ボロアパート6
彼が出ていって数週間…。
「なんであんな事言ったんだろ。もうこのまま帰って来ないのかな…?」
彼が出ていってから娘は泣く事が減った。
「あんた、あの人がお父さんだってわかってんの?…って、こんな小さいのにわかる訳ないか。」
不安な気持ちを抱えて朝の支度を終える。
こんなにモヤモヤしているのに娘は楽しそうだ。
珍しくニコニコしている。
こんなに笑う子だったのね…何を見てたんだろう。
つられてふふっと笑う。
「よーしっ!今日も頑張ろっか!」
手を繋いで家を出る。気づけば不安な気持ちはどこかへいってしまっていた。
……
その日の昼。
「よし。誰もいないな。」なるべく音を立てずに部屋に入る。だが、ギーッとドアの音が響く。
「さっすが、ボロアパートだな。こんな所によく住めるよなぁ。まぁ、この前まで俺も居たけど。」
ヘヘッと笑いながら部屋の中を物色する。
「ここだったか…。いや、こっちか?」
ガサゴソと金目の物を探す。
「昨日で有り金全部すったからなぁ。
いや!今までのは貯金だ。今日こそ一発当てて大金稼いでやっから!金さえあれば何とかなるんだよ!
最近ツイてなかったからこれからはツキまくりだろ!」
「お〜!あるじゃねぇか!これで…」
「何してんの!?」
突然の声に固まる。ソーッと振り返るとアイツが凄い顔で立っていた。
「ねぇ!何してんのって聞いてんの!」
「い、いや〜。大金をさ、稼ぐ為には軍資金が必要でさ。」
「はぁ?で、泥棒してるっての!?有り得ない!馬鹿じゃないのっ!」
物が飛んでくる。手当たり次第に投げているのか、硬い物が頭に当たる。
「イテッ!な、何だよ!やめろっ!!」
泣きながらアイツが怒鳴る。
「何で!?何でこんな事するのよ!私は普通に生活出来ればそれでいいのにっ!」
「普通ってなんだよ!俺が普通じゃないって言うのかよ!」
「普通な訳ないでしょ!働いてって頼んだのになんで私のお金を盗むのよ!」
アイツのガキが泣く。「うぇ〜ん!ママ〜!」
「うるせぇっ!!お前もそいつもうるせぇんだよ!!」
俺の悪い癖だ。
すぐ逃げる
すぐキレる
……すぐ手が出る。
いつものごとくカッとなり手が出たらしい。気づいたらアイツが頭から血を流して倒れてた。ガキを庇ってた。
「お、おい。なんで倒れてんだ!お、俺じゃねぇ!俺は何もしてねぇ!」
シーンと静まり返って何の音もしない。
とにかく走って逃げた。
最悪だ。
なんでこんな事になったんだ!?
…アイツら死んだのか?ヤベェ。