第二十七話 内政改善……というより提案
理央個人としては、オーシャンモンスターに関してはパパッと倒して、魔人が出てきた場合もエイっと倒してさっさと海の外に行きたいわけだが、国王という立場である以上、国民のことを考えなければならない。
とはいっても、もともと亜人たちは四天王の仲が良好なので末端の人間も険悪というわけではない。
もちろん、社会というものが形成されるうえで発生する問題は少なからずあるのだが、人族ほど面倒なことにはならない様だ。
これは倫理的な面で優れているというわけではなく、単純にオーシャンモンスターという目先の敵がいるからだろう。
敵の敵は味方。というのは成立しないこともあるが、よほど仲が悪くなければ成立するものだ。
というわけで、ある程度土台ができている。
亜人国家の四つは連合国……とまではいかないが、少なくとも交易都市としてバスタードマーケットが存在する以上、テコ入れは多少で十分だろう。
現在、王である理央に組まれる予算を減らして、開発室のようなものを作りたいと考えている。
バスタード王国は大陸のほぼ東端の国で、このあたりはモンスターも強く、人が食するような食物が実らない。
一部の毒に対して耐性がある食物を食べた草食動物と、その草食動物を食べる肉食動物が主食なのだ。
大陸の内側から商人がやってきて物を売っていくのだが、その中で多いのは穀物である。
正直、ものすごく高いのだ。
割り当てている予算をみたが、どう見ても桁が一つおかしいと感じるほど。
圧倒的な量の『食材』を確保している商会をインフェルノートしか知らないし、そもそも保存などを考えるとげろ吐いてぶっ倒れるくらい面倒だろう。
解決……というよりは改善策としては、『バスタード王国の中で穀物を作れるようにする』『一度に大量に運べる高速運送手段を開発して、穀物の運搬コストを減らす』の二つだろう。
内政で考えれば一つ目の方が『安心感』はある。外交的に視れば二つ目のほうがいいだろう。
『バスタード王国の中で穀物を作れるようにする』
簡単に言えば、強力なモンスターに荒らされたり、一部のモンスターの毒によって、品種改良すらされていない穀物が耐えられないのだ。
対応策としては、『土地全体に付与魔法をかけて毒に対して食物が強くなるようにする』といったところだろう。
資料をひっくり返してみれば、畑に付与魔法でガチガチにして、連作障害すら力技でごり押ししして毎年しっかりした量のじゃがいもを収穫していた。というデータもあるから魔法というのは分からない。
……膨大な魔力消費が維持できなくなったことと、そもそも別の作物を導入する段階になるまでのその場しのぎだったそうなので、現場は残っていても今はやっているわけではない様だが。
いずれにせよ、魔力さえあれば可能なのだ。
解毒関係の魔法を土地全体に付与しておけば、毒を感知するセンサーも設置してなんとか作物を作ることができるだろう。
あとは、国内でその毒に対する特効薬を作ったうえで、その毒をまき散らすモンスターの報奨金を最低でも五割は上げる。という処置を取ればいい。
国というのは企業と違って、何かを無茶ができるものだ。
その国のシステムを享受しようとするものが多いのなら、国債を発行。政府用の銀行を作れば、政府の金の貸し借りが国の中にしか発生せず、国外に対して借金をする必要がない。地球でも国外に対して借金をしている国が財政破綻しているが、日本は外国に借金していないのでその心配はないのだ。それと同じ状態にすればいい。
緊縮財政?しりませんねそんなもの。
というわけで、『研究費用』と『駆除必要モンスター割り当て予算』のようなものを、国債を発行してそれをもとに作ることで、バスタード王国の中でも穀物を作ることができる。
国債という単語を連発しているが、所詮は『政府貨幣発行残高』であり、金をどれほど刷ったのかを測る数値でしかない。
そもそも新しい国を作ったので、新しい貨幣を大量に発行し、それを使うことで旧貨幣を買い取るので、そもそも大量に作らなければならない。
……金地金をかき集めるのが面倒なので、高額決済用は紙幣にするけど。
あとは、その新貨幣でのみ税金を払えるという設定にしておけば、国民……特に商人は自ら使い始めるだろう。金貨を大量に持ち歩くのは重い上に危険であり、手形を使うのは手数料がエグイので、軽い紙幣で代用できるのならそれに越したことはない。原材料が紙の方が通貨発行益が多くなるし。
貨幣発行に関してもいろいろ言ったが、そもそもの話として、自分たちの国ではなく、他国に食料を依存している部分があるというのは、後で確執を生むものだ。
それなら、自分たちで解決できるのが最もいい。
『一度に大量に運べる高速運送手段を開発して、穀物の運搬コストを減らす』
地球人である理央は鉄道に関する知識があるし、そもそも自動車や電車がどうやって走っているのか、その作成方法は何なのかという情報を手に入れて解析したことがあるので、材料さえあれば作ることは容易である。
最新式を目指すならばコンピュータ制御が必要になるが、これに関してはマジックアイテムで代用する。
……というより、『命令に従って適切な行動をする』という点に関していえば、『魔法』も『プログラミング』も広義的には変わらないのだ。
単純に属性で分類される魔法だけが魔法ではない。
理央自身、この世界の服の着心地が悪いので、肌触りを改善する魔法を使っている。
そんな感じで、本当に面倒なほど魔法を緻密に組み合わせれば、コンピュータ制御とほぼ同等のことが可能なのである。
実際に作るとなると、おそらくイーストフレアまでぶっちぎる直通ルートを作ることになるだろう。
ただ、線路を設置してモンスターに壊されたら話にならないし、そもそもドラゴンのブレスで地形が変わったら電車が通るどころの話ではない。
線路をどういった制式にするのかという問題がいろいろあるのだ。鉄道なので点検コストも高いし、一定の距離で管理ゲートを設けるとしても、線路の管理はしんどい作業だ。
国をぶち抜く線路を敷いていいのかという指摘もあるだろうが、鉄道があるだけで経済効果が高いのは当然。しかしモンスターがいる中で線路はなかなか面倒だ。
巨大な都市の中で鉄道網を敷くのならともかく、壊すのが面倒な壁に囲まれた都市は拡張性があまりにも低いので言うほど作る意味もない。
技術を持っているのはこちらなので、いずれ交渉でどうにかなるとしても、直ぐにとりかかるのは無理だろう。
こればかりは理央の責任ではないので放置させてもらうが。
とはいえ、国内で鉄道を敷くのであれば、バスタード王国は独裁制なので強行する。
試験的な導入で自国を使うのが理央流である。
以上の点があるので、結果的には
『新貨幣を大量に作って、通貨発行益でウハウハしている最中に、穀物を作れるようにするための大規模な付与魔法の開発とその維持の研究。およびバスタードマーケットとそれぞれの種族の首都となる街をつなげる鉄道を敷く』
というものになる。
ただ、これはあくまでもバスタード王国の内政的な話だ。
国内はこれでいいとしても、バスタード王国からの亜人援軍が欲しいと考えている砦の国としては、予算のほどんどが内政にばかり向くのは『ちょっと待てやオイ!』となるだろう。その立場になれば理央だって言う。
というわけで、『ハートライト王国海洋魔獣討伐軍元帥』の方と会うことになりました。
どうやら三つの砦の国の代表がハートライト王国になるようなので、その人と決まったことは他二つの砦の国にも適用されるらしい。
『主権はどこにいった?』となんとなく思ったが、資料をひっくり返せば、祖先レベルで言えば国民が同じだった。兵器に対する予算の使い方が違うだけで。
というわけで話し合いだ。
バスタードマーケットまでいらっしゃるそうだ。ハートライト王国まで距離があるというのに仕事が速いものである。




