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第二十話 理央の企み

 オーシャンモンスターはいずれも巨大であり、それらを相手にする人間たちの兵器もまた高出力なものになるのは必然。

 単純に戦うと言っても、スタジアムなどが用意されてそこで戦うようなエンターテインメントを見出す余地はない。

 個人と個人の戦いを見るとしても、その広さは体育館ではなく野球場に匹敵するレベルの広さが必要だ。

 もちろん、これは最前線でオーシャンモンスターを相手にする者たちのなかでも、特に単騎で、かつ特殊な大型兵器を用いることなく高出力を発生させる亜人たち限定の話である。


 要するに、『亜人たちの王が立つことができるコロシアムは存在しない』ということになる。


「さて、どういう形式で戦おうか……」


 自らの赤い身長に匹敵する大太刀を背に、アスラが呟く。

 その横では、白い翼を揺らしながら双剣を構えるエンセルと、杖を構えるユーシルと、少し興奮した様子で両手に指ぬきグローブをつけるオルバがいる。

 彼女たちの裏には、副官であろう女性たちが待機しているが、いずれも女性。

 ……本当に男性諸君には頑張ってもらいたいものである。亜人だけかもしれないけど。


「別に好きにやればいいんじゃないか?細かいことはどうでもいいし」


 理央はそう言いながら、手から魔力を放出して固めて剣にする。


「……」


 ユーシルは杖を構えながら理央を観察する。


「どうですか?ユーシル」

「……強いですね」


 そういって、空中にいくつもの風の刃を出現させる。

 そして、それを理央に向けて飛ばした。

 理央は左手を出して指をパチンと鳴らすと、すべての風の刃が塵となって霧散していく。


「なるほど。確かに、加減するほど弱くはない」


 そういって、アスラは背中から大太刀を抜き放つと、理央に向かって突撃する。

 後ろで一つに束ねている黒髪が揺れるが、それを認識した次の瞬間には、理央のすぐそばまで迫っていた。

 振り下ろされる大太刀を剣で受け止める。

 火花が散るほどの斬撃が発生したが、理央は突撃してきたアスラの太刀を完全に受けきっており、体が後ろに下がることもない。


「ほう?頑丈な剣だな。私の剣を受けきれるとは思っていなかった」

「そんな加減して振ってたら砕けない。剣を砕いたついでに寸止めする予定だったんだろう。ついでに言えば、刃に魔力を流し込んで強化するタイプの武器に見えるが、そっちもやってなさそうだな」

「やれやれ、そこまでわかるとはな……」


 アスラが後ろに下がる。

 次の瞬間、上からオルバが襲撃してきた。

 まっすぐ蹴りを叩き込んでくるつもりのようで、理央も後ろに飛んで回避する。

 立っていた場所に蹴りが入るかと思ったが、地面についた瞬間にその衝撃をうまく利用して跳躍、そのまま拳を突き出してくる。


「フンッ!」


 右の拳に対して、理央は左の拳を叩きつける。


「いったああああ!」


 子供っぽい悲鳴が響く。

 まあ、外見年齢が十五か十六くらいなので実際に子供だが。


「ん?」


 横からエンセルが双剣を構えて突撃してきた。

 理央も剣を構え直して、エンセルの双剣の連撃を次々とさばいていく。


「このスピードについてこれるとは……なかなかやりますね。それなりに本気で斬っているはずですが」

「微笑を浮かべたまま言われても説得力が薄い」

「それは標準なので」

「あっそ」


 理央は剣を振り下ろす。

 その剣速にエンセルは一瞬驚いたような顔になり、剣を交差させて防御……しようとするが、振り下ろしはフェイクで回し蹴りをエンセルの横腹に入れてふっとばした。


「ぐっ……」


 エンセルが翼を広げて空中で剣を構え直す。

 どのまま自分の体を回転させて、飛ぶ斬撃をいくつも放ってきたが、左手をパチンとならしてすべて霧散させた。

 そして、剣を後ろに振って、魔法ではなく杖術でかかってくるユーシルに強制防御を要求。

 それはフェイクなので、そのまま胸ぐらを掴んで地面に叩きつけた。


「あぐっ!」


 理央が体を起こすと、真横に一閃してきた大太刀を回避……ではなく、起き上がるのは幻惑魔法なので大太刀は理央の体をすり抜けた。

 アスラが驚いているところに、正拳突きを腹に入れる。


「ごほっ……」


 アスラが吹っ飛んだ。

 そこに飛び込んできたオルバの右拳を回避して、手首を掴んで体勢を整えようとしているユーシルに叩きつける。


「ムギャッ!」

「うぐっ……」


 理央はとりあえずそこまでやると、ふう。とため息をはいた。


「あ、あるじ強っ」

「ここまで動けるのか……」


 アルテとエイドも驚いている。

 すると、アスラが左手でお腹を押さえながら言う。


「ふう……貴様を見る限り、異世界人だと思うが……文献の情報と違うな。平和な時代で生きていて、甘い性格をしていると記録されているが?」

「この世界が平和じゃないのかどうかはともかく、この世界にも甘い性格をしてるやつはいるだろ。まあ俺はそうじゃないけどな」

「ん?」

「口にすれば簡単なことだ。洗脳魔法を自分に使って倫理観をイジってみたんだよ」

「なっ……せ、洗脳を自分に!?」

「発想が足りんよ。まあ、結果がどんな感じになるのかと思ったし、ついでに剣ではなく拳と足での攻撃に制限するようにしたら、剣で攻撃しようと思っても体が全く動かんな。おもったよりも強力な魔法だ」

「……狂っているのか貴様」

「なーに、人体実験をするなら自分にするのが一番いいと思っている程度だ」

「……狂っているな」

「まあそう評価するのなら別にいいや。で、次はどうするんだ?」

「舐めてもらっては困りますよ」


 あえて放置していたが、アスラ以外の三人がアスラのところに戻っている。


「さて、どうします?」

「気を抜きすぎた。少々、竜人らしい剣をみせよう」


 アスラは大太刀をかまえなおすと、そこに魔力を流し込む。

 赤黒いといえる炎が刀身から溢れてきた。


「……なるほど」


 エンセルも翼を輝かせると、その光が双剣に集まっていく。


「私も見せよう」

「私も!」


 ユーシルが杖を地面に突き立てて魔力を流し込み、オルバは全身に闘気を溢れさせて、それを右の拳に集約していく。


「そうそう。そういう攻撃が見たかったんだ」


 そう言って、理央も剣を光らせる。


「……理央」

「ん?」

「……予想よりもやばかったら逃げるといい」


 そう言って、アスラは大太刀を振り下ろす。

 それに合わせて、エンセルも双剣を振り下ろして、ユーシルは杖から大地のエネルギーを集めたレーザーを発射。オルバは右手を突き出してくる、闘気の砲弾を飛ばしてくる。


 おそらく本気ではないだろう。

 だが、『亜人たちらしい攻撃』という時点で、理央は大変満足していた。

 迫りくる攻撃に対して、理央は剣を上段に構える。

 そして、一気に振り下ろした。

 飛ぶ斬撃が発生して、彼女たちの攻撃と衝突し……まるごと吸収するように飲み込む。


「何っ!?」


 アスラが一番最初に反応できた。

 だが驚いている間に、理央は自分が放った斬撃を分解し、そしてその魔力を操作して、左手から体内に集めていく。


「……よし、解析できた」


 そう言って、理央は目を閉じる。

 次の瞬間、理央の外見が変化した。

 髪は金髪となり、耳が獣人的なフサフサ感を出しながら長くなる。背中からは一対の竜人の翼と、一対の天使の羽が出現。

 しっぽが生えてズボンの中から飛び出す。


 そして目を開くと、アスラと同じ縦に裂けた瞳孔で、ユーシルのような碧を宿していた。


「な……なんだ。一体……」

「亜人が亜人である理由が何なのか、それを解析してみただけだ」


 理央は持っている剣を地面に突き刺す。

 すると、竜人の翼から赤黒い魔力が溢れ出て、天使の羽から輝き、全身から闘気があふれ、地面がその力を主張するように脈動する。

 そしてそのすべての力が、剣に集約されていく。

 慌てたように、四人がそれぞれ構える。


「あ、そうそう……予想よりやばいだろうから逃げるといい」


 そういって剣を抜き放つと、真横に一閃する。

 斬撃が飛び、四人に向かって襲撃。


 四人はそれぞれの武器を構え直して、出力を上げて対抗する。

 だが……理央の斬撃の方が、圧倒的に強かった。


 傷を負いながらも地面に倒れていく四人に対して、理央は微笑む。


「さて、そろそろわかってもらえたかな?」


 理央はそう言って、亜人化を解除しつつ回復魔法を使う。

 四人の傷が一瞬で完全に回復する。


「はぁ、はぁ……まさか、ここまで強いとはな」

「だろ?この数分だけで、君ら全員を上回る特性を示すことくらいは容易いんだ。格上だとわかってくれたか?」

「……ああ。大変よくわかった」


 アスラが頷く。

 おそらく、四人は全力も本気も出していない。

 簡単に出すことはできない。

 しかし、それは理央もまた同様であり、余裕の差も強大だ。



 実力主義を掲げて王になった以上、理央の底知れなさは、受け入れなければならない。

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