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第三十話 都市の意義

「困ったことになった」

「どうしたアルテ」

「人手が足りないよおおおお!」


 チキショオメエエエエ!という声が聞こえてきそうな勢いでアルテがそういった。

 場所は理央の執務室。部屋にいるのは理央とアルテだけである。


 作業が早いエイドの十倍以上の速度で書類が作成され、ホチキスで止められてきっちりまとめられていく。

 ……ところどころデザートのイラストが見えるのは、役員に配られるおやつのレシピだろうか。

 とてもおいしそうである。子供っぽい雰囲気のオルバが見たらかなり喜ぶだろう。


「で、どこに人がいないんだ?」

「建築業界だよ!全然足らない!七つの都市を作り上げて、六角形にしてそれぞれを鉄道でつなげる。確かにそれそのものはすごい構想だけど、全然人手が足りないんだよ!」


 当然である。

 そもそも、大規模な都市を作り、それらをつなげるというのは、文明種の中で『技術』と『繁殖力』と『現存数』がそろった人族の専売特許のようなものだ。四種の亜人だけで言っても、最も多い獣人であったとしても人間の繁殖力には遠く及ばない。

 ハムスターの獣人もいるのだが、繁殖力がやたら高いが平均寿命が十五年という、この世の終わりのようなレベルだった。

 ……ちなみにみんなかわいらしい容姿をしていて基本素直でアホなので、癒しが欲しいと考えている人にとっては、ハムスターの獣人がいるエリアは天国らしい。


「……まあ、ゆっくりやればいいと考えてるけどな。そもそもこの辺りって人がまだそこまで来るような段階じゃないし、大型の都市なんていくつもいらないからな」


 そもそもバスタード王国はエレメント大陸の東端に存在する国であり、エレメント大陸に限って言えば人の流入には制限があるだろう。

 現段階で最も港が完成し、船を作れる可能性があるとすればそれはバスタード王国なので、唯一の港から近い国家として、別の大陸からやって来る者たちにとってはいい場所といえるが、エレメント大陸の経済にとってはあまりにも辺境である。


 このまま技術が発展すれば、その技術を学ぼうとして別の国から様々な人が入ってくることは考えられるが、そこからバスタード王国の住民となるかどうかは別である。

 そもそも亜人国家としての面が強いバスタード王国は、いくら国王が人族とはいえ、その外見的には獣人有利な政策をとるという考えがあると判断される。


 宗教の影響により、亜人たちが肩身の狭い思いをしている国は少なくない。

 理央としては亜人たちも平等に扱うだけなのだが、もともと下である亜人たちを自分たちを平等に扱うという方針に対して懐疑的な国もいるだろう。


 そして貴族制度という点に関していっても、国王として理央がいるが、絶対王政で人事権を握っているうえに、世襲制を可能とする政治体系が出来上がっていないので、裏からみこしを担げるような状態ではない。

 何より、『新しい技術が次々と生まれている場所』というのは、言い換えれば他社が真似できない技術を多数持っていることになり、価格交渉の際に絶対的な優位を持っているのと同じである。これは強い。


 そういう風にいろいろと分類わけしていくと、『バスタード王国ってエレメント大陸から人が入ってこないんじゃね?亜人は来るかもしれないけど』という意見を持つものが多くなったのだ。


「むうう……研究分野に予算を使うべきじゃないかって話がものすごく出てるんだよ。実際僕もそう思うんだよね」


 地球にいたころから様々な設計図を見てきた理央は、技術力という点に関してはすさまじいほど高い。

 加えて、ある程度の『創造系統』の魔法も使えるため、船だって自分で作ってしまう可能性もある。

 今は書類作成に忙殺されているが、将来どうなるのかはわからない。

 ただ、それほどの技術を持っているのだから、都市設計ではなく、単純に技術を解析する『研究国家』としての地位を確立すべく予算を使えと言っているのだ。


「まあ、もちろんその意見に関しては俺も正しいと思うが、いずれ必要になると判断しているからな」

「え、どうして?」

「エイドの懸念通りに話が進んでしまった場合、亜人国家以外で東端に存在する国が一気にその住処を失うことになる。バスタード王国は、エレメント大陸東端では中央に位置する場所に存在するからな。そういった国々に何かがあったとき、抱える存在が必要になる」

「その抱える存在になるために都市を作るってこと?」

「計画の上ではそうだ。加えて、インフラ整備の技術は現場の人間に叩き込んでおいて損することはない。資料を見る限り、この辺りはオーシャンモンスター関連を除いて災害は少ないが、いざというときに建築業の現場の人間がいないと、誰も助けられないからな」

「あー……そうだよね」


 建物というものには寿命が存在する。

 いずれはコンクリートなども開発して使うことになるかもしれないが、建築素材としてみればコンクリートというものは頑丈ではあるが脆くもある。

 日本の大昔に建てられたものの中で現存しているのは、主に木材で建築されたものだ。

 寺や門といったものが様々な形で残っているが、基本的には木造建築である。


 そういう部分があるので、コンクリートに寿命が来て、リフォームなどが必要になる周期というものが存在する。

 これによって建築業は少し景気が回復したりするわけだが、そもそもこの世界はコンクリートによる建築など発想すらない。


 とはいえ、コンクリートによる建築はその手の業者からすれば簡単なものであり、しっかりと技術が浸透すれば都市開発という点では役に立ってくれるだろう。

 日本では年々建築会社が減っているそうだが、それが続けば自国民を自国の力で守れなくなる。

 それでは政府が存在する意味がない。


「あるじはあるじが考えた建築業界の発展を望んでるってわけか」

「そうだ。そしてそれは早いほうがいいからな。何か建物が必要になるたびに他国へ依頼するとか馬鹿すぎるだろ」

「確かに。技術国家の名がなくね」


 理央も一応無計画というわけではないのだ。一応。

 決して『せっかく異世界にきて街づくりやるんだし、都市国家にするとかめちゃくちゃ面白そうじゃん』とか考えているわけではない。決して。


「でも人手が足りないのは事実だよ。どうするの?」

「……ゴーレムとか作って代用するか」


 地球ならロボット。異世界からゴーレム。

 技術はあっても人手が足りないというのならこれは鉄則である。

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