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第二十五話 同意獲得

 理央と四天王の四人は、再び最上階の会議室に集まっていた。

 円卓が用意され、そこには五つの椅子が並べられている。

 元々座る人数が少ない設定ゆえに、円卓はあまり多くないが、全員が神妙な顔つきになっている。


「……理央。どういうことなのか説明してもらおうか」


 この四人の中ではリーダーはアスラなのだろうか。最も発言数が多いが、理央はそこは指摘せずに返答する。


「契約に関してだが、簡単に言えば、これからオーシャンモンスターと戦うときの武器は俺が一から設計するから、オーシャンモンスターから獲得した素材はいらないということだ」

「ぶ、武器を設計?……まだ一度もハートライト王国にも行っていないのに、そんなことが可能なのですか?」


 エンセルとしても理解はしたが納得はしていないらしい。


「理央さんの解析能力が高いことと、そしてそれを私たち以上に使いこなしてしまうことは、ある程度分かりました。しかし、人間が使う兵器に関していえば、また別の知識が必要になります。ハートライト王国に行った後で判断するならともかく、この段階で判断するのは……」


 ユーシアが長い耳をぴくぴくさせながら言ってくる。

 もちろん、そういう判断に行きつくのは分かっていたことだ。

 四種の亜人の力を解析して取り込み、そしてその力を自分に全て反映して、まるで四身一体ともいえる意味不明な斬撃をブッパしたのだ。解析能力の高さは分かると思われるが、だからと言って人間が使う兵器までわかるかと言われればできないだろう。

 解析というのは周りにあるものの本質を見ることができても、周りにない者はできない。


「討伐履歴が本になってたぞ。それを確認すればすぐにわかった。新しく武器を作っても、それを用いた訓練を行う必要はあるが、二日に一回というのであれば十分訓練時間は取れるだろう。指揮官との相談も必要だがな」


 そういって、ポケットから討伐履歴の本を取り出す理央。


「……なるほど、そこまで考えていたわけか……『オーシャンモンスターの素材が要らない』というのはわかったが、ウィズダム・セイヴァーズの寿命が短いというのはどういうことだ?」

「……今すぐに説明するのは難しいが、簡単に言えば、『依存していたものを破棄した』といったところか。それを俺が今は抱えているんだけどな」


 それを聞いた四人は、理央が最初にこの部屋に入ってきたときに連れていた少年、エイドを思い出す。

 四人から見ても戦闘力が高いとは言えない者だったが、視線や警戒力、そして監視出来た範囲での行動を考えると、流通に関して圧倒的な知識と経験があることが分かった。

 理央が言う『依存していたもの』というのは、おそらくエイドのことだろうと思われる。


「……あの人、そこまですごいの?」


 オルバが首をかしげる。

 東エリアの流通に常にかかわっているウィズダム・セイヴァーズ。

 そのありとあらゆる『処理能力』が一人の人間によって達成されていたことが信じられないのだ。


「まあ、疑うのは結構だが、アイツに流通をやらせれば自ずとわかる。で、その取り込まれる先だが、俺はイーストフレア王国の王族直下商会である『インフェルノート』だと考えている。エイド自身がマニュアルを売り込んだということもあるがな。それを利用すれば、経営が続けられなくなって空中分解するであろうウィズダム・セイヴァーズを全て取り込むことが可能だろう」

「何故イーストフレア王国に利益があることを?」

「そこに俺の同郷がいるからだ。これから東の事情は大きく変わる……というより変えるつもりだが、ウィズダム・セイヴァーズの力はイーストフレアの中でも大きいからな。エイドがいない分、おそらく処理能力は落ちると思われるが、独占的に契約しておけば物を流せるからな。しかも、独占的に契約したのはあくまでもウィズダム・セイヴァーズであり、インフェルノートではない。これで外見もある程度緩和されるだろう」

「そううまくいくでしょうか」

「そもそも、他の商会はインフェルノートがウィズダム・セイヴァーズを抱えるほどの力があるとは思っていないだろう。王族直下の商会とは言え、限度があるからな。そうして抱えきれなくなって弾けそうなときに手助けをすることで、イーストフレア王国の王族にかかわる商会に恩を売りたいと考えてるはずだ。最初から横やりを入れてくるものは少なくないだろうが、マニュアルがある以上、インフェルノートも強気になれる」


 それに、と理央は続ける。


「亜人国家は強さというものがあることでその主権を維持しているが、その分、経済的な部分や開発に関してはあまり進んでいないように見えたからな。俺がいろいろなところに指示を出して、そっちの分野も成長させるさ。そうなれば、インフェルノートとこっちで作った商会の連携も簡単だからな」


 まるで理想の未来を語るかのような様子の理央だが、その目には皮算用をしているような印象はない。


「とはいっても……まあ思うところはあるだろうが、とりあえずはこんな感じか?」


 そういって指を鳴らす理央。

 すると、彼が背負っていたリュックからA4の紙が何枚も出てきて、念筆で内容を書いていく。

 書きながらも念動魔法で四天王の前に移動させている。

 時間にして五秒ほど。何枚も束になって立派な資料になった。


「とりあえず考えてるのはそんな感じだな。いろいろ複雑かもしれないけど、やってみると思ったより簡単なものを揃えてみた。魔法に関しては町を見ればどの程度のレベルなのかもわかってる。とりあえず……文明レベルから弄ってみることにした。で、感想は?」


 理央はアスラを見た。


「……正直、信じられんレベルだ。これを使って何ができるのか、そしてどう作ればいいのか、全てわかりやすく書かれている」

「開発のための新しい魔法すら記載されていますね。確かに、これならこの紙の通りに作ればできるでしょう」

「生活のレベルは高くなりますし……え、この地域での大規模農作!?毒を使うモンスターが多数出現するので無理だという判断ですが……可能なのですか?」

「うへへ、このアイスクリームおいしそう」


 一人だけ温度差が大きく違う気がしなくもないが、理央は気にしない。


「というわけで、紙に文字を書いて見せるだけで、俺はここまで影響力があるってわけだ……そろそろわかってもらえたかな?少なくとも、今以上の成果を出せるようにお前たちを導く程度のことは造作もない」


 理央の言葉に、三人が神妙な顔つきになり、オルバだけは写真レベルできっちり盛り付けられたデザートの写真をみて表情をゆがませている。


「……ちょっと温度差出すぎだろ」


 理央はオルバを見た。


「おいしそうだもん!」

「こんな時だけ子供っぽいこと言ってもダメ」

「これっていつ作れるの?」

「材料があれば今日の晩御飯に出るだろ。材料がそろってない場合は最長で三日だな」

「今すぐ料理長に言ってくる!」

「料理のレシピ以外は置いていけ」

「わかった!」


 オルバは楽しそうな様子でデザートのレシピだけを資料から抜き取って全速力で部屋を出ていった。


「……理央」

「なんだ?」

「なれているな」

「……同郷に、精神年齢が同じくらいのやつがいるからな」


 本人が聞けばなんというだろうか。いずれにせよ失礼である。


「それで、三人はどうなんだ?」

「……私は、理央を王として認めよう。実力も、もたらされる文明も、交渉力も、いずれも高いのは分かったからな」

「フフフ。私も認めましょう。資料を見る限り、ただ戦うことではなく、今いる子供たちやこれから生まれる赤ちゃんに対しての配慮も大きいですからね」

「私も異論はありません。何より……理央が王になれば、私たちは、海の外を見られると思う」


 ここにはいないが、おそらくオルバも認めているだろう。

 ひどく、子供っぽい理由かもしれないが。それはそれでオルバらしいといえる。

 理央はユーシルが海の向こうに行くというエレメント大陸の悲願に対して熱意を持っていることに少し驚いたが、何も言わないことにした。


「さてと、とりあえず王になって、俺のルールは作れるようになったな……そろそろエイドを呼び戻しておくか。あと砦の三国の軍のトップ……元帥でいいか。その三人に会っておこうか」


 そういって、理央は立ち上がって部屋を出た。することは多いが、それはうれしい悲鳴だろう。

 盛大に期待してもらって構わないと考えている。

 そのうえで、理央はその期待を超えよう。

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