(2)なんでお菓子じゃないんだよ! ~ハロウィン短編~
「ハッピーハロウィン! 新藤くん!」
新藤くんとの付き合いは順風満帆。
今ではハロウィンなんて行事に興じられるようにすらなった。
いや、正確には「ハロウィンごっこ」かな。
いつもならハロウィンなんてする習慣はないんだけど、せっかくだからということで遊び感覚でやってみることにした。
ちなみに場所は私の部屋。
とはいえ私と新藤くんとは未だ清い付き合いだし、そのうえ今日は家に私の家族もいる。あくまで健全な遊びの範疇……だと思う。仮装はセーフだよね?
「ハッピーハロウィン、寺内さん。その猫の仮装、可愛いね」
「ありがとう。今さらながらに疑問なんだけど……ハロウィンってもっとこう、吸血鬼とか西洋の妖怪チックな衣装を着るイベントなんじゃないの? なんか私だけ、仮装というよりただのコスプレをさせられてる感じなんだけど……」
「俺的には似合ってて可愛いと思ったんだけど、センス無いのかな……」
「あのね、新藤くん。これセンスとかじゃなくてコンセプトの違いだと思うよ? 大丈夫、センスとかじゃないから落ち込まないで。それより新藤くんは仮装しないの?」
「寺内さん。それはね、俺のような男がしても意味がないんだよ。美少女をより可愛く魅せるためのもの──それが仮装なんだ」
「それは極論すぎないかな!? しかし、今日はいつになく饒舌だね、新藤くん」
最近はこのやり取りにも慣れてきた気がする。あと美少女とか可愛いって言ってくれて嬉しい。
「そう? それじゃあさ、寺内さん。さっそくなんだけど」
はいはい、定番のやつね。ハロウィンといえば、このセリフ。
「それじゃあ新藤くん……トリックオアトリート!!」
言っておいてなんだけど、正直……新藤くんがどういうお菓子をくれるのか読めない。
「お菓子はないからイタズラをしてほしい」
「は?」
「お菓子はないからイタズラをしてほしい」
「いやいやいや! 聞こえなかったんじゃなくて聞き間違いかと思ったんだよ!! なにそれ!?」
前言撤回!! ぜんぜん慣れてなかったよ!!
「あれ? ハロウィンって、お菓子かイタズラか選べるんじゃないの?」
「なにその選択制!? 違うから!! イタズラっていうのは建て前で、これお菓子をもらうイベントだから!!」
「果たしてそうかな……?」
「いやいやいや。え、むしろ疑問を持ってる新藤くんがナゾなんだけど……」
「そうだよね……俺にイタズラなんてしたくないよね」
「逆、逆だよ!! 好きな人にイタズラなんて許されるのかなって!! 新藤くんは嫌じゃないの!?」
「うん、全く」
「えー……なんでこういう時だけ迷いなく断言できるんだろう……。でも、どうすればいいの? 正解が分からないんですけど……」
「いちど寺内さんの思うようにやってみるといいと思う」
「そう言われても……」
事前準備も無しにイタズラって、けっこう難易度高いよね!? 今からサプライズ……無理だ。
考えあぐねた私は、とりあえず新藤くんの頭を撫でてみる。あ、すっごいサラサラしてる。
「ど、どう?」
「心地良くて死ねる」
「満足してくれたなら良かったよ……それと、お願いだから生きてね」
「寺内さん」
「ん?」
「これはイタズラとは呼べないんじゃないかな……?」
「え!? どういうこと!?」
「どちらかというと、これってご褒美だと思うんだ」
「いや、うん、まあ。確かに……」
頭を撫でるのって大体が褒めるときだし、さすがに反論できない。
「イタズラって言葉からするに、少しは嫌がる要素が必要かと」
「嫌がらせされたいってどんな要求なの!? いま私が受けてるコレこそ、まさにイタズラなんじゃないの!?」
「…………」
「あっ!! 別に嫌ってわけじゃないから!! シュンとしないで!!」
「外国だとトイレットペーパーを木にかけたりしてイタズラすることもあるそうだよ」
「立ち直り早っっ!! うーん、それはちょっと家族に迷惑がかかりそうかな」
「確かに、ご家族に迷惑をかけるのは俺としても不本意だね。何か似たようなものは……勉強机の上にあるガムテープくらいか」
「あ、それ? 妹が置いていったのかな。『部屋の大掃除するから』って持っていってたんだけど、『私にも次、貸して』って言っておいたから気を利かせて持ってきてくれたんだと思う」
「ガムテープか……」
それから新藤くんと話あった結果、ガムテープでイタズラをするという事になった。
そして。
結果的にイタズラっぽくはなったんだけど……でも、これは、うーん。そう思っていると、おもむろに部屋の戸をノックする音が聞こえた。私は現在の状況も忘れて、条件反射的に返事をしてしまう。
「お姉ちゃーーん。ガムテープなんだけど、ごめん、やっぱりもう少し使わせて──」
………………。
あああっ!!!!
「ちょっと待った!! これは違っ!!」
しかし妹は私の話を最後まで聞くことなく、叫びながら走り去った。
「おっ、お母さああああん!! お姉ちゃんが!! 彼氏さんをガムテープで縛ってるうううう!!」
それから寺内家で、すぐに緊急家族会議が始まったのだった。
新藤くんの口添えでなんとか『ガムテープ縛り変態ドS女』の疑いは晴れたものの……そもそもの発端は新藤くんなんだよね。
でも、必死に私をかばってくれる新藤くんの姿は素敵だった。やっぱりかっこいい、好き。
後日、親友のちーちゃんにその事を報告すると──とても可哀想な子を見るような目で見られた。