第三十三話 理央の圧殺劇
「ノーバシュア王国……思ったよりも距離があるな」
空中を飛行魔法で爆走する理央。
ホバーボードをもう一個作ることも可能ではあったが、『もういいや。飛んでいこう』ということでそのまま飛行魔法を使って空を飛ぶことにした。
魔法研究を行っている研究員が『そんな簡単に飛行魔法って使えるの?』という表情になっていたが、理央はそんなことは気にしない。
「そろそろ見えるはずだが……」
珍しく眼鏡をはずしている理央。
11.2の凶悪的な視力が解放されており、超微弱な雷属性魔法を使って負担を軽減している。
かなり奥まで正確に見えているが、ノーバシュア王国の領土内には入ったがまだ首都が見えない。
「おそらくアルテはもう到着して倒しているころだろうが……俺の方はまだ見えんな。どんだけ遠いんだ……」
もちろん、首都や王都といえる場所をどこに配置するかということは重要なことなので、別に文句を言うつもりはないのだが、それでも王都が直接攻め込まれているという現状を考慮すると、遠いのは少々もどかしい。
音速の倍の速度で動いているのに、まだ先が見えないというのは遠い話だ。
「……よし、あそこか……おいおい、さすがに城壁がバラバラにされているのは想定外だぞ」
理央は溜息を吐きそうになったが、それを我慢してそのまま突撃する。
城壁の奥では、巨大な鉄の棍棒を持っている三十メートルはありそうな巨人がエンセルと戦っていた。
エンセルは翼を広げて双剣を構えて相対しているが、正直、質量に違いがありすぎる。
双剣は盛大に付与を積んで武器防御を行うために使っており、基本的には超強力な光属性魔法を使って攻撃している。
光の弾丸が高速で放たれ続けており、恐ろしいほどの威力が宿っていることがわかるが、巨人がひるんでいるようには見えない。
「なるほど、正直、耐えているというのが現状か。まあ、それで問題はない」
巨人の周囲を見渡すが、破損しているものが多い割に人影はない。
獣人たちの巨人よりも奥に獣人たちの姿が見えるので、おそらく住民の避難誘導を行っていたのだろう。
「……避難誘導は済んでいるようだな。なら……問題はな……!」
理央自身の『警報』のスキルに何かが引っかかった。
「巨人の目に映像の送信魔法……アイツ、あの図体を戦闘力で、まさか偵察用の個体なのか?」
偵察用に巨大なモンスターが使われるという点で言えば、理央としては予想以上ではあっても想定を超えることはない。
だが、そもそも予想を超えてくるとは思っていなかった。
試しに魔力を自分の目に流して鑑定してみると、作りそのものは簡単にできているようで、特別頑丈に作られているわけではない様だ。
眼球を破壊すれば、映像を送信する魔法は使えなくなる。
「とりあえずあの目をぶっ壊すか」
戦う際に敵の視力を奪うのはとても効果的である。
もちろん、それが意味をなさない時がないわけではないのだが、試してみることに損はない。
理央は自分の手のひらに魔力を固めて弾丸のようなものを二つ作り出す。
そして、『速度上昇』と『貫通力強化』の付与を盛大にかけまくった。
準備が完了すると射出。
高速で放たれたそれは、一直線に巨人の二つの目を破壊した。
「GUOOOOOOOO!」
悲鳴をあげる巨人。
まあ、急に両目をつぶされて悲鳴を上げないものなどいないだろう。
それは人間だろうとモンスターだろうと同じだ。
「な……今のは……」
エンセルが驚いているようなので、そちらに近づいていく。
「エンセル。どうやら踏ん張っていたようだな」
「り、理央さん。もう来たのですか?」
「ああ。ついでに、アイツの両目が映像送信魔法になっていたから潰しておいたぞ」
「え、映像を?」
「ああ。まあ戦術的に考えても視力をつぶすのは効果的だからな。容赦なく潰させてもらった」
「そこまで見えていたのですか……」
「そういうわけだ……」
理央はとりあえずエンセルを観察する。
どうやら相当無理をして魔法を使い続けていたようで、肩で息をしているし、魔力を使う際に体の中で流れる回路がズタズタになりかけている。
加えて戦闘が長引いていたのだろう。見たところ一発も敵の攻撃を食らっていないのに、腕にはつながれているし、服の裏側にも血が流れているのがはっきりわかる。
「エンセル。下がっていろ。自分の状態は分かってるだろ」
「……そうですね。ここは下がります」
四天王の中では最も精神年齢が高いエンセル。
もちろん悔しいとは考えているだろうが、戦闘力の差もあるため、必要以上に主張することはない。
「さてと、まあ目をつぶしたし、俺のことが誰なのかはわかっていないと思うが……とりあえず魔力である程度察することができるという前提で蹂躙させてもらおう」
理央は魔力を固めて剣の形にする。
そしてそれを大上段に構えた。
その剣を延長するように、刃に魔力を纏わせていく。
その段階になって、巨人はその力の大きさを悟ったのか、少しうろたえ始めた。
だが、思ったよりも混乱が少ない。
「UOOOOOOOOOOOOOOOO!」
巨人が再び吠えた。
そして目を見開くと……ギョロリとした瞳が理央を見る。
「なるほど、再生能力か」
だが、映像を送信する魔法の力はもう残っていない。
そこまでは再生されないということは、映像を送信する魔法は外付けなのだろう。
「だが、無意味だ」
理央は剣を振り下ろす。
巨人は鋼鉄の棍棒で防御しようと振り上げたが、理央の剣は、そんな棍棒をたやすく砕いて、そのまま剣が巨人の体を斬り裂いていく。
「グオオオ!」
どうやら想定外の威力だったようだが、それを理央が気にすることはない。
飛行魔法を維持したまま突撃し、そのまま胴体に向かって剣を突き刺す。
特殊な魔力をそのまま巨人の体内に入れた。
そして、巨人の胴体の内側で爆発が発生する。
「グガアアアアアア!」
内側で爆発する何かによって内臓が変になったようで、口から血を吐く巨人。
「ほう、内側は脆いな。なら遠慮は不要だな」
理央は黒い笑みを浮かべると、そのままさらに多くの魔力を体内に流し込む。
だが、流し込んだ場所ではなく、他の場所が爆発している。
「ん?体内で魔力のめぐりが速いわけか。まあ、そろそろいいだろう」
剣を胴体から抜く理央。
そして、左手にオーラのようなものを纏わせる。
それと胴体に叩き込んだ。
すると、体内に流し込んでいた理央の魔力がすべて爆発し、目から生命の光が失われて行った。
「……ま、こんなもんか。まさか、体がでかいっていうのに、体の内側に対して何の対策もしていないとは……あ、ちょっと待て、このまま倒れたらヤバいな」
身長三十メートルということは、身長二メートルの人間と比べれば3375倍の重さになる。
おそらく体重は三十万キロをはるかに超える……言い換えれば少なく見積もって三百トン以上だ。
そんな重さの物体が町の中で倒れたら目も当てられない。
「とりあえずワイヤーを使ってどうにかするか。町の外まで浮かせて引っ張っていこう」
空に巨大な魔法陣を出現させて、そこから頑丈なワイヤーを次々と出現させて巨人を抱える。
そしてそのまま魔法陣を移動させて、町の外まで連れ出しておいた。
「この王都の中央にはこいつが通ってきた穴があるはずだし……面倒だな」
想定よりもやることがとても多い。
内政に力を入れて理央の頭の中を知識を開放していくつもりだったが、そうも言っていられない可能性が十分高くなってきた。
「巨人が持っていた映像送信魔法がイツガキ連合国を攻めてきたオーシャンモンスターに搭載されていない保証はない……テレパシーを再現する魔法はまだ調べてないな。情報伝達の魔法を調べておくべきだった」
巨人を倒しながらも様々なことを考えていた理央だが、そのほとんどのリソースが内政に向いている。
どうやらそうも言っていられなくなった。
「まあ、この程度のオーシャンモンスターなら普通に送り込んでくる可能性もあるか……」
ハートライト王国からの情報をまとめている限りでは、この巨人程度のモンスターの存在は珍しくない。
だが、オーシャンモンスターを撃退する設備が砦の国にしかない以上、それ以外を攻められると防衛不可能である。
「……東なら俺の管轄だが、それ以外に攻められると……いや、それは今考えても仕方がないな。とりあえず目先のことをに取り掛かろう」
王としての責任があるので、最優先はバスタード王国だ。
頭の中の知識を開放すれば、国内だけで経済をまわしていくことは十分に可能である。
だが、思ったよりも問題が深刻になっているようだ。
簡単にまとめてしまうと……タイミングが悪い。




