追放サイド 7話 誘い嘘つき
それから1か月が経過した。【特殊装甲】を任された目は日々の訓練をこなし実戦に向けて備えていた。
ここで実績を残し、多少の意見を聞いて貰えるようにする。そうすれば【磯川班】とも縁を切れる。
目が一人で【扉】を防衛して以降、隊員達の嫌がらせが大人しくなっている今がチャンスだ。
そう考えると、この程度のトレーニングでは、まだ足りない。
もう1セット身体を鍛えようと機器に向かい合う。
「お、いたいた。探したぞ、メスイヌくん!」
岩間が訓練室にやってきた。
バーベルを下ろして身体を起こす目に、ドリンクとタオルを投げ渡しながら言う。
「【特殊装甲】を持つ俺達でチームワームを磨いた方がいいと思うんだ」
「はぁ。なんでまた? 怪しいですね」
「まあ、そう思うわな。ぶっちゃけて言うと俺だって誘いたくはないさ。でも、ある程度自由になるには、それなりの成果あげないといけないからな。そのためにも【特殊装甲】を持つ俺達は相当重要なポジションなんだよ」
「楽するために僕を利用したいってわけですか。岩間さんが考えそうなことですね」
「てめぇ.....。いや、まぁ、そういうことだ。理解が早いくて助かるよ」
だが、そう言うことならばこちらとしてもお願いしたい所だ。
目的は違えどやることは一致している。ならば、成果を上げるために手を組むのはありかも知れない。
岩間の提案を飲んだ目は、翌日、【磯川班駐屯地】から数時間離れた場所にある【門扉】にやってきていた。
中学校に【扉】が現れ膨大な被害を生んだ。
自分と同世代の子供たちを思い目は黙とうを捧げる。
入口に向けて歩いていくと【壁】の一部が崩れ修復している最中だった。【魔物】に壊されたのか?
いや、それは有り得ない。
この場所には【竜戦の英雄】と並ぶもう一人の英雄がいるのだから。
きっと磯川班のような隊員達が壊したのだろうな。
「よぉ、手続きはしておいた。早速入ろうぜ?」
中に入ると岩間が既に手続きをしていたようだ。【門扉】を管理する隊員から、確認書類を渡された。
中で何が起きても自己責任という念書だ。
拇印して目、岩間、浅田の三人は中に入っていく。
「ふぅ……。この感覚――久しぶりだな」
全身を襲う徒労感、脱力感。
【扉】に入ると力が力が失われる感覚を味わうのは久しくなかった。
校舎の中を探索していく。
無数にあるかつては教室だったものも今では【扉《ダンジョン】の一部となっているようだった。
周囲に【魔物】がいないか、探索していると階段の踊り場に【涅】がいた。
「……思い出したくないもん思い出したな」
そう言って目は心臓を押さえた。死の恐怖が冷えた痛みとなって心臓を突き刺す。
「【扉】に慣れるためにも、まずはこいつを準備運動がてら狩るか、準備はいいな、浅田、メスイヌくん!」
目は背後から聞こえてきた声に、「ああ」と返事をして【特殊装甲】を発動させる。
中に入れたのは【小鬼】
腕力を強化し敵を殴り倒す。
標的に向けて一歩踏み出した時――、
「バーカ! もう一回怪我してろ!」
後頭部に衝撃が走り階段を転げ落ちる。
落ちた先には【涅】が。
思わぬやってきた餌に迷わず食らいつく。
頭部にドロリと暖かい粘膜が、落下の衝撃で切れた頭皮と混ざっていく。
朦朧とする意識の中――岩間と浅田の笑い声が校舎に響いていた。