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もと料理係とかぼちゃのランターン

大変ご無沙汰な料理係シリーズです。

単体で読むとわかりにくいと思うので、あとがきに登場人物紹介を載せておきます。

 ハロウィンってご存知ですか?


 最近我が国に入ってきて定着し始めた、異国のお祭りです。


 何でも、年に一度だけオバケがお祭りすることを許された日とかで、この日はオバケは人々を脅かし放題、そしてあの世では許されていないお酒も飲み放題なのだそうです。

 で、それに対抗するために人間はオバケよりももっと怖く仮装して、より飲んでより大騒ぎをするのです。


 オバケが怖がって退散するほどにすごい仮装をするとご褒美がもらえるという言い伝えもあるそうで、小さな子までオバケになりきり民家のドアを叩いて「とっくりかおかしか!」と言って回ります。さすがに子供にとっくり――お酒を渡すわけに行かないので、各家庭で用意したお菓子を子供にあげるのです。

 おかげで近年都会では羽目を外した若者たちが大勢夜の街に繰り出して、オバケの仮装で大騒ぎ。馬車をひっくり返したのはさすがにやり過ぎだとは思いましたが(騎士団にしょっぴかれてしまったようです)、あの騒ぎならオバケもそうそう近寄れないと思います。


「え? 違う?」


 思わず目を丸くして目の前のソファに座っているジャンゴさんを見つめてしまいます。

 ジャンゴさん、ハロウィンって知ってるかってあなたに聞かれたから答えたんですよ? ハロウィンってそういうものですよね?


 あ、遅ればせながらこんにちは、ピアです。ただいま本日の目指せ王太子妃なお勉強を終えて休憩時間、お茶と美味しいりんごのケーキを堪能中です。

 一方のジャンゴさんも王国近衛騎士団員とは思えないガサツさ――いえいえ、フランクさでケーキにかぶりついています。まあ私も普段通りにしてもらったほうが気が休まるので、別に文句はありません。


「嬢ちゃん、そもそも『とっくり』じゃなくて『トリック』だ。『いたずら』のこと。子供たちの合言葉は『いたずらかお菓子か』だってば。誰だ嬢ちゃんにその入れ知恵した奴は。成り立ちからしてめちゃめちゃだわ」


 少し冷めた紅茶で喉を湿らせ、呆れ顔のジャンゴさん。むむむ、ちょっとムカつきます。


「だってこの間グレン団長が」

「グレン? そういやぁこっちに来てたなあいつ。まだ根に持ってるのか、仮にも未来の王太子妃にそんな変なこと教えるなんて。マジ勇敢なのか命知らずなのか」


 グレン団長は以前は第二騎士団副団長でしたが、今は王都北のパラス領で騎士団長をしています。まあ経緯は私がミートパイを作った時のお話参照で。グレン団長、私がアラステア様の弟君、かわいいかわいいニールことニールセン殿下と仲良しなので気に入らないんですね、きっと。


 そうして私は正しいハロウィンの知識を改めてジャンゴさんに教わることになったのです。




 ということで、数日後。


「今日はかぼちゃの用意をしなきゃ!」

「おう。ジャック・オ・ランターンだな」


 意気込んで中庭に行くと、手配してもらっていた大きなかぼちゃがゴロゴロゴロ。ところ狭しと転がされています。

 これ、ホントに大きくて、どれもちょっとした椅子くらいの高さがある。外周は推して知るべし。

 中には私の胸くらいの高さがあるものまであります。

 これのお尻の部分をカットして底から種と綿をくり抜いて、目や口の形を切り出して、乾燥させてから下から中にろうそくを入れてランターンにするのです。

 それをこの中庭に並べ、飾り付けをして、ハロウィンパーティーをする。アラステア様やニール、王族の皆様をお招きして楽しくやろうと思います。だって未来の家族だもん!


 さあ、ここはひとつこのピアちゃんの魔法体質の見せ所。どんなに大きなかぼちゃでも、包丁ひと切りで捌いてみせましょう。


「いきます!」


 さくっ。


 あ――あれれ?


 かぼちゃは見事に種と綿を除いた乱切りに。ええ、最早かぼちゃの形はありません。要するにお料理に適した形になってしまっています。


「ええ? おっかしいなあ。もう一度」


 さくっ。


「まただぁ……何で?」


 またしても食べやすい大きさの乱切り。皮もしっかり剥かれています。

 料理するならこれでいいけど、今は違う。

 私は! かぼちゃのランターンを作りたいの!


「嬢ちゃん、珍しいな。どうした」

「何ででしょう」


 さっぱりわからない。

 自分の得意分野の筈なのに上手にできないなんて、何だか焦りと不安が胸の中に湧いてきます。

 そうして首をひねっていたら、後ろからポン、と肩を抱かれました。


「どうしたの、ピア」

「アラステア様!」


 そこにいたのはアラステア様。今日も今日とてご尊顔は麗しく、声もめちゃめちゃイケボ。爽やかなグリーンノートの香水がそれらを引き立てる。

 つまり何が言いたいかっていうと、今日も我が最愛の婚約者様は世界最高ウルトラハイパーゴージャスでイケメンってことでございます。

 そのゴージャスイケメンが私の背後から肩を抱き、見下ろしています。ふわあ、何度見ても眼福眼福。


「今日もアラステア様はかっこいいって見惚れてるところです!」

「ふふ、ありがとう。いつもかわいいよ、ピア」


 ほめられてキュン死にしそうです。ステキ!


「あー、殿下。実はですね」


 ジャンゴさんが甘々な空気に切り込みます。あ、話が進みませんね。ごめんなさい。

 周囲からは「勇者……」「あれはジャンゴじゃなきゃできない」とヒソヒソ話し声が聞こえます。


 そして経緯をジャンゴさんがアラステア様に話しました。するとアラステア様、少し考え込んでしまいました。


「――ねえ、ピア。ピアのことだからくり抜いたあとのかぼちゃも料理しようって考えてる?」

「はい、もちろんです。かぼちゃのパイにしようかと」

「普段通りにかぼちゃのパイを作ろうと思ったら、最初はどうする?」

「ええと、適当にかぼちゃを切って、それから蒸しますね」

「それじゃないかな」


 え? それって?


「つまり、このかぼちゃは将来的にかぼちゃのパイになる。だから、ピアの魔法体質はそっちに合わせちゃったんじゃないかな」

「ランターンじゃなくて、パイを作るために捌いちゃったってことですか?」

「ピアの魔法体質は料理時間の短縮だからねえ」


 ランターンは料理じゃないから希望通りに行かなかったということですか! びっくり!

 でもその可能性はありますね。

 だとすると、私の能力でランターンを作るのは無理ということでしょうか。

 そこだけはちょっとガッカリです。


「ま、まあ落ち込むなよ嬢ちゃん。そっちは俺たちで作るからよ」

「そうだよ。みんなで作るのも楽しいんじゃないかな」


 ジャンゴさんとアラステア様が慌てて声をかけてきます。

 それはそれでびっくりなのですが、でもそれ以上に。


「原因をパッと思いついちゃうなんて、さすがアラステア様です! すごいです! カッコいいです!」

「そっちかよ! 落ち込んでるんじゃないのかよ!」


ジャンゴさんのつっこみが冴えますがとりあえず私の耳には入りません。


 ああもうキラキラのエフェクトがアラステア様の周りに舞って見えます。褒めても褒めても褒めたりなくて、思いつくことをどんどん力説していたらチュッと音がして頬に柔らかいものが触れました。

 おかげで私のアラステア様讃歌はピタリと止まります。


「さあピア、ここはジャンゴたちに任せて私のためにかぼちゃのパイを作ってくれるかい?」

「はい! もちろんです」


 でもまだ私の顔は真っ赤っ赤だと思いますけどね!


 こうして無事支度を終え、ハロウィンパーティーは滞りなく開催されました。

 陛下も王妃様もニールも、そしてもちろんアラステア様もずっと笑顔で、楽しんでもらえたのではないかなあと思っています。

 特にランターンの飾りは中庭を幻想的に彩って素敵でした。騎士団の皆さんが頑張ってくれたからですね! 

 そしてくり抜いたかぼちゃで作ったパイやお料理も大好評。騎士団の皆さんにももちろん差し入れしました。喜んでもらえたようでよかったです。






 ところで、私に間違ったハロウィンを教えた誰かさんなのですが。


「えっ? 違った?」


 私の部屋を訪ねてきたアラステア様の言葉に、思わず首をかしげてしまいます。

 優雅にティーカップを傾けながらにこやかにアラステア様が教えてくれました。


「調べたらグレンもパラス領の砦ででっち上げた内容を教わったらしくてね。グレンもショックを受けていた。

 ――というわけでパラス領にいるグレンから間違ったことを教えてしまったお詫びが届いているよ」


 ニコニコ顔のアラステア様から渡されたのは、大きなかごに入った秋の食材。栗やかぼちゃ、お芋などが山盛り! どうやらパラス領の特産品らしいです。

 どれもぴっかぴかでいい品なのがよくわかります。

 間違ったハロウィンを私に教えてしまったのはわざとじゃなかったんですから、気にすることないのにグレン団長。

 ちょっとばかり私の中でグレン団長の株が上がりました。ただのショタ――じゃない、ニール愛をこじらせた変た――じゃない、まあ、元々根は悪い人じゃないとはわかっていましたけどね。


 ずっしりと秋の実りがつまったかご。ステキな贈り物です。ありがたく頂戴いたしましょう。


「これはまたお菓子をたくさん作らなきゃですね」


 アラステア様が嬉しそうに破願しました。甘い物、お好きですもんね。

 何を作るか2人で相談するのも幸せな時間なのです。


【登場人物紹介】


ピア:主人公。料理の時間をサクッと短縮しちゃう料理体質の持ち主。それを買われて討伐パーティーの料理係になり王太子アラステアたちと旅をする。現在は聖女としてアラステアの婚約者に。

天真爛漫でアラステア様命。


アラステア:王太子。ドラゴン討伐の命を受け、ジャンゴやピアたちと討伐に向かった人。ピアとは相思相愛。ちょっと腹黒。


ジャンゴ:冒険者のようなフランクなおっさんだが、実は結構地位のある騎士でアラステアの護衛。おっさん扱いされているが、実はまだ25歳。よく仕事をサボってはピアにおやつをねだっている。


グレン:元々王国第二騎士団の副団長だった男。ピアをちょこっと怒らせ、それが原因で北のパラス領の騎士団へ団長として異動した。ニールセン殿下を溺愛しているが、別にBLでもショタでもない。


ニール:本名はニールセン、御年10歳。アラステアの弟王子。天使。かわいい。ペットは子豚のピンキー。

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