第二十六話 国の名前……適当でいいや
新しい王になった理央。
就任の式みたいなのは必要だと最初は思っていたし、そもそもバスタードマーケットでしかほぼ行動していないのに周りが納得するのかという意見がいろいろあったが、式も幹部への説明も必要ないらしい。
大掛かりな据置型魔道具だが、通信と転送の効果を発揮するものがある。
それを使うことで、理央が作った資料を配布し、実際に決闘して負けたことと合わせて幹部に説明。
それで納得しているものが多いのが現状だった。
……理央が四種族の特徴を合わせて変身してしまったことに関しては『どういうこと?』となっているものが多かったが、お披露目会をする気はサラサラないので保留だ。
書類にサインをしたことで王になったが、こうなった場合、『国の名前はどうするの?』となる。
亜人たちは『竜人国』とか『エルフ国』とか、自らの種族名をそのまま使っている。
シンプルなのが特別好きというわけではないが、『(仮)』みたいな雰囲気で後々修正できるだろう……と考えてる数百年。ずっとこのままらしい。どうでもよくなったという思考が透けて見えるようだ。
だが、人間の国の命名はそこまでシンプルにはできない。
『人間国』などというアホな名前にできるわけがないのだ。
「エイド。何がいいと思う?」
「……なんで俺に聞くんだ?」
「いや、この世界での命名法則なんて知らんからな」
「……適当でいいと思うぞ。公序良俗に反しないものなら」
文化的にどうなっているのか。というものは国と時代によって異なるので、しっかり聞いておく必要がある。
というわけでエイドに聞いてみたが、もちろん予め相談していたわけではないのでなんの役にも立たない意見を聞いただけになってしまった。
「まあ、理央がこの街を国の首都にするつもりなら、『バスタード王国』みたいな感じでいいと思うけどな」
「安直だがそれが無難か」
「理央って国を作ろうとは考えても国の名前を考えたりしないんだな」
「だって基本的にどうでもいいからな。誰にも政治的に邪魔されないルールが欲しかっただけだから、特に土地に対して執着はないし」
「……それもそうか。理央って異世界人だもんな」
「ああ。もちろん王としての責任は果たすが、最終的に望んでいるのは海の外に行くことだからな」
「そうだった」
なおさらこの大陸に執着がないようだ。
「というわけで、バスタード王国で登録しておくか。国民から安直って言われそうだが。まあそこは無視しよう」
「……はぁ」
「で、エイド。亜人たちの情報は集めたのか?」
「まあとりあえず必要な情報は集まった」
「それで十分だ。経済省をつくったから、大臣よろしく」
「……急な話だな」
「前に言っただろ」
「いや、あれで本気だったら世の中の会話が成り立たなくなるだろ……冗談が悪ふざけで終わらなかったら世の中生きていけねえって」
最もな意見だが、それを理央が聞き入れる気は毛頭ない。
「さて、次は……ん?」
理央のスマホから着信音が鳴った。
見ると、冬美からのようだ。充電器を赤座から受け取ったようである。
「はい。もしもし」
「理央君!今どこにいるの!」
「亜人国家だ。まあいろいろあってな。四種族の亜人を束ねて新しい国を作ることになったんだ。俺が王様だ」
「へ〜……わかった!」
ほんまか?
「名前はまだ正式には登録してないけど、バスタード王国にする予定だ」
「ふむふむ。新しい国かぁ……なんだか楽しそうだね!」
「当然やることは多いけどな。で、そっちはどうだ?」
「みんなダンジョンに行って訓練してるよ。宝生君と赤座君がそれぞれリーダーになって頑張ってる」
「まあそうなるだろうな」
「ただ、宝生君が兵士長と喧嘩になってて険悪な雰囲気なんだよね……」
兵士……ということは貴族派だ。王族派が騎士団だったはず。
「宝生と兵士たちが険悪にねぇ……」
「私は見ていてよくわからなかったんだけど。リリーちゃんがいうには『歯車が噛み合っていない感じ』みたいだね」
「……まあそうだろうな」
「正義感が強いし、なんだか悪いことを考えている人が兵士の中で多いのかな」
「……宝生は思い込みは激しい方だが正義感が強いことは違うし、自覚もしてないと思うけどな」
「む?どういうこと?」
「まあ、これから一緒に戦ってればわかるさ」
「む〜……あ、そうだ。赤座君がギフトをいじるとかなんとか言ってたね」
「ギフトをいじる?」
「うん。私達が倒したあのドラゴンがいたでしょ?結構いい装備の素材になるんだけど、自分が使う水属性と風属性の魔法にマイナス補正がかかるんだって。だから、宝物庫から宝玉が運ばれてきて、それを使って火属性と地属性に特化するためにギフトをいじるって言ってた」
「……」
火属性と地属性。
グレイテスト・ラヴァ・ドラゴンの属性を考えると……『マグマ』か『溶岩』か。そのあたりの属性に特化した魔法使いになるつもりなのだろうか。
理央自身はギフトを持っていないが、ギフトを行使する九人を見て、ある程度構造はわかっている。
マジックアイテムで変更することは可能だろう。
赤座の水属性魔法と地属性魔法はどちらも最高クラスのスペックがあるので、いじるとしてもかなりのものになるはずだ。
「でも、オーシャンモンスターと戦うときに大丈夫なのかな」
「ん?」
「だって、『ほのお・じめん』タイプでしょ?『みず』タイプはやばいよ」
確かに。
「……まあ、大丈夫だろ」
赤座が目指している属性は火でも地でもなく『マグマ』である。
流石に相手が水だろうと問題になるわけではない。
「むう、理央君が大丈夫って言うなら大丈夫だね!」
かなり楽観的である。冬美らしくもあるが。
「私達も強くなったらそっちに行くからね!……あと、ミーティアさんから理央くんのことをものすごく聞かれるんだけど、何かあったの?」
第一王女は情報収集中のようだ。
「……さあな。まあ元気そうでなによりだ」
「私はいつでも元気だよ!」
「そうだな。それじゃあ。ゆっくり来いよ」
「うん!」
通話終了。
理央はスマホをポケットに突っ込んだ。
「……同郷からか?」
「ああ。まあ、いろいろ頑張ってるらしいな」
「だな……まあ個人的に気になったのは、兵士と上手く行っていないって部分だな」
「やっぱりそこが気になるか」
「ああ、王族はインフェルノートがいたからうるさくならないだろうけど、ウィズダム・セイヴァーズは貴族とどっぷりハマってるからな。で、兵士は貴族派だ。王都にある本店は今エグいことになってるだろうし」
「なるほど、それが原因で兵士のほうがおかしくなることもあるわけか」
「流石に兵士の維持は国家予算から出るだろうけど、これから増えるわけじゃないだろうし、騎士団との差が開くだけだろ。馬鹿なことを考えるやつがいても不思議なことはない」
そういってため息を吐いているエイド。
「……兵士団に関係する嫌なことがあったのか?」
「……まあ、そんなところだ」
利権と派閥と金。
いずれも面倒なものである。




