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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

何よりもきれいなものは

作者: 赤羽 千菜

 この小説に少しでも目を通してくださってありがとうございます!

 暗い恋愛小説となっているので、読む際は十分気を付けてください。

「君にとって、一番きれいで、一番大切なもってなんだい?」


 そうやって、桜の咲く季節に屋上で一緒に昼飯を食べている先輩が口を開いた。

 17歳の僕はまだそんなことを考えたこともなく、「わからないよ」。そう答えた。

 彼女は「ふーん。そっかぁ」とつまらなそうに答え、弁当に再び箸を伸ばす。


「先輩にとっては何かあるんですか?」


 そう聞き返した。他人の言葉が、意見が気になるからだ。

 彼女は笑って答える。


「そんなもの、あるに決まってるじゃないか」


「それは一体...?」


 そう聞くと優しい笑顔を僕に見せて


「君といるこの時間だけだよ」


 と優しい声で言う。


「またそんな冗談をかまして。いつか彼氏ができた時に怒られますよ。そんなんじゃ。ほら、さっさと食べてください」


 僕は食べ終わった弁当箱を片しながら。赤く染まった頬や耳を隠しながらそう答えた。

 すると彼女は声を出して「はは」と笑い「それもそうだね。彼氏ができたら困るなぁ~」と僕に聞こえる声で「はあ」と大きなため息とその言葉を吐いた。

 僕はこれは(僕を彼氏にしたい)という遠回りな言葉だと理解していたが、目を背け、


「そうですよ。たくさん困っちゃいます。浮気性だってね」


 そうやって笑って答えた。

 すると彼女は少し寂しそうに笑い。箸を握っている手を少し強く握り、「うん。そうだね。気を付けるよ」と答える。

 彼女の表情やしぐさはわかりやすい。

 僕はそんな彼女が好きだった。


 今では、そんなことを思い出してしまう。あれから、1年以上の月日がたったというのに。



「君。今日は僕の家に来ないかい?」


「はい?」


 屋上のカギをもらったにも、雨で結局屋上に入れずに階段で飯を食べている日だった。


「君、今日はどうせ暇だろう?毎日だろうけど」


 と、嬉しそうに、両手の指を優しく合わせながらお願いするように聞いてくる。


「はいはい。僕はどうせ毎日暇ですよ~。悪かったですね~」


 と少し嫌味っぽい口調で答えてしまう。

 彼女は再び箸を手に取り、からあげを一つ口元へ運び、飲み込む。水筒を開き、お茶かなにかで更に流し込む。

 彼女はちいさく「んっ」と咳払いをして


「悪くなんかないよ。それで?僕の家に来てくれるのかい?」


 そうやって聞いてきた。

 僕は、「考えておきます」と答えた。そうすると彼女ははにかんで笑い。「そうかそうか~」と大きな声でつぶやく。


「そういえば先輩って、3-1の教室に行っても見つけられないんですけど、いつもどこにいるんですか?」


 なぜかその話題を出してしまった。完全になんとなくだ。

 その質問を出してしまった後すぐに彼女の笑顔が一瞬血の気が引いたように青ざめ、また笑顔を作る。


「いえ、話したくないならいいです」


 そうやって答えると、彼女は少し安心したのか「ほっ」と息を漏らし


「そうかい?それならよかったよ。ごめんね」


 と答える。辛そうに。


「いえ、こちらこそすみません。不躾なことを聞いてしまって」


 「いやいや」「いやいやこちらこそ」という日本人ならではのやり取りを行い、彼女は


「やっぱり僕たち似たもの同士だね」


 と笑う。今度は本心からの笑いに見えた。

 その笑いが好きだった。先輩の優しい笑い方や、優しい声や、しょうもないノリに付き合ってくれる優しさが。



「雨ひどいね~」


 と先輩は言う。学校の玄関先で遠くを見るように目の上に手を当て、周りを見渡す。

 ほかの生徒は見当たらない時間帯だった。当然だろう。5限目のちょうど真ん中の時間帯だからだ。

 僕は2年生に上がってからいつも学校に来ては、トイレや屋上に逃げ込んでいた人だったから、いつに帰ってももう文句すら言われなくなっている存在だった。

 彼女は、学校内では屋上以外では見たことはない。


 (僕、傘ありますよ)という言葉を抑えた。相合傘をするような雰囲気になってしまうからだ。


「雨、ひどいですね。先輩の家って近いんですか?」


 そうやって聞くと彼女はあからさまに喜んだ顔で


「うん!近いよ!来てくれるの?」


 っと子供のように喜び、今度は指ではなく手のひらすべてを合わせ、自分の手を取り合っていた。

 面白い仕草だなと「くすっ」と僕が笑うと、彼女は「へへ」と自分の頭に手をあて、いわゆるてへぺろのようなことをした。舌は出していなかったが。


「はい。行きましょう」


 と僕が言うと彼女は元気よく「うん!」と答え「こっちだよ」と手を引いていく。

 かなり強い雨が僕たちを打つ。


 そこからの記憶が曖昧で思い出せなかった。

 確か、楽しかった。はずだ。

 僕は片手に275gのいちご&ミルクの缶を持ちながら、屋上の柵に脇を当て、遠くを見るように、虚無を見ていた。


 その日は雲一つない晴天だった。

 屋上につくと彼女のその白い肌がよく輝いて見えた。

 屋上のドアを開けると彼女は待ちわびたように「お、来たかい。君君。こっち来て」と、僕の手を子供のように引く。


「僕、晴れた日のここからの景色が好きなんだ」


 と、自然豊かな山々や木々が見える。建物が一切ない景色を見せてくれた。

 それは僕が「うぉっ」と声を漏らしてしまうほどきれいで少し驚いてしまった。

 彼女は「にへえ」と笑い「どう?綺麗でしょう?いいでしょう?」と何度も聞いてくる。

 僕は笑いながら「はい。超きれいです...」とつぶやく。彼女はたわわに実ったその胸を張って「ふふん」とでも言いそうなほどどや顔をしてこちらを見てくる。

 「でも...」と彼女は口を開く。それは暗いものではなく、普通の雑談として口を開いていた。


「でも僕、実は晴れた日って苦手なんだよね。どうしても太陽光?っていうのが慣れなくて」


 と、少し恥ずかしそうに笑う。普通は晴れの日が好きな人が多いからだ。


「まぁ、それは人それぞれだからいいんじゃないですか?なら、今日も先輩の家でゲームでもしますか?」


 というと僕の手を嬉しそうに握り。「うん!ありがとう!」と声を高ぶらせたくさんの笑顔で答える。確か前はレースゲームをしたんだっけな。


「今度は負けませんよ」


 そういうと彼女は腕をザブングルのように構え「ばっちこい!」と笑顔で答える。

 その日は昼休みの途中で学校を出た。

 その日も外に人はいなかった。グラウンドにも、住宅街にも人の姿は見えなかった。

 彼女は家に向かっている途中に自動販売機に指をさして


「何か飲むかい?」


 と聞いてきた。「お姉さんが奢ってあげるぞお」とでも言いそうな雰囲気で。

 僕は笑顔で


「買ってくれるんですか?」


 と聞くと彼女は嬉しそうに「もちろん!」と答え自動販売機に寄る。彼女は財布から一万円札を出して自動販売機に入れる。自動販売機は「ピーッ」と音を立てて同じ口から一万円札を吐き出す。彼女はその光景に「どうしてどうして?」と戸惑っていた。僕は笑って近寄り財布から千円札を取り出して、「自販機は一万円札は使用できないんですよ」と、当たり前だと思っていたことを先輩に笑いながら言う


「なら、今日は僕のおごりです。先輩。好きなもの選んでいいですよ」


 と、千円の入った自販機のボタンを押せるように僕は避ける。彼女は嬉しそうに自動販売機に近寄り、一番右上のボタンを押す。

 その自動販売機にはルーレットがあるようで「これ、壊れてるよ?」と、少し遅く出てくることに文句を嘆いていた。僕は、「そういうものなんです」と笑いながら答え、飲み物を買おうとすると、もう一回ガコンっと音が鳴り、同じ飲み物が出てきた。彼女は嬉しそうに


「当たったね!9999!これ、お勧めしたかったんだ!」


 と、甘いものが苦手な僕に、いちご&みるくの275gの缶を渡してくる。

 僕は苦手なものを渡され、嫌な顔を一瞬作ってしまっていないか不安になりながら笑顔を作り、「ありがとうございます」と答える。彼女は嫌な顔を見つけていないのか、喜びに満ちた表情、声色で「うんっ!」と答える。

 そこから彼女の家につくまではスキップをしながら歩いていた。時々謝ったり、ビビりながら。

 それがまたかわいらしかった。



「いけ~!赤甲羅!」


 そうやって彼女は叫んだ。「やめてくれよぉ」と僕は嘆き彼女は「ふふん」と絶対どや顔をしている、威張ったような声で鼻を鳴らす。

 青甲羅が一度来るならわかるが、そのあとに赤三連続はないだろ。普通。

 一位になっていたものの、そこから二位、三位とどんどん落とされて行って結局七位で終わってしまった。

 今回は勝てると踏んでいたのに。


「君、弱いねぇ」


 とニタニタ笑いながら僕を指差す。

 「ぐぬぬぬぬ」と悔しそうな表情を作ると彼女は笑ってソファのクッションが効く部分に背中をかけた。楽そうな姿勢で。「楽しいね!」と笑顔を僕に向けて。

 僕は「くすっ」と笑い、「そうですね。楽しいです」と答えると彼女はむすっとして「本当に楽しいかい?」と起き上がってこちらを見てくる。

 僕は笑顔で


「ええ、先輩となにかするなら楽しいです」


 と答えると彼女は満足したように「そうかいそうかい」とまたソファに寝転がるような形で背中を預ける。その状態でいちごみるくを飲もうとするから彼女の想定より出てくる勢いが強く、口の横からあふれ出し、「ごほっごほっ」とむせてしまう。

 僕は「くすっ」笑いながら「な~にやってるんですか」と、机に置いてあるタオルとティッシュを取って、彼女の口と、机、缶底と少し甘い匂いのする濡れたソファを拭く。

 彼女は口を押えて、嬉しそうに、そして申し訳なさそうに「ご、ごめんなさい」と答える。

 僕は笑って


「怒ってませんよ。ただ楽しいなと思って」


 と答える。その言葉を聞いた彼女ははにかんでわらい、「そうかい?」と聞く。

 僕は「もちろん」と答える。



「せっかくのお客様だ、ここらで僕の手料理を振舞ってやろうかな」


 そうやって彼女はキッチンの壁にかかったエプロンを手に取り、お玉としゃもじをクロスさせどや顔をする。


「先輩の料理が食べれるなんて嬉しいなぁ」


 そうやって笑うと彼女は「毎日食べてるんだけどね」と笑いながら答える。

 僕は「それもそうですね」と笑う。彼女と一緒に笑い合って。


「僕の手料理はどうだい?からあげが一番作るのが得意なんだ」


「おいしいですよ!おいしいだけじゃ足りないくらいに。からあげは特に絶品ですね」


 と答えると彼女は嬉しそうに「よかったぁ」と呟く。

 日が沈み出した頃にリビングのコーヒーデスクにはからあげの山とみそ汁と硬めに炊かれたご飯が置いてある。


「これ、二人で食べるんですか...?」


 そう苦笑いで聞くと、彼女は笑顔で「うん」と答える。僕は生唾を飲み込み、「いただきます」というと、彼女も合わせてくるように「だきま~す」という。そこだけ切り取るとやばいだろと「くすっ」と笑うと彼女はむすっとはせずににこっと笑う。

 僕は箸で唐揚げを一つ手に取り、口へと運ぶ。

 いつも冷えていてもおいしかった唐揚げが作りたてだと更においしく感じて、目を見開き「うまっ!」と声を漏らす。

 彼女は「はふはふ」と熱いものを食べるときによくなる現象に陥りながらもうれしそうな表情をなんとか伝わる程度に浮かべる。

 僕の箸は止まることなく唐揚げを取り、口に運び、硬い米を頬張り、一度味のリセットでそのセットに合う、薄味の味噌汁を流し込み、再び取る。

 二人で平らげることが難しいと思っていたありえないくらい多い唐揚げでも一瞬で平らげてしまった。


「どう?感想は」


 彼女はめちゃくちゃ嬉しそうに、答えを求めてくる。身体を前に乗り出してまで。


「完走した感想ですが...最高。この二文字です...」


 と声を漏らす。

 すると彼女は更に嬉しそうに「うん!」と答えて、


「じゃぁ、片付けるね。今日はもう帰る?」


 と、ちょっと寂しそうに答える。そんなさみしそうな顔を見せられて帰るわけにもいかないとも思ったが、僕たちは一線を越える関係ではないため、僕は、悲しそうな笑顔を見せ、「はい」と答えた。彼女はしょぼんとしながら、手を振り、「また明日ね」という。


「はい。また明日」



 僕は屋上でコンビニで買った唐揚げと、レンジで温めて食べる少し柔らかいぐちゃっとした米を頬張りながらきれいな山々、木々を見る。

 僕は屋上で風を感じながら。風と一体になりながら学校のチャイムを聞いていた。

 どうやら彼女は特別だったらしく、屋上のドアの鍵は僕ごときではもらえなかった。



「君、今日は暗そうだね、どうしても。何かあったのかい?」


 そうやって彼女は心配そうにうつむいている僕の顔を覗き込む。

 僕は顔をブルっと振り、気持ちをリセットして笑顔を作り、「いえ、なんもないですよ」と答える。

 彼女はいつもとは違う位置に。僕の隣から僕の前に立ち、少し寂し気な声で答える。


「それは嘘だ。君は優しいからいつも私を心配させまいと顔を作ってくれるよね。たまには心配させておくれよ」


 そう言われた。それでも僕は顔を作り、「すみません。でも本当に大丈夫なんです」と答える。すると彼女は更に心配そうにするがあきらめたのか静かに僕の隣に座る。

 僕はじんじんと痛む左腹部を擦りながらまた先輩の作ってくれた弁当を食べる。

 その日は僕の一番嫌いな、そして先輩が一番大好きな曇りの日だった。しかも暗い雲。

 彼女は僕の頭をくいっと引いて、彼女の肩にこつんと僕の頭がぶつかる。彼女は「いたっ」と笑って僕の頭をつかんだ手を優しくなでる。

 そこから何も言わずに時間が立った。僕も口が開かずに、ただ涙が零れるだけだった。


 彼女はさみしそうに「今日も僕の家に来るかい?」そう聞く。

 僕はうつむいて「ごめんなさい」と答える。

 「そうか...」とさみしそうな声で呟き、「それじゃあ、またね」という。


「はい。また」



 その日の帰り道も住宅街なのに人通りがゼロだった。

 重い重い僕の家の扉を開けると再び何故だか「何してたの!」と声が何もいない空間から聞こえる。消したはずのテレビもついているし、鍋には作りかけのシチューがある。

 僕は自分の部屋に行き、カバンを置いて、リビングのテレビのリモコンを取り番組を変える。

 閉じたリビングのドアが開き、近寄る足音。僕の右肩にとても重い衝撃。最高に痛いが何が原因かわからない。


「こいつはまだ俺達が見えないのか?」


 そういう声が聞こえる。「えぇ」と苦しそうな声を耳にする。

 僕はすくっと起き上がり、(家族がいたらどれだけ日常が楽しいことか)と考えた。


 シチューの匂いが強く匂いだし、僕は四つ用意された夜ご飯のうちの一つを食べる。

 ほかのご飯はいつの間にかなくなっているからだ。洗い物だって勝手にされる。ただ時々痛かったり、誰かが書いたメモに従わなければならないことがあることを除けば、生活がしやすいところだと思う。

 僕は、今日の指示「六時までに帰る」という指示に従い午後六時ぎりぎりに帰ってきた。それまではたくさんの足音を聞きながら公園の揺れる遊具でゆらゆらと本を読んでいた。

 ごはんは、十分ほどで食べ終わり、美味しいや不味いすら感じずに「ごちそうさま」と手を合わせ、自分の部屋に向かう。

 そのまま就寝。


 夜二時ごろに僕の部屋の扉が開き、足音が近づく。誰もいないよなと目を開けても誰もいない。

 「くそっ」という声と共に僕の腹に激痛が走る。

 夜に声を出すと周りの音がうるさくなってしまうからその痛みに声も漏らさずただ。唯々耐えていた。そんな夜が続いた。



「いやぁ、僕にも家族がいたなんてなぁ、嘘だと思ったよ」


 と僕はケタケタ笑いながら生臭い手に持っているいちごみるくを飲む。


「人って怖いもんだよなぁ」


 そうやって僕は空を見上げ呟く。

 このまま風になって空へ飛びたいな。なんて考えながら。



「君!一体そのけがはどうしたんだい?」


 僕は屋上に入ってきた彼の姿を見て驚愕した。まるで腕や、足の痣を隠すように服を着ていたからだ。しかしそんなもの隠せるはずもなく僕の目には真っ先に入ってしまった。

 彼が僕のために優しく、顔を作ってくれていることはわかっているがさすがに異常だ。僕はそう思い彼に問いただす。


「なんで、こんなにケガを...君、本当に大丈夫かい?まさか、家族に虐待を?」


 そうやって聞いても彼は笑って「何もないですよ。家族だっていませんから」と、答える。

 家族がいない家庭なんて、僕ですら片親だったりなのに、どうして。なんて思いながら彼の異常さをさらに感じていた。

 家族がいないのにこんなにケガが増えていくなんておかしい。彼は教室にすら行っていないのだ。


「君、このケガの理由を聞いても、いいかな」


 そうやっていつもより冷たい声で心配した声で聞く。

 彼は辛そうに


「勝手にケガができちゃうんですよね」


 と、再び笑顔を作って話す。苦しんでいるのは一目瞭然なのに。

 僕は彼の身体に触れようとした瞬間、屋上のドアが再び開く。私はビクっと身体を強張らせ止まる。


「なんだ、先客がいたのか。悪かったな、タバコでも吸おうかと」


 そうやって言って先生が一瞬顔を出して再びドアの先へと消えていく。

 僕は呼吸すらがきつくなってしまい、その場にヘタっと座り込んでしまった。

 僕の心の中は再び恐怖に染まってしまった。

 彼は、先生が来たことに気づいていないのか、僕に近寄り、


「先輩こそ大丈夫ですか?辛そうですよ」


 と僕の頭を撫でて聞いてくる。

 それよりも、先に浮いた疑問を解決しようと、彼の問題から解決しようとする。


「な、なんで君は、扉があいたことや、先生が顔を出してきたことに、反応を見せないんだい?何もなかったかのように」


 そうすると彼は疑問の表情で


「先生って、なんですか?」


 と聞く。僕はぽかんとした表情で(彼は何を言っているんだ?)と思った。思うしかなかった。今まで先生や周りの友達に支えられながら生きてきただろうに。

 そんなことを思っていると彼の口が開く。


「僕、足音だったり、ドアの音だったり、環境音はたくさん聞こえるんですけど、本とかでよく見る、『人』?ってものを見たことがないんですよね」


「へ?」


 僕は本当に珍しく間抜けな声を出してしまった。

 彼はいつものように「くすっ」と笑い、僕の頭を撫でながら再びいう。


「異常だってのはわかってますけど、どうしても見えないんです。僕に見えるのは、天使だけなんです」


 そうやって言ってきた。


「て、天使?」


 そうやって聞き返すと彼は「はい!天使です!」と笑顔で答える。


「先輩初めて会った時に言いましたよね。「僕は君の天使だ」って。そこから初めて先輩の姿が見えたんです」


 僕は驚きを隠せずに、話を聞いた。


「先輩には僕に見えない『人』っていうのが見えているんですよね?楽しいですか?辛いですか?」


 そうやって純粋に聞いてくる。

 今まで彼に抱いていた感情。安心感だったり、恋人に似たような感覚はかなり書き換えられて、(怖い)の一色で染まり始めていた。

 僕は彼の撫でている手をぱっとよかして、「ごめん」と初めて彼に見せる表情で謝って屋上のドアを開き階段を一段一段降りていく。

 昼休み。グラウンドではみんながサッカーやランニングや、部活だったりを行う時間。彼は「この時間も誰もいなので大丈夫ですよ」なんて言いながらこの時間にいつも帰ってたっけな。

 五時限目の途中もそうだ。この学校は五限目以降ないクラスもなかなかに多いから、校庭も、住宅街もいろんな人がいる。それでも彼はまた、「誰もいない」と言っていた。

 そうやって思い込んでほしいということだと思っていたが、本当の意味は違ったんだ。本当に「誰もいなかった」んだ。彼にとっては。

 僕はその日、心を預けていたすべてを失った。



「先輩、今日は遅いなぁ」


 そうやって屋上前の階段で待っている。

 足をゆらゆらと揺らしながら。

 コツコツと足音がなる。先輩が来た!そう思いながら階段下を見ると、何かにぶつかり、大きな音が立つ。それは言葉に似ているものだった。が、先輩が来たものだと思って立ちなおして、階段下を見る。

 そこに先輩はいなかった。先輩を待っていたが、屋上の扉はいつの間にか勝手に開いていて、晴れた日なのに、この景色を見れないなんてかわいそうだなんてさえ思った。


 それから二日がたった。


「や、久しぶり」


 なんて、いつもより遅い時間に来た。


「何してたんですか!この二日間」


 そうやって聞くも彼女は辛そうな顔で笑い、「ちょっとね」と答える。

 彼女ははぐらかすのが得意で、好きだった。「むむむ」というような顔を見せると彼女はにこりと笑い口を開く。


「君は気づいているだろうけど、僕と君は『異常』なんだ」


 彼女は笑っているものの、黒い瞳の奥は真っ黒な世界を見ていたようだった。今までは黒い瞳の奥に光を見つめていたのに。


「僕は...僕は...」


 そうやって彼女は言葉に詰まる。


「僕は?なんですか?もしかして、告白ですか~?」


 そうやって茶かすも彼女は笑ってくれなかった。

 「ふぅ」と決心したように深呼吸を行い、


「僕は、君が言っていたような、君の天使なんかじゃない」


 そうやって真面目な顔で言われた。驚いた。こんなに演技がうまかったなんて。


「いえ、先輩は、貴方は僕の天使ですよ。僕にとって、初めて見た人間に似た生物なんですから」


 そういうと彼女は唇を噛み、


「天使って死なないものだって知ってる?君が昔に言ってたことなんだけど」


 それは僕達が出会った屋上で一番初めに話した話だ。「僕は君の天使だ」「先輩、天使は死なないんですよ」「そうか。ならこれから一生を共にできるな」なんて話をして。

 そんなことを思い出していると、彼女は屋上の柵に手をかけていた。それは、いつも彼女はしていなかったことだった。

 彼女は手に持っていたいちごみるく缶を一口飲む。

 僕は、何をしているんだろうなんて軽く思いながら、軽く笑って


「はい。知ってますよ、だって僕が話したんですから」


 なんて言うと彼女は泣きながら言う。


「ごめんね。天使なんかじゃなくて」


 柵に乗り上げた身体を空中へ投げ出す。


「飛べるんですよね?天使だから」


 なんて言葉を出そうにもその彼女が落ちていく速度だったり、「ぐしゃ」という重たい音を聞いて生唾を飲み込んだ。前に生唾を飲み込んだ時は期待でいっぱいだったのに。今度は「恐怖」という感情でいっぱいだ。

 嘘だよな。なんて思いながら、僕は下を覗く。

 彼女の身体からは大量の血が出ていて、それらは地面にドバっと広がっていた。

 周りには僕があげたアクセサリーが壊れて飛び散っていた。

 僕は、その瞬間、「彼女は天使なんかじゃなかった」という気持ちが出て、頭痛がして吐いた。

 そして、彼女ともう会えなくなってしまったことを嘆いて心が苦しくなって吐いてしまった。


 吐いて吐いて泣いて泣いて泣いた後に、屋上のドアが開いた。

 そんなことはよくあるのにその時はなぜだかドアの方を見てしまった。

 知らない、見た目の悪い天使たちが僕を見つめて、先程まで彼女がいた柵へと近寄る。

 天使みんなが何かを話しているが、僕には届かず、僕は、彼らを横目に屋上へと続いていた階段を下りる。

 「すべて嘘だ」なんて信じながら。

 学校には、天使がたくさんいた、窓から彼女の堕ちた、堕落した姿を見て、変な機械を彼女に向けて「カシャ」なんて音を発して。



「いやぁ~まさかね。彼女も人だったなんて思わなかったよね」


 まさか、まさかなんてずっと考えながら、天使もとい、人間をたくさん見て確かに彼女も人間だったななんて思った。


「でも、君は、先輩は僕にとってはずっと天使でしたよ」


 なんていちごみるくを掲げて、黒くて長い髪や、黒く澄んだ瞳、優しいことを言うと少し赤らめる頬だったり、感情に素直な人で、すぐに怖がったり、喜んだり笑ったり。彼女のその整った顔だったり、優しい声を聴き、見るのが好きだった。

 彼女が教えてくれたこの缶ジュースさえも今では大好物だ。甘ったるくて逆に的な感じだ。

 僕は屋上の柵にトントンと指をあてながら、赤い絵の具で柵を染めていた。

 今までよくわからずに苦しんでいた夜からも解放されたし、なぞの足音からも、全部全部解放されて清々しい気分にさえなっていたのに、それでも、彼女のいない世界は、暗いままだった。


「ここから降りたら君にまた会えるかな」


 なんて呟きながら僕は身体を乗り上げる。

 僕の目には彼女が映っていた。空中に浮いている彼女が。

 優しそうな笑顔で、優しい声で、優しい手でぼくの頭をなで、頬を掴み、額を擦り合わせる。

 とてもかわいい仕草だったり、家庭的だったり、クールなところだったり、彼女と過ごした半年は僕にとっては宝物であった。

 僕はそんなことを思いながら、見ながら。

 空へと飛び立った。

 彼女は天国へ行っただろうか。ぼくも一緒のところに行けるかな。

 なんて考えて。

 約20mの落下時間は、周りにとっては一瞬でも僕にとってはとても長いものだった。

 この間にさえ、彼女のことを思い出してしまう。

 そういえば彼女と過ごした春になにか聞かれていたな。

 そうだ


「君は天使なんかじゃないなんて言っていたけど。僕にとっては最初から最後まで天使だったよ。僕にとってなによりも一番きれいなものさ」

 この小説を読んでくれてありがとうございます!

 作者の千菜、kokoutanです!この作者こと、私は、鬱症状、ADHDを持っています。なので、こういう暗い話を聞いたり、書いたりするのが好きなのです。不快感を持たせてしまったら申し訳ありません。

 この作品を書いた理由としては、恋愛話が最近作者自身に増えてきたことと、鬱がひどくなってきたことや、鬱の人が増えたりしたこと。そういう曲で共感を得たりすることができることが増えてきたためです。

 自分の恋愛経験だったりは、学校内ではそんなにない+住宅街と呼べるほど住宅街にも住んでいないため、舞台の想像、名前や、主人公の見た目の想像は読者さんに完全まかせっきりになってしまいます。申し訳ありません。

 ですがそこも楽しんでいただけたら嬉しいです。

 拙い作品ですが、読んでいただきありがとうございました。


 主人公が、死に対して軽い。等の文句があったりするかもしれませんが、主人公ほど大切な人が私にはいなかったのですが、親戚等の大切な人が亡くなってしまった時に感じたのは無力感と、少しの悲しさでした。

 主人公は、人の大切さ等を理解できていないため、このようなすこしあっさりした感じがいいのかなと思いました。

 感想等もらえたらうれしいです。感想、評価がモチベーションにつながります。

 またいつかこういう作品を書いていくので応援よろしくお願いします。

 最後に、大事なことなのでもう一回。

 この作品を読んでいただきありがとうございました!

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