21話 褒められるのは気持ち悪い
「さぁ、早くここから出ようか!」
恐らくこの【扉】は時期に閉じる。その前にここから脱出しなければ、俺達は閉じ込められてしまう。
俺は手に持っていた棍棒を投げ捨てた。棍棒は地面に落下する前に光となって消えた。能力に耐えられなかったのだろう。
「ガイ、もう少し耐えられる?」
『既に眠いけどな、だから、さっさと頼むぜぇ!」
「分かったよ! 白丞さん、立てるかな?」
「駄目。まだ、腰が抜けて……」
【大鬼】を倒したが、まだ恐怖は身体に染み付いたままのようだ。殺されかけたのだから当然か。でも、だからと言って動けるようになるのは待ってられない。
「ちょっとごめんよ」
俺は座ったままの白丞さんの足に手を入れて持ち上げる。
「へ、ちょ、きゃっ!」
お姫様だっこをして【扉】を駆ける。
「もう少し!」
徐々に入口を照らす光が狭くなっていく。
俺は最後の力を振り絞り、全力で飛び出した。飛び出すと同時に墓石に黒く渦巻く【扉】の入口は姿を消す。
『間一髪だったな……』
その言葉と共にガイはハリネズミの姿に戻ってしまう。
地面に倒れ込んだまま死んだように動かない。相当無理をしてくれたのだろう。
「ありがとうね、ゆっくり休んでくれ……」
能力が解除されたことで、身体能力も元の人間状態へと戻る。
「良かった。皆無事だったんだね! 時間もギリギリセーフだよ!」
川津 海未がそう言いながら白丞さんに手を貸して立ち上がらせる。
どうやら俺達が【扉】に入ってから10分は経過しなかったようだ。【ダンジョン防衛隊】に連絡する前に解決出来て良かった。
「さてと……。白丞さん。自分が何をしたか分かってるのかな?」
「ま、まさか、【扉】に入ると力が奪われるなんて知らなかったから……その……」
「じゃあ、力が奪われなければ【大鬼】は倒せたの?」
「それは……無理だけど」
普通の人間一人では力をこちらの世界に来て力を失っている【大鬼】にすら勝てないんだ。
今回、全員が無事だったのは奇跡とも言っていいだろう。
俺の言葉に白丞さんは頭を下げた。
「ご、ごめんなさい……。もう、絶対に【扉】には入らないわ」
「うん。そうしてくれるとありがたいな。あ、そうだ。それともう1つ伝えたいことがあるんだけど?」
「そ、その。結構、本気で反省してるから、これ以上怒らないで貰えると嬉しいんだけど……?」
白丞さんは顔を逸らしながら言う。
うん?
俺は別にそんなに怒ることはないぞ?
伝えたいことは別だ。
「いや、そうじゃなくてさ。あの時、【大鬼】と戦ってるときに、漫画描き始めてくれてありがと。白丞さんがあそこで諦めてたら、多分、俺達やられてたよ」
俺が【大鬼】の武器を奪うことを思いついたのは、漫画を描く白丞さんの姿が視界に映ったからだ。
あれがなければ逆転することは出来なかった。
ありがとうと今度は俺が頭を下げる。
「へ? な、なんでお礼を?」
「だから、助けてくれてありがとうだってば」
顔を上げて、助かったと笑いながら手を差し出す。握手を求めたのだが、白丞さんは更に顔を背けてしまった。
「へ、お、怒らないの? 言いたいことはそれだけ?」
「いや、助けられたのになんで怒らなきゃいけないのさ」
「で、でも。私、助けることなんて――」
背を向けた白丞さんはどうやら俺の握手には応じてくれないようだ。差し出した手をどうしようかと悩んでいると、ガシっと両手で掴まれた。
「あー、なんで白丞さん褒められてるの! じゃあ、私も褒めて! ちゃんと言いつけを守って待機してました!」
俺の手を掴んで上下に揺さぶる川津 海未。
「それは普通だ」
「なんと! ずるい! 差別だ! 人権侵害だ!!」
「分かった。分かったよ! 言いつけ守ってくれてありがとう。助かったよ!」
「ふっふーん。海未ちゃんご満悦です」
掴んでいた両手を話してガイを頭に乗せる。
まあ、確かに言うことを聞いてくれて助かったのは事実だ。
「あれを見習えとは言わないけど、感謝は素直に受け取ってくれると嬉しいよ?」
俺は白丞さんの頭に手を置いた。
【扉】で少し土が着いたのだろう。ザラリとした感触が髪の艶やかさと共に伝わってきた。
「い、いやああ!!」
俺の言葉に白丞さんは背を向けたまま、全速力で車に駆け戻った。
扉を開き後部座席に座ると、一瞬俺に視線を向けるが勢いよく扉を閉じてしまった。視線から完全に隠れる白丞さん。
「あれ……?」
そんな嫌われること、俺したかな?
それとも本当は怒って欲しかったのか?
ふむ。
確かに怒られる場面で褒められたり、優しくしたりすると気持ち悪く感じるときあるもんな。俺はどんな場面でも褒められるの好きじゃないし。
「にしても、ここで苦戦してるようじゃ――「世界、守らせて貰います」は、まだまだ理想だね」
白丞さんが命を懸けてリアルな漫画を描くのであれば、俺は命を掛けて世界を守る。
改めて自分に言い聞かせた俺は運転席にへと乗り込んだ。
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