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追放サイド 3話 メスイヌ

 (さかん)が岩間の依頼を断って数日。

 自分に対する隊員達の態度が変わっていると感じていた。

 それがはっきりと分かったのは訓練が終わった時のことだった。使用した銃器を分解し、油を差し始めた(さかん)の前に、乱雑に銃器が放り投げられた。


「よ、(さかん)くん。武器の整備ちょっとお願いしてくれないかな? 俺は【特殊装甲】の整備したいからさ」


 放り投げた主は浅田。【磯川班】二人目の【特殊装甲】の持ち主だった。

 自分で使用した銃器は自分で整備する。

 それが当たり前だと(さかん)は思っていたが、これ以上、同じ班に属する先輩と関係が悪化するのは避けた方がいいと考え、渋々に手入れを受け入れた。


 だが、それを見た他の隊員達も浅田と同じように(さかん)の前に銃器を放り投げていく。


「じゃあ、俺のも」


「俺のも頼むわ」


 銃器を置いて去っていく隊員達。信じられないと(さかん)はその場に最後に残っていた班長――磯川に救いの目を向ける。

 だが――。


「先輩たちを休ませるために自ら申し出る(・・・・・・)とは偉いな」


 そう言い残して出て行ってしまった。

 この場に誰も味方はいない。

 

 自分の銃器の手入れだけならば1時間で終わる。だが、目の前に置かれた銃器は隊員9名分。

 単純計算で早くても9時間以上は掛かることになる。

 現在の時刻は19時40分。

 終わるのは朝ということか。


「こんなことなら、【回復涅リペアスライム】、引き受ければ良かったか」


 いや、駄目だと自分の行動は正しかったと首を振る。

 防衛隊のルールに背き、減給やクビになるのは避けねばならない。

 全ては妹弟きょうだいのため。

 長男としてさかんが稼がなければ。


 さかんが全ての整備を終えたのは翌朝の7時だった。

 隊員達が起床する時間だ。眠気と空腹で足元がふらつく。これでは今日の訓練は休んだ方がいい。

 (さかん)は朝食を食べて休もうと食堂に向かった。


 食堂に入ると既に食事を終えた隊員達が椅子に座り楽しそうに談笑していた。

 (さかん)が食堂に入ると一斉に話し声が静まった。

 気まずいと感じながらも、(さかん)はトレーを持ち朝食を取ろうとするが、既に全て片付けられた後だった。


 意地の悪い視線に振り返りながら(さかん)は言う。


「あの、僕の食事は――」


「頑張ってくれてたからな。特別に用意したんだよ」


 岩間が応えながら隊員の一人に指示を出した。持ってきたのは犬用の食事皿にごちゃごちゃに混ぜられた食事だった。

 皿を受け取った岩間は床に置いて(さかん)に命じた。


「ほら、食えよ」


「……これはどういうことですか?」


「規則に従う女々しい犬――メスイヌくんにお似合いだろ」


「メスイヌ?」


「そ、目って名前で犬みたいに順重で女々しいお前にピッタリだろ?」


 岩間の言葉に隊員達が「メスイヌ~!」と手を叩いて煽った。

 なるほど。

 これが――この班のやり方か。

 (さかん)は隊員達を睨んだ。


「なるほど。ここはこういう班なわけですか。子供みたいな班ですね」


「子供みたいって。メスイヌくんは酷いこと言うなぁ。だってさ、前いたセナカくんは一人で整備くらいは普通にやってたぜ?」


「……自分から進んで背を向ける人と僕は比べられたくない」


 そんな臆病者のことは知らない。

 【魔物(モンスター)】に背を向けて逃げ出した人間と自分を一緒にしてほしくなどない。


「でもよ。セナカくんは今のお前よりも立場は上だったぜ? ちゃーんと、俺達の言うことをこなしてたから、【特殊装甲】任されてたしな。今のお前は役に立たずに吠える――まさに犬だ」


 そう言い残して隊員達は去っていく。

 床に置かれた皿をテーブルに置き、悔しさに震えながらも(さかん)は食事を腹に入れた。


「僕は――僕のやり方で超えて見せる」


 ただ従うだけしか出来なかったセナカとは違う。





「磯川班管理地区に【涅《スライム》】の【(ダンジョン)】発生。防衛に向かってください!」


【磯川班】の基地に放送が響いた。

 (さかん)が【磯川班】に配属されて初めての【(ダンジョン)】の出現だった。これが自分の力を見せつけるチャンスだ。

 誰よりも早く戦闘服に着替え車庫に向かった。

 ここから出現場所まで隊員達が集まり移動するのだが――車庫にいるのは一人。

 いつまで待てども他の隊員は来なかった。

 (さかん)は痺れを切らして班長である磯川に連絡を入れた。


「班長! 出撃要請が出ているのになんで誰もこないんですか!?」


『ああ。そうだな。だが、俺達は【大鬼(オーガ)】を倒したチームだぞ? なのに今更、【(スライム)】なんて相手に出来るか?』


「なっ……」


 この班は完全に腐っている。

 強い【魔物(モンスター)】を倒して素材を手に入れたのなら、それを使って人々を守るべきだ。

 それなのに――。


「そんなこと言ってる場合ですか! こうしている間にも【(ダンジョン)】の進行は進んでいるんですよ!」


 切迫した(さかん)の言葉とは逆に、磯川の声は落ち着いていた。


『そうか。威勢がいいな、メスイヌ。だったら、お前一人で行ってこい』


「一人で……?」


「安心しろ。【特殊装甲】を持たせてやる。ここを一人で防衛すれば今後、その【特殊装甲】はお前に任せよう」


「……」


『どうした? 行かないのか?』


 (さかん)は拳を握る。

 自分が【ダンジョン防衛隊】に所属したのは、給料の良さに引かれたからだ。

 自分が上を目指すのはもっとお金が必要だからだ。

 大した才能のない自分が金を稼ぐには命を掛けるしかない。

 妹弟(きょうだい)を食わせて、安全に生きて貰うには――自分が頑張るしかないんだ。


「行きますよ! そして、僕がこの班のトップになる。だから、あなたはそこで踏ん反り返って見ていてください」


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