第二十一話 穴の中レッツゴー
当然のことだが、『実力主義の四つの国の国王を全員倒した!』のすぐ後に『なら今から君が国王だ!』などという阿呆なことにはさすがにならない。
というか、獣人国に関してはそもそもオルバは国王ではなく王妃である。
……戦闘力を考えれば確かに王妃の方が強そうだが、それはそれである。獣人国の王であるグレーズも理央を認めているとは思うが、それでオーシャンモンスターの最前線の国を支える亜人たちの王の座がどうにかなってしまっては、主権などないのと同じだ。
理央もそこまで過程というものをないがしろにするつもりはない。
そもそも、理央が国王になるかならないかということ以前に、しなければならないことは一つある。
それは、カエルのオーシャンモンスターが使った地中に存在する穴である。
これに対してどうにかしなければ、次の陸を使えるオーシャンモンスターが次々と襲ってくることになるので、調査し、判断する必要がある。
一度前例が発生した以上、オーシャンモンスターを指揮する魔人たちはそれが可能なのだという判断を下すだろう。
対応しないのは愚策である。
「……あれ?海中で掘り進めたんだよな。なんで穴の下に来ても水が流れ込んでないんだ?」
「バスタードストリートは海抜八十メートルで、まだ五十メートルくらいしか降りていないからだろうな」
「種族の特性上、二段階になったのかな。ていうか、あるじ、見上げただけでよくわかるね」
あくまでも掘り進めてきただけの雑な穴だが、風属性魔法や飛行魔法を使えば降りることは困難ではない。
ちなみに、あのカエルは地面と垂直に掘り進めてきただけわけではないようで、穴がそこそこ斜めに掘り進められている。
坂が急なので、地球で走らせていた自動車は無理だが、階段は作れそうなので、行けるところまでやればエスカレーターくらいなら設置できるだろう。
そして降りてきて真横に続く道を発見したが、海の中から掘り進めているのに水がないのを見てエイドが疑問を抱いたが、海抜を考えれば水があるのはまだである。
「ていうか、思ったよりもでかい穴だな。あとに来るやつが通りやすいようにしていたのか、穴を掘ったのはあのカエルではないのか……」
「わからないが、床を雑に掘りすぎているな。ていうかこの穴絶対に長いし、浮遊魔法を使っていくぞ」
「まあ、さすがにホバーボードは使えないよね」
というわけで、浮遊魔法を使って時速六十キロくらいで水平移動を開始する。
シュールな光景だが、明かりに使う光属性魔法は理央は使って照らしているので危険性はない。
ついでに、照明のマジックアイテムを天井に次々と埋め込んでいき、しかも地属性魔法をつかって道を整備していく余裕付きである。
「……勝手に埋め込んで大丈夫なのか」
「勝手に埋め込んでいい権限をもらったからな。それに、別に悪いことをしているわけでもないし」
「なるほど」
要するに『調査』と『整備』の権限を持っているのだ。
しかも注釈として『独自の』という特権付きである。
「でもあるじ。この段階でここまでやっていいのかな。もしもいろんな判断が保留になったら、この道を使ってオーシャンモンスターが攻めてくるよ?」
「まあそこが問題ではあるが、人間にとって使いやすいことのメリットを超えるわけじゃないし、必要になれば俺が判断するさ……ていうか、あくまで俺の体感だが、この道、ハートライト王国につながってるわけじゃなさそうだな」
「?」
「ハートライトを始めとする砦の三国は、断崖絶壁が多いこの大陸の少ない浜辺を守るためにあるが、その断崖絶壁の下を掘り進めてきたんだろう。こんなでかい穴ができるまで砦の国が気が付かなかったのはそのせいだな」
「あー……確かに、めちゃくちゃ長い砦を三つの国で分担してるんじゃなくて、戦力と設備が浜辺一極集中だもんな。確かに気が付かねえか」
「あるいは、魔人たちがこちらの防衛範囲を見定めるためにオーシャンモンスターを送り込んできていたのかもしれないね。魔人たちも一つの決断をしたってことなのかな」
「わからん」
そう言いながらも整備し続ける理央。
「しかし、理央の狙いは海の外に行くことなんだな」
「ああ、そうだな」
「でも……正直、時間はすごくかかるだろ」
「え、そうかな?」
「だって、港はないし、造船技術は過去のものだし、エレメント大陸はほぼ内陸で、海を横断できる航海術なんて身につけてるやついないぞ」
「あ、それもそうだね」
エイドの言うとおりだ。
オーシャンモンスターが出現する以前は、この大陸にも港や造船技術、航海術はあったはずだが、エレメント大陸の内側でそれが発揮されることはほぼないので予算が通らない。
海というものは使うことができれば、運送においても軍事においても有効な手段になり得るが、簡単なことではない。
制海権は、今ではすべてオーシャンモンスターを指示する魔人の物だ。
「そうなんだよなぁ。まあそこが面倒ではあるが、最終的にどうにかする手段はある」
「そうか?」
「ああ。というより、鉄製の頑丈な船を作る知識は俺の頭の中にあるからな。もっと言えば、船を作り出す魔法だってあるはずだ。それさえ取得してしまえば、船を整備する施設を作っておけばいい」
「「……」」
「なんだ?」
「いや……理央ってこう、とんでもないこと考えるよな」
「というより発想がすごいよね。亜人の女王様たちと戦ったときも思ったけど」
洗脳魔法を自分に使って倫理観を操作。亜人たちが亜人であるための魔力の構造を解析して、完全な形で自らの体を亜人にする。
しかも、何らかのスキルに頼ったものではなく、純粋に理央個人の処理能力だけで達成するのだ。
どう考えても頭がおかしい。
「それくらいのことを考えてないとつまらんぞ。自分の手がどこにも届かないからな。それを言えば、イーストフレアの王都にいながら、バスタードストリートの流通まで左右するエイドもすごいだろ」
「ん?……ああ、俺の場合は、ちょっと特殊な鑑定スキルを持ってるだけだよ」
「そういうことにしておこう」
すいー……と地面を進む理央たち。
理央は喋りながらも整備をやめることはなく、エイドとアルテと話しながらの移動だ。
エイドが時速六十キロで水平移動しているのに、それ以上の速度で天井に照明の魔道具を埋め込みながら進むのはなかなかの絵面だ。
「……はぁ、これ、先に調査に向かった人たちからなんて言われるんだろうなぁ」
ため息を吐いてつぶやくエイド。
ちなみに、体を浮かされたまま時速六十キロでいうほど広くはない穴の中を進んでいるわけだが、エイドはなれたようだ。かわいそうに。




