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「おかえり。」
暖簾を潜ると目の前には
真っ白な髪をちょんと結び
割烹着を着た若い男性が
台に体を預けていた。
目は綺麗な藍色で
男である僕も、思わず見惚れてしまった。
僕が見惚れていると、
その男性は目を丸くして言った。
「…おや、珍しい。人間だ。
君、この屋台が視えたの?」
僕は、男性の声に頷いた。
すると、男性は目を輝かせて
並べられた椅子に声を掛けた。
「聞いたかい?みんな、
この子、この屋台が見えたって!」
まるで、その男性には、
「何か」が視えているかの様に
椅子に向かって、話しかけていた。
だが、僕には何も見えない。
視えるのはこの屋台と
椅子に話しかける男性だけ。
「あの?其処に何か居るんですか?」
僕は思わず聞いた。
するとその男性は僕を見て、
クスクスと笑った。
「そうかそうか。
この妖達は視えてないのか。
じゃあ、其処の貼り紙、読んでみな。」
男性はそう言うと、屋台の柱を指さした
僕がその柱を見ると紙が貼られていた。
古ぼけた紙には、こう書かれていた。
【屋台ニ入ル時ハ、タダイマ。】
「これ、一体どう言う事ですか?」
僕は紙に書かれた事を読みながら言った。
男性は屋台をぐるりと回って僕の方へ来た
全身が露わになった男性は
僕より身長が高く、割烹着で見えなかったが
白地の着物を着ていた。
「これは、言霊って言ってね、
この言葉自体に、私の妖力が宿ってるんだ。
君がこの妖達が見えるように
手助けをしてあげる。
見た目はびっくりするけど
大丈夫。いい奴らだよ。」
すると、男性は僕の額に自身の手を当てた。
透き通る様な白い肌、長い指、
そして、冷たかった。
僕が驚いていると男性はゆっくりと言った。
「さぁ、目を閉じて、
私がおかえりと言ったら、
君はただいまって言いなさい。良いね?」
僕はその言葉に頷くと目を閉じた。
「おかえり。」
男性の声が響いた。
「…ただいま。」
次の瞬間、冷たい冷気が僕の周りを
通り抜ける様な感覚に襲われた。
驚いた僕は、目を開けた。
そして、目の前の光景に驚いた。
さっきまで其処には、
誰も座っていなかったのに
いつの間にか変な生き物が座っていたのだ。
蛙面のスーツを着た男。
着物を着た一ツ目の女。
イタチ面の洋服を着た女。
そして、この生き物達は、皆
僕の方を見ていた。




