第四話 倒せばいいだけである。
理央は剣を抜いてモンスターに斬りかかっていた。
自分より身長が高いオークが振り下ろす棍棒を回避して、そのまま斬撃を叩き込む。
それだけなら何も問題はないように思うのだが、理央の剣は光り輝いており、体も赤いオーラを身にまとっているように見える。
加えて、本来ならかなり脂肪が分厚く、頑丈なモンスターといえるオークの肉体を、兵士から渡されたものだが、正直言ってその辺で売られていただけと言っていい剣で斬ってダメージを与えている。
しかも、オークの返り血を回避する余裕付き。
「な……お、おい!今の動き、俺の『勇者の剣術』にそっくりじゃないか!オーラの色は違うけど、なんで天道が使えるんだ!?」
宝生が叫んでいるが、理央は全く気にしない。
「チッ!まぐれ野郎ばっかり図に乗ってんじゃねえ!」
モンスターが大量出現する原因となった赤座が吠えるように火属性魔法を連射する。
直径二メートルはある炎の塊だ。
当たれば強烈なダメージを叩き出すであろう魔法を即座に、しかも魔法名すら言わずに使えるのは、さすが『最上級火属性魔法』のスキルということだろう。
理央を巻き込む形でスライムに向かって放たないだけの倫理観は持つべきだと思うが。
「ちょ、赤座君!?」
「うるせえ!アイツがあんなモンスターが集まってるところで戦ってるからだろうが!」
冬美が驚いている。
だが、さらに驚愕することが起きた。
赤座が放った魔法が理央にあたった瞬間、炎の玉がチリとなって消滅したのである。
「な、なんだ今の……」
困惑する赤座だが、理央がスライムをぶった切って倒した後、素材を残してチリとなって消えていくスライムを放置して赤座の方を見る。
「赤座!俺を狙うな!今俺は、攻撃的な魔法を受けた場合にそれを無効化する魔法を使っている!俺を巻き込むように撃つと魔法そのものが消えて無駄になるぞ!」
「はあ!?魔法を無効ってどういうことだよ!」
「昨日、小百合がお前にやっただろ!あれと似たようなもんだ!」
そういって、理央は次のモンスターに斬りかかる。
そしてやはり、その動きはとても速い。
次々とモンスターに斬りかかっていくが、疲れを知らないとばかりに剣を振る。
「というか私たちも戦わないと!『アイスブラスト』!」
冬美が杖を振ると、つららのようなものがいくつも出現し、理央がいないエリアに立っているゴブリンたちを貫いて倒していく。
「なるほど、思ったより私達でも戦えるみたいね」
「そのようですね」
時雨は槍を構えなおして、リリーはレイピアを引き絞るように構える。
そして二人とも突撃した。
しかし、倒せるといっても油断するつもりはないようで、お互いの死角を確認するようにしてモンスターを倒していく。
「チッ!アイツらばっかりキルスコアを稼がせてたまるか!黒川、青竹、俺たちはあっちだ!」
さすがに女子生徒まで混じってしまうと攻撃するのは不味いと考えたのか、無力化云々の件は完全にスルーして別の方向に魔法を放つ赤座。
「こうしちゃいられない。俺たちも戦わないと……」
宝生が少し遅れる形だが参戦。
聖剣を振って、襲い掛かってくるモンスターたちを斬り倒していく。
この場を以って、十人のクラスメイトがしっかりと『共闘している』状態になった。
先ほどまではモンスターが出てくる数が少なく、それも一体ずつだった。
多くても三体ほどで、これでは十人が一斉に戦うようなものではない。
だが、大量のモンスターが出てきたことで、手分けして戦わざるを得ない状態に。
天道理央と宝生正樹は剣を振るい、遊部温香は短剣を振るい、周防時雨は槍を振るい、安藤リリーはレイピアを振るい、赤座亮平と黒川誠二と青竹光男は魔法を使って、神薙小百合と白雪冬美がダメージと疲労を蓄積する前衛たちを回復する。
状況に流されて行った共闘ではある。
だが、常に人間は状況に流されているのだ。
とても『人間らしい』共闘は、すぐに終わりに近づく。
「……!?」
もうそろそろ終わると考えた時だった。
理央の感知圏内に、何かが出現する。
振り向くと、そこには大型の魔法陣が出現していた。
理央は自分の目に魔力を流してそれを解析。
一瞬で、『召喚魔法』だと理解した。
「チッ……」
理央は舌打ちして、近くにいるモンスターを倒した。
そして、そのまま魔法陣のところに移動する。
だが、煌々と輝く魔法陣による召喚の方が早かった。
「なんだこいつは……」
魔法陣から出てきたのは、岩石のような鎧を身にまとっている四足歩行の竜だ。
翼は持っておらず、全長は二十メートルに匹敵する。
荒々しい顔つきで、口の中にはマグマのようなものが流れているように見える。
「とりあえず……」
理央は剣を真横に一閃。
魔力で出来た斬撃が飛んでいって、ドラゴンにあたる。
だが、あまり効いている様子がない。
「はっ!まぐれ野郎の無双モードはここで終わりか?『ハンドレッド・バーンブラスト』!」
赤座の周囲に、百個の炎の弾丸が出現する。
そして、そのすべてがドラゴンに向かって射出された。
最上級火属性魔法のスキルは、理央が観察する限り、上級以下の火属性魔法の完全制御を可能とする。
本来なら無差別攻撃となる魔法であっても制御し、全てを敵に向かって飛ばす凶悪な魔法になるのだ。
爆撃音が周囲に響く。
……しかし、煙が晴れると、無傷と言っていいドラゴンが悠然とたたずんでいた。
「な、どうなってんだ今のは……」
「赤座は引っ込んでいろ。俺がやる!」
宝生が前に飛び出してきた。
聖剣を上段に構えると、その刀身が光り輝く。
「いくぞ……『極光覇王斬』!」
光り輝く聖剣を構えたまま突撃する宝生。
だが、ドラゴンは……何もしない。
いや、理央の目には、岩石に覆われてよく見えない足で先ほどよりもしっかり大地を踏みしめているように見える。
聖剣を振り下ろす宝生。
だが、それでもドラゴンは無傷だった。
「な……ば、馬鹿な……勇者専用の最強技だぞ!?」
驚いている宝生。
だが、驚いている暇はない。
宝生めがけて、ドラゴンが口を大きく開いた。
その奥には、マグマのようなものがグツグツと煮えたぎっている。
「冬美、俺に氷属性の付与魔法。小百合、俺に光属性の付与魔法を頼む」
そういいながら、理央は突撃する。
「わかった!『エンチャント・ブリザード』!」
「光属性だね。『エンチャント・シャイニング』!」
二人の付与魔法が発動して、理央の背中に二つの魔法陣が混ざるように出現。
次の瞬間、理央の剣を白く輝く氷が覆いつくした。
氷が付いた分だけ急激に重くなるが、光属性魔法には筋力補正もついているので、自分の中でどれほど強化が行われているのかを再計算して走り続ける。
ドラゴンの口の奥からマグマが噴射された。
だが、その直後に理央は宝生の前に出て、剣を振るう。
圧倒的な粘性と密度を誇るマグマという物体に対して、氷の剣を振るうだけでは何も解決しない。
しかし、それは物理的な面で見ただけの話だ。
理央自身も魔法を使って、氷属性の『強度』を上げる。
そして、光属性魔法によって魔法そのものの質を向上させて……まあ、これはなぜできるのか『光属性』と『質』の因果関係は不明だが、できてしまったものは仕方がない。
そうしてできた氷の剣を振るって、マグマのブレスを全て無力化させる。
「て、天道……」
「だんだん面倒なことになってきたな。ただ、ある程度分かったことがある」
宝生が驚いているのを無視して、理央は剣を収めて突撃。
そのままドラゴンに真下に滑り込んだ。
「うわ、こいつの真下あっついな……」
マグマを体内にため込んでいるようなドラゴンが熱くないわけないので、そのまま計画を実行する。
「リアクター・ブースト」
他人にかける付与魔法である『エンチャント』ではなく、自分に『魔力技術的な付与』である『ブースト』を行使する理央。
理央の体が赤くなっていき。汗がかなり流れ始める。
そのまま、理央はドラゴンに手を添えて、持ちあげ始める。
「おおおおおおりゃあああああああああ!」
ほぼ体の先端部と言っていい場所から持ち上げたため、ドラゴンの体の後ろ側が全く地面についていない状態だ。
「お前たち!遠距離攻撃をぶち込みまくれ!こいつは受けた衝撃を全て地面に流すスキルを持っている!こうして持ち上げてやれば、地面に流すことはできない!」
「冷静に突っ込んでいいかな。なんで持ち上げられるの?」
「付与魔法みたいなものだ!」
即答する理央。
とはいえ、クラスメイト達もボーっとしている暇はない。
それぞれができる遠距離攻撃を連続で叩きこむ。
直撃のたびにドラゴンから悲鳴が上がるし、その口に近い理央としてはうるさくてたまらないが、今は我慢する。
散々理央をどうにかしようと暴れているが、それも長くは続かない。
三分ほど経過すると、ドラゴンは動かなくなった。
「ふう……疲れた」
そのままドラゴンを地面に放り投げる。
ズドオオオオオオオオオオオオンという派手な音が鳴ったが、それと同時にクラスメイトの遠距離攻撃も収まった。
ドラゴンは、もう動いていない。
冬美が走ってくる。
「理央君!あんなドラゴンを持ちあげるなんてすごいね!……なんだかすごく汗臭いけど!」
「正直に言うんじゃない……さっきのはリアクターブーストっていって、筋力を馬鹿みたいに上げられるんだ。ただ、若干制御が難しくてな。体温が上がるし、その体温を下げるために汗を流すしかないんだよ」
理央は自分が背負っていたバッグのところまで戻ると、水筒を取り出して滝のみですべて飲み干した。
そのままグイっと袖で口元を拭く。
「ふう」
なかなか荒々しい仕草の混じる理央に、冬美は目を輝かせて、小百合はチラチラと視線を向ける。
「さて、ドラゴンも素材だけになったし、回収して帰るか」
そういって、赤座のところまで歩いて行って、肩をポンッとたたく。
「実力の差は分かったか?今のままならいくらやっても同じだ。俺に勝ちたいなら、俺の運を疑うんじゃなくて、自分のココを疑え」
ココと言いながら自分のこめかみをトントンとたたく理央。
「……チッ!クソが」
喧嘩が強く、異世界に来て多種多様な魔法を手に入れた赤座だが、それだけで理央をどうにかできるわけではない。
ただ、赤座なら負けっぱなしでいようとは思わないだろう。
理央はそれで十分。
「さて、帰るか。俺はちょっと疲れたよ」
理央の言い分に対して、誰も文句は言わなかった。
もともと、『イケるところまで行ってくれ』と言われていることもある。
撤退の準備をして帰っていった。
ちなみに、最後に戦ったドラゴンから手に入れた素材を騎士団に預けると盛大に驚いていたが、真意は不明である。
まあ翌日にはわかるだろう。
夜になってベッドに寝転ぶ理央は、フウっと息を吐いて、窓の方を見る。
「……いったいいつからついてきてたんだ?スライム君」