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11話 当面の生活費は針のむしろ

「ふぅ~。で、だ。無事、拠点となる部屋は手に入れたけどよぉ、どうやって【ダンジョン】見付んだよ! 【ダンジョン】にいけないなら、俺はここにいる意味ないぜ?」


「そうだ、そうだ! あ、でも待って。【ダンジョン】も大事だけど、これからの生活もどうするか考えようよ! 私、こう見えても結構な大食いでさ!」


「……はっ! それもそうだ。海未、お前は良い所に気がつくぜぇ! 腹が減っては戦は出来ぬってやつだな!」


「そうなの! 重要だよね!!」


 両手を繋いで飛び回るガイと川津 海未。

 俺は今後、この二人と生活をしなければならないのか……。


「【ダンジョン】の見つけ方はともかく、当面の生活費は何とか出来ると思うんだ」


「はぁ。無職が格好つけて何言ってんだか。なあ、海未」


「そうだ、そうだ~! あっ! ま、まさか!? わ、私のナイスボディを使って稼ぐ気なの!?」


 海未はそう言って自分の身体を抱いた。

 何を考えているのか、俺から数歩後ずさる。その行動の意味を察したのか、ガイが俺と海未の間に割って入った。


「おめぇがそこまで外道だとは思わなかったぜ……。海未がナイスボディかどうかは疑問ではあるがなぁ!」


 両足で立ち上がり、ファイティングポーズを決めるガイ。


「庇われたのに傷つけられた!? ある意味器用なガイ師匠!」


 ガイは気を良くしたのか、シャドーの回転を上げる。

 どうやら俺と戦うつもりらしいが、生憎俺にはそんなつもりは全くない。


「二人して意味の分からないことを言わないでよ。俺が考えてるのは、【開発部隊かいはつぶたい】に行くことだよ」


「あん?」


「へ?」


 ガイと川津 海未の声が重なる。

 俺は勘違いをしていた二人に、どうやって生活費を手に入れるのか、丁寧に説明をしていく。お金の問題は大事だからね。この辺はちゃんと理解してもらわないと。


「【開発部隊】? なんだ、それ? リキが今までいた【磯川班】とは違うのか?」


「うん。そもそも部隊が違うんだ」


【ダンジョン防衛隊】はいくつかの部隊に別れている。

 俺が配属されていた【磯川班】のように【魔物モンスター】との戦闘を行う【戦闘部隊】。

 他には昨日、戦闘に参加していた時に一般の人々を近づけないように交通を整理したり、【ダンジョン】の出現場所を共有したりと後方での活動を主にする【支援部隊】といった具合だ。

 そんな数ある部隊の一つに【特殊装甲】などを開発する【開発部隊】があるのだ。


「へぇー。凄い。そんな部隊があるんだね!」


「いや、だとしてもよぉ、お前、あの怖い女に隊員証渡しちまったじゃんかよ。実質、完全なクビみたいなもんだろ?」


「その辺は大丈夫。個人で【魔物モンスター】の素材を買ってる人がいるんだ」


 俺は数回だけその現場に同行したことがある。

 磯川達がこっそりと倒した【魔物モンスター】を持ち帰り、【開発部隊】に売っていたのだ。

 見張りと強制的に連れていかれたことが、今に活きてくるとは……。 

 人生は何が起こるか分からないとはまさにこのことだ。


「あ、でも、なんでそんなことをするの? 同じ【ダンジョン防衛隊】なんだから、別に買い取らなくてもいいじゃん!!」


 意外にも鋭い指摘をする川津 海未。


「倒した【魔物モンスター】は国が管理してるからね。【開発部】も複数に班が別れて、実績ある班には強い【魔物モンスター】が届いて新装備の開発をする。その他は既存の武器の生産に当てられたりするんだよ」


 成果を残せば新たな武装の開発に携われ資金も増える。だが、それ以外の班は言われた物だけを作り続ける、いわば下請けのような扱いを受けているのだ。

 故に普段回ってこない【魔物モンスター】を裏で買い取り秘密裏に研究をしているのだった。


「だから、こないだ倒した【大鬼オーガ】と昨日倒した【骨蠍スカーピオ】の一部を渡せばしばらくの生活費に回せると思うんだ」


 俺とガイは倒した【魔物モンスター】の武器になりそうな素材はなるべく剥ぎ取るようにしている。

 今、俺の手元にあるのは、【大鬼オーガ棍棒こんぼう】、【骨蠍スカーピオ尾針びしん】の二つだ。

 どちらも、強力な【魔物モンスターであるのは分かっている。

 だから、それなりの値で買ってもらえるはずだ。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ。その二つ、渡しちまうのかよ!」


 生活費が手に入るのだから二人にも納得してもらえると思ったが、ガイから反論の声が上がった。


「そのつもりだけど……」


「まだ一度も俺使ってないじゃんかよぉ。それなのに売っちまうのか?」


 ウルウルと目にしずくを貯めるガイ。

 どうやら、自分が使っていないのに、売らないで欲しいということらしい。


「どうせ、一度でも使ったらなくなるじゃない」


「え、そうなの!? なんで、なんで!?」


 ガイの持つ【スキル】に興味津々な川津 海未がその場で飛び跳ねながら聞く。 


「二つ同時に使うと負荷がでかいだろ? それは武器も同じみたいで一度使うと壊れちまうんだ」


「なるほど~。でも、それなら【魔物モンスター】の素材だけ使えばいいじゃないかな!」


「それが出来ねぇんだよ。【空間収納】は【勇者の鎧】が持つ能力だ。一度、それを介さねぇと使えないしな。それに、俺がこの姿で力使ってもなぁ」


 ガイ本人が持つ【道具に意識を移して過去の使用者の力を引き出す能力】を発動して、【勇者の鎧】を装着してからでないと【空間収納】は使えない。


 常に素材を持ち歩いていれば、力を扱うことは可能だが、人形の姿では戦闘に限界があった。

 だからこそ、鎧となったガイを俺が纏うことで戦闘の幅を広げていた。


「壊れないヤツもあるんだけどよぉ。でもよ、せめて【骨蠍スカーピオ尾針ビシン】だけは使わせてくれぇー。格好いい技名思いついたんだよー!」


「え、聞きたいです、ガイ先輩!」


 川津 海未の態度に気を良くしたのか、ガイは恥ずかしそうに頭を掻いた後に、「見てぇか?」と照れて言う。

 面倒な茶番はいいからやるならさっさとやれよ。

 俺の思いが通じた訳でないだろうが、ガイは右手を大きく振り上げてポーズを取ると、一歩足を大きく踏み込んで右手を突き出した。


「【頂門一針ちょうもんのひとはり》!」


 自身で考察した技を披露し、得意げに決め顔を作るガイ。

 こういう時、どういう顔すればいいのか分からない俺は、ひょっとしたらコミュニケーション能力が低いのかもしれない。

 隣で鼻息を荒くして技を真似する川津 海未くらい反応できれば相手も気持ちいいんだろうなぁ。


「かっこいいよ! ガイ先輩! 私もやる!!【頂門一針ちょうもんのひとはり】!」


「だろ!? 針を使う技は今までなかったからな。一晩、調べ捲ったぜ!」


「それでか! 俺のスマホの充電がなくなってたのは!」


 今朝起きたら、俺のスマホは電源が入らなくなっていた。

 前日、数パーセントの残りだったために、電源を落として節約をしていたが、今朝起きたら電源が入らなくなっていたのだ。

 電源を落としていてもバッテリーは減るのか。と、勉強になったつもりでいたが、どうやらそれは違ったらしい。

 夜中にこっそりとガイが電源を入れて下らない技名のために使用したようだ。


「充電するために無駄な費用掛かったじゃないか!」


「いいじゃねぇかー。スマホは減るもんでもねぇんだしよぉ」


「充電とお金は減るんだよ!」


 俺の怒鳴り声が部屋に響いた。

 流石はタワマン。

 防音設備はしっかりとしているようだった。

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