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(16項)神代の大変革

「なんで魔法原理が解明されてないんだ?」


シャルミーユの襲撃と対話を終え、討魔伐行(とうまばっこう)の名と方針を決定した後、ユウキとシノは術師街ハザラを探索していた。明朝出発するまでの時間は好きに過ごすということで、カインやトゥルゥは別行動で街に繰り出しており、ユウキは魔術の街に不慣れのためシノと行動をともにしている。


さっき中断した話なんだけどと前置きして、ユウキが気になっていたこの世界での魔法原理が未解明の理由をシノに尋ねる。


「歴史はそれなりにありそうなのに魔法の鍛錬が一昔前の体育会系の発想なのはおかしくない?」

「ユウキ、体育会系という語彙もこの世界には存在しません。しかしいいたいことはわかります」


街を歩きながらシノが答える。今歩いている通りには人は少なく、気を付けなくても人とぶつかる心配がない程度にはすいている。時折提示されている商品に興味を惹かれながらも回答を続ける。



「答えとしてはあのシャルミーユが答えていた通り、神代の大変革が原因になります。立ち話もよくないですし、一旦座りましょうか」


周りに椅子らしきものはなかったためユウキは困惑したが、シノの後に続いて何もない道の端までくると、そこに二人用の長椅子が突如現れた。これも術師街ハザラの文化の一つらしい。


二人分のスペースしかない椅子にシノが座り、ユウキにも座るように促す。ユウキも何もないように座るが、その距離感にユウキの心拍数は上昇していた。シノの距離感がおかしいのは出会った時からで、このような場面にユウキは何度も遭遇しているがいまだに慣れていなかった。


トレードマークの銀色の髪を横目に捉えて落ち着かないまま、シノの答えを必死に理解しようとする。


「ユウキは神についてご存じでしょうか?この世界は数多の神によって成り立っています。そして各々の神は一つの分野の維持を担っています」

「前にトゥルゥから言語の神について教えてもらったけど、それと同じ?」

「はい。それぞれの神は担う分野で区別されます。言語の神、魔法の神、天環の神などが有名ですね。神はその膨大な魔力を以て世界の維持を行っています」


魔法をきわめて一人で恒常的に生命活動を行える離界者(りかいしゃ)の中でもさらに上位の魔術師から神となるものが現れる。中には神になることを目標としている離界者(りかいしゃ)も存在し、彼らは離界者(りかいしゃ)になっても尚魔法の研鑽を行うため徒党を組むことが多い。


「じゃあ神ってもとは人間だったってこと?」

「この世界ではそうですね。魔法を極めすぎて世界を壊してしまうほどの傑物を、世界を維持する側にして存続させるシステムです。」

「寿命とか色々心配なんだけど、それで存続できているわけ?」

「はい。その寿命こそが問題であり、神代の大変革の原因の一つです。世界の構成としてはかなり危うい形ではありますが、基本的に世界の構成はこの形になります。ユウキの世界が異常なのです」


ユウキの世界は一つの意志総体、いわゆる神がすべての(のり)を策定している。複雑な(のり)を組むことは不可能だが、単純な法則が発展して人間が発生するように奇跡的なバランスで策定されている。単純な法則故、破綻が起きえない堅牢な世界となっている。


「神が代わると書いて神代。神になると人間を超越し半永久的に生きることができますが、魔力の枯渇という寿命が存在します。そのためある程度の期間で神が代わることがあります」

「神が、代わる……」

「寿命でなくても、神を目指すものの挑戦により強制的に代わる場合もあります。いずれにしろ神が代わると世界維持を担う存在が変更されるため、大きな影響が発生します。その影響を神代の大変革といいます」


唐突にシノが両手を救うようにかざし、ボウリング大の魔力の球を顕現させた。浅瀬の海の風景を詰め込んだような済んだ青を放つその球をユウキに向けながら、


「物は試しです。この即興世界をユウキが引き継いでみてください。複雑な世界ではなく、魔力さえ流せば同じように維持できます」


とこちらに球を差し出した。

ユウキは戸惑いながらもその即興世界を横から両手で包むように受け取り、魔力供給を代わる。


「うっ……と」


ユウキの魔力を供給した瞬間、その即興世界の色が変わる。みるみる彩度が落ちていき、最終的に深海にいたる大きな割れ目を上からのぞいたような黒が全面に移る不気味な球となった。


「えーっと、これは何かの暗示?」

「同じ魔術でも使用する魔力が違えば性質が変わることを説明したかったのですが……ユウキの魔力はかなり特別なようですね」

「魔力……ねぇ。自分の魔力なんて意識したことないけど、このイサナギの魔力なんじゃなかったっけ?」

「もちろんその神剣と転生に使用した私の魔力がベースとなっていますが、それでもこの結果は予想外です。おそらくユウキの魔法適正によるものではないかと思われます」


言いながらシノが黒々とした球に人差し指で触れ、その即興世界を霧消させた。


「話がそれましたが、同じ魔術でも使い手によって差異が発生します。それは神も例外ではなく、神が代わると世界を維持するための魔力も代わるため世界の成り立ちに大なり小なり影響を与えます」

「それが、神代の大変革?」

「はい。特に魔法の神は代替わりが激しいことが知られており、500年単位で神代の大変革が発生します。そうすると魔法の原理そのものも変化し、それまでの魔力概念が通用しなくなります」


ユウキは最初に滞在していた帝都コロンでこの歴史についてある程度知識を得ていた。少なくとも2000年前の情報まで記されていたので、その間に4回程度神代の大変革が起きている計算になる。


「これが魔法の原理が現在も尚解明されていない原因です。この時代で解明しても次の神代の大変革ではたいてい通用しなくなります。それがわかっているからこそこの世界の魔術師も原理解明に積極的ではないのです」

「そんなものか。俺ならそれでも解明したくなりそうだけど」

「もちろんそういう人もいますが異端とされています。ちなみにこの世界で魔法の学者を称する人は一人しかいません」

「闘争に使う以上、研究は大事だと思うんだけどな」

「はい。そのため自身の魔術研鑽は大事です。ですが共通的な魔法理論を解明しようとする動きは皆無です。結局それらの動きは未来につなぐための他人のための営みです。闘争として使われるからこそ、自分自身へのフィードバックの早い自身の魔法のみを対象とする研鑽という手法が選ばれているのが現状です」


理論の言語化や体系化は再現性を上げて学習効率を向上させるが、それはこれから学ぶ人への恩恵が大きいため他人のための未来につなぐための行為となる。それは自分に余裕がないと行われない活動で、余裕がない状態では行われづらい。一人しかいいない魔法の学者もすでに離界者(りかいしゃ)であり、生活に不安がないから学者をする余裕がある。学問とは裕福な人間にしかできない贅沢な活動である。


「神代の大変革で魔法体系が変わるため統一的な魔法の理論が解明されていない、というのがユウキへの回答になります。ちなみに、ユウキの世界でも類似の現象はありますよ」

「え?」

「地磁気の逆転がユウキの世界では発生していたはずです。あれがもっと高頻度で発生していたなら、人類の文明の発展は遅れていたのではないでしょうか?」


現在は北極をS極、南極をN極として地磁気が発生しているが、この地磁気が逆転する現象が観測されている。もし機械文明が発達した世界で地磁気の逆転が起きてしまった時の影響は計り知れない。もし地磁気の逆転が高頻度で発生するなら、磁力による方位の同定に信憑性がなくなりほかの方法で方位を観測する必要がある。地磁気による方位同定の原理は地磁気が安定だからこそ解明し運用されているが、逆転が頻繁に起きるなら解明されることもなく場当たり的にしか運用されなかっただろう。これがこの世界の魔法の分野で起きていることである。


「ちなみに他の神についても神代の大変革が起きることは当然あります。魔法の神ほど頻度は高くないですが、時空の神が代わった際はかなりの死者がでたという記録があります。言語の神が代わると言語体系に変換があるため記録が残らないことが予測されるため、有史以来言語の神の神代の大変革は起きていません。起きると歴史が終わるためです」

「なんというか、改めてかなり危うい世界なんだな」

「唯一の神を掲げる西洋思想ではなく、八百万の神を想定した古代日本思想のような世界と考えていただければよいと思います」


「……うん。魔法理論が解明されてない理由はだいたい理解した。ありがとう」

「どういたしまして。では休憩もできましたし、また街を回りましょう」


シノが椅子から立ち上がる。ユウキも名残惜しそうにしながら立ち上がりシノの後に続いた。




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