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(2項)こちらの世界

「はじめまして、こちらの世界の神。私は異世界よりの神渉者。名をシノノメメメと申します」


「……あまり驚いておられませんね。恐らくこの世界にちゃんと鑑賞できたのは私が初めてだと思うのですが」


「私の転生魔術は世界法則を保ったままの干渉を可能とします。そのため、この世界則は私には当てはまりませんし、私の世界の神々の権能が活きています」


「そうです。普通の転生魔術は転生先の法則に合わせるものです。しかしこの世界の法則上で魔術の発現はほぼ不可能。そのためこのような特殊な魔術を作らざるえませんでした」


「私は優秀ですので。普通の転生魔術でこの世界に顕現してもほぼ確実に真空かつ魔力のない場所に放り出されてそのまま死んでしまいます。古来から転生魔術には落界という、行ったまま戻れないリスクがあるのですが、その原因はこの世界に足を踏み入れたからではないかと踏んでおります」


「いえ、恨みなどはございません。寧ろこのような世界をよく作ったものだと感動すら覚えています。魔法のない世界を夢見たことはありますが、まさかこのような形で実現するとは」

「まずこの広すぎる世界。人間が極無になるほどの大きさと、ダメ押しに光速度不変の法則を制定し世界の端にさえ到達さえない徹底ぶり。魔法は世界に対する自身の欲の大きさに比例する仮説がありますが、それが本当だとするとこの広大すぎる世界では、形容できる言葉がないほど小さい存在である人間の欲による魔法など発現出来ないでしょう」

「さらに私は一世界の魔力量はある程度決まっていて均等に存在すると言う自論がありますが、ここまで広すぎると薄まりすぎて全く魔力を感知できません」


「あら、電気と磁気はあなたの想定外の事象でしたか。確かにあれらの発明でこの世界の人間の営みもとても便利になっていますね。ただ、あくまで魔法ではないためあなたの域に達することはないでしょう。それらは万有引力則の副産物かと思われますが、いざとなればそれを破棄すれば良いのです。私の世界でも万有引力則を制定すれば電気や磁気を有効利用できるのかもしれませんね」


「いえ、勿論似たような現象はこちらの世界にもありますよ?人間という存在を正しく表現できるなら世界則は自由に組めるのはこちらの世界でも変わらないです。ただこちらの世界は数多の魔法で辻褄を合わせている部分が多く改良の難しいブラックボックスとなっており手をつけるとどのような不具合が出るか想像がつかない状態です。まったく、こちらの世界のシンプルさを見習って欲しいものです。ただその代償として数十億年という歴史が必要なのは些か面倒そうですが」


「その狂気に近い忍耐力の源には大変興味があります。歴史といえば、膨大な歴史を必要とする不自然なこの世界に人間が疑問を抱くのではないか?というのがこの世界の構造を把握した際に最初に抱いた疑念なのですが、人間の様子を見ると奇跡という言葉が霞むほどの幸運と捉えられているようですね。そんな抜け道があったのかと驚嘆しました」


「やっぱりあなたも同じ感想ですか。この永い歴史、広大な世界で人間が表現できる条件を偶々満たしてしまったというのはかなり無理のある発想だと思うのですが。太陽があって温度が安定し、月のお陰で隕石による崩壊を免れ、その前に都合の良い木星による隕石誘導。ここまで人間が存在するためだけに存在する機構があっても、それら全てを幸運で済ませられるものなのですね」


「対策案はあったのですね。そして使う必要はなかった、と。一応人間原理やフェルミのパラドックスのような正解は出てきているようですが主流ではない以上問題ないということですか。全く、私の世界の神々にも聞かせてあげたいです。そういえば聞きたいのですが、未だに世界が膨張しているのは人間の人口が増えたからですか?」


「やはりそうですか。集まった時の欲の上がり方は指数関数的ですからね。世界の膨張によって世界と人間の欲の比率を保っていると直感でわかりました。げに恐ろしきは世界を膨張させなければ魔法が使えるほどに膨れる人間の欲深さですね」


「あぁ、こちらの用件がまだでしたね。ここに訪れたのは別に創造主になるためでもあなたと一戦交えるためでもありません。この世界から私の世界に転生させる許可を頂きたく馳せ参じました」


「転生魔術は転生先の世界則で契りを交わす必要があります。本来は転生すれば転生先の世界則に則るため問題ないのですが、この世界ではそうはいかないため、世界則を制定した創造主の許可が必要なのです」


「条件などはありますか?一応契りですので条件などの提示があった方が魔術が安定するのですが」


「……なるほど、承りました。心配なさらずとも恐らくその条件は自然に達成されていましたが、契りに含めておきます」


「……それは難しいですね。あなたがこちらの世界を直接観測することは難しいと思います。それはどういった目的があるのでしょうか?」


「でしたらこういうのは如何でしょう。私が情報媒体を作成します。こちらの世界の法則を、転生者の因果の事象に限ってその情報媒体に送ります。この条件ならあなたの望むこちらの世界則の観測が実現可能かと思われます」


「では失礼して……」

『全知の神でも満たせぬ果ての 御伽の則を手中に記せ』

『転生世界の魔法的諸原理(プリンキピア)


「……驚きました?まだ私は私の世界則に則っているので、私の世界の魔法の神の権能が働いています。そのため魔法が使えます」

「この本をあなたに。先程申したようにこちらの世界から転生される人物、勇者に起因する事象の中から世界法則を解明する部分のみが自動で記されていく本になります。勇者が興味を持つのはこちらの世界との差異などだと思いますのでそれらが重点的に記されていくでしょう。不完全な形になってしまうのは申し訳ありませんが全部が全部伝えるのは禁忌ですので、ご了承下さい」


「喜んでいただけたようで何よりです。それは転生魔術に必要な楔として残します。いずれにせよ何かをこちらの世界に残す必要があったのですが他ならぬ神の手の内であれば事故が起きることもないでしょう」


「私は読めません。私の世界の神託:勇者譚に寄与しない神だけが閲覧するという条件で魔術を作成しました。恐らくこのやり取りもその本に記されていると思いますが、それを物語の当事者はどのような形であれ観測できません」


「では先程の条件とその本をもって勇者ユウキの転生の許可をここに契り、神の御名下に刻みます」


「……これで私の用件は終わりですので、私はこれで失礼します。この転生魔術は直接あなたの世界へ干渉はできませんし、元々転生先を混乱させない前提で作成されたものですのでご安心下さい。勇者ユウキの転生のタイミングを辛抱強く待ちますが、ここに来ることはもうないと思います」


「……あなたにも遠からぬ幸が在らんことを」


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