しくじりクソ野郎と聖女
スナック感覚で読んでください。
廃墟にて男は悲痛な叫びを出すに出せずにいた。椅子に座り両腕を後ろ手に縛られてどうにも動けない。ガムテープで口を塞がれておりどうしようもない。口元を舐めれば剥がせると思っていたが現実はそうはいかなかった。
彼は昼間町を歩いていたところ、突然意識を失った。首筋に僅かな痒みがあるので注射器で何かを注入されたらしい。視界に入る窓から差し込む光から察するに、どうやら今はまだ夕方ではないようだ。一日以上気を失っていなければの話だが。
どれほどそうしていたのか尿意を催して限界に達しかけたころ、事は突然起こった。
「やっほー、元気?」
正面にある扉を開けて入ってきたのは若い女。しかしながら格好が異質であった。白いローブに身を包み、フードで顔を隠していてその憎き尊顔が確認できない。
「ちょっとー、なんで睨むのよ」
口先を尖らせて女はこちらに歩み寄ってくる。手には頑丈な作りの工具入れ。男は嫌な予感がしてならなかった。
「ちょっと待ってね」
女が男の前でしゃがみ込み、工具入れを開けて中身を漁る。少しすると中から電動ドライバーを取り出した。すでに先端にマイナスドライバーがセットされている。まさかこんなところで日曜大工を始めるとは到底思えない。
「さ、あたしも時間ないからちゃっちゃと始めるねっ」
バッテリーを装着して女はそう言うとためらいもなく男の右膝へドライバーを押し付けて引き金を引いた。
冷たい感触から刹那、猛烈な痛みが男を襲って情けないことに失禁した。ぬぐえない涙を流しながら男は自身の膝を見ると流れ出す血と共に穴が開いている。
「あんたさ、やりすぎたんだよね。なんでこうなったかわかるっしょ?」
男は思い起こす。自分がしてきた数々の悪行を。最近は薬物をあちこちに捌いて回った。まさかこんな目に遭うとは思ってもいなかった。
「その顔はわかってるね。じゃあ可哀そうだから終わらせてあげるね」
女の言葉は本当だが嘘をついている。その表情は男のことをまるで可哀そうだと思っていない。ただ仕事を早く終わらせたいとしか考えていない冷徹なものだ。
「ここじゃ懺悔はできないからせめて神に祈んな」
眉間にドライバーが押し当てられる。
「あたしが始末屋であんたはしくじりクソ野郎。そしてあたしは神の代理人で、あんたが罪人。地獄で腐れ」
あまりにあっけない終わりが、これこそがまさに現実だった。聖女のような恰好をした女が引き金を引き、男の脳槽まで破壊した。