふっふっふ」
「何笑ってんだよ、そんな余裕ないだろ」
「いや、あるっつたらどうするよ?」
余裕がある?
どういうことだ?
白丞さんの予知にこんな物語はなかったはずだ。今、俺達が白丞さん以外で【魔物】の情報を得る術はない。
しかし、ガイは自分の意見に余程自身があるのか、笑みを浮かべたまま、俺が握るスマホを指さした。
「その画面を見たらどうだ? きっとリキが望んでるものが――手に入るぜ?」
スマホの画面?
言われるがままに画面を見る。
ロックを解除すると画面に均等の大きさをした四角いアイコンが24個並んでいるだけだ。
ここに何があると言うのだろう?
ガイは自分の考えに気付かないことに我慢が出来ないのか、俺の足を伝い手まで登ってくる。そして、画面を二回、右にスクロールさせる。
「これだよ、これ」
そう言ってガイは何かのアプリをタッチする。
ガイが起動させたのは【追跡アプリ】だった。
登録している相手と互いの居場所が分かる機能を持った――今、まさに俺達に必要なモノだった。
だが、俺はこんなアプリを入れた記憶はない。
「な、こんなのいつの間に!?」
ということはガイが勝手に操作したのか。
前から人の携帯を操作して技名を調べたりはしていたが、遂にはアプリまでダウンロードする知識を手に入れたか。
異世界人の機器的進歩に感動すら覚えるよ。
「そ。じ、実はよぉ、2人の端末にこんなこともあろうかと思ってさ、これをダウンロードしといたんだ」
「こんなこともあろうかとって――」
どんな想像力だよ。
白丞さんの予知もびっくりだ。
だが、そう言えば、こんな場面をどこかで見た気がする。
現実ではなく――。
そうか、画面の中だ。
いつだが、ガイが見てたドラマ。
あの時、影響されて行動に移していたのか。
異世界人の現代化がここにきて役に立つとは。
今はその行動に感謝するしかない。
「ナイスだ! ガイ!」
起動したアプリを見る。
操作は至って簡単で、登録した相手の名前を触ると、現在地が地図に表示される仕組みになっていた。




