第一話 異世界での目覚めと簡易説明。
理央は目覚めると、あおむけに寝転がっていた。
目を開けた先にあるのは、きらびやかなステンドグラス。
真っ白な材質で作られた高さのあるドーム状の空間で、神々しい雰囲気を身にまとう光で空間を照らしている。
……で、やたら腹が重いと思ったら、自分の腹を枕にするかのように、冬美がスヤスヤと眠っていた。
「ううん……もう食べられないよ~」
何の夢を見ているのだろうか。
いろいろ疑問はあるのだが、それは思考の地平線あたりに放置しておくことにして、理央は周りをキョロキョロと見渡す。
生徒たちが倒れており、その数は理央を含めて十人。
魔法陣が出現した時点で教室にいたクラスメイトが全員いるようだ。
そしてその周りを囲うように、西洋風の赤い意匠がある鎧を着て、剣や槍で武装したものが三十人ほどいる。
ただ、『文化が違う』と判断できる真っ白の法衣を身にまとう老人がいる。
(……)
静かにだが、奥の扉が『閉じようとしている』のが聞こえた。
誰かが出ていったのだろうか。
ただ、ドアの傍には執事といえるような燕尾服と姿勢の男性がいて、少し不安そうな顔をしているので、どうやら『誰かが部屋を出た』のは間違いない。
「これは素晴らしい」「ミーティア様の召喚の儀式が成功した!」「十人もいるぞ!」
といった様子で、兵士たちが興奮している。
「むにゅ?」
興奮している兵士たちの声で冬美が目覚める。
ふああ~とあくびをして、きょろきょろとあたりを見渡す。
そのまま首をかしげて、理央の方を見る。
「理央君。これ、どうなってるの?」
「……説明してくれるだろ」
その手の『文化』と知っている理央は内心で溜息を吐いたが、顔には出さなかった。
「お、おい!ここはどこだよ!」
赤座は絶賛混乱中のようだ。
まあ、何が起こっているのかを受け入れている理央と、そしてこの状況下でも何も考えていない冬美の方がおかしいのかもしれない。
周りのクラスメイト達を見ても、かなり不安げな顔をしているものが多いし、それが当然といえる。
「よくぞ参られた。異世界の勇者たちよ」
「「異世界の勇者!?」」
法衣のおじいさんの言い分に対して、声を出せるだけの余裕がある生徒たちが驚いた。
そして、そのおじいさんの言葉を聞いて、理央は一人、『ここなら、俺は昨日の俺よりも断然強くなれそうだ』と内心喜んでいた。
★
おびえている生徒もいたのだが、イケメンでカリスマのある正樹が率先して動いたことで、とりあえず落ち着くことはできるようになった。
生徒たちに向き合うように、一人の初老の男性が奥の部屋から出てきて、椅子に座った。
赤い意匠のあるローブとマント、王冠と杖を持った鍛え上げられている男で、おそらく六十歳前後と思われるが、修羅場をいくつもくぐってきた歴戦の戦士の風格を持っている男だ。
「私はイーストフレア王国、第六代国王。バーンズ・イーストフレアだ。よろしく頼む」
そういって、簡易玉座と言っていい豪華な椅子に座るバーンズは座ったままだが頭を軽く下げる。
貫禄と風格、そして覇気。
その瞳に宿る知性と、磨き上げられた武威と、あふれる人徳というオーラ。
すべてにおいて最高の質であり、おそらく『いい年の取り方』というものがあるとするなら満点と表現されそうな男だ。
見るものが見れば、おそらくどのように変装しても『こいつ国王じゃね?』と思わせるような雰囲気なので、紹介されるまでもなく王だと感じていたが、本当に王様とは。
そして頭を下げるというものだが、腰が低いというよりは、それだけの礼を尽くすという意思が感じられる。
バーンズが自己紹介した後、先ほどから隣にいる法衣を身にまとう老人を紹介する。
ホーリーセントラル神聖国のトップである教皇。アルガード・エルスト。とのことだ。
生え際が後退した金髪の老人である。育毛剤で買収できそうだ。
……それはないか。
「さて、皆様はさぞ混乱していることでしょう。私から説明させていただきます。質問は最後に受け付けましょう」
そういって、アルガードは説明し始めた。
……宗教国家の人間の説明と言うものは饒舌になるものなのか、すごく簡単なことでも一々余計な文を混ぜて印象操作をはさんでくるものだ。
正直日本の大学でプレゼンテーションを作ったら酷評されそうな質だが、それでも重要な項目をまとめればこのような感じになるだろう。
一 この世界の名前はグリモアという。
二 今いる島は『エレメント大陸』と呼ばれており、五大国である『イーストフレア王国』『ウェストコールド帝国』『サウスアース公国』『ノースウィンド連合国』『ホーリーセントラル神聖国』と、その他の小国によって構成されている。
三 現在、エレメント大陸は、他の島と完全に分断されている。
四 その原因は、大陸の外側の海から攻めてくる『オーシャンモンスター』が原因である。
五 オーシャンモンスターは人類に対して害をなす。個体差はあるが『明らかな悪意を持って人を襲いに来ている』ことに変わりはない。
六 陸に上がれない個体が多いため、海辺で撃墜することで平和を保っているのだが、それでも被害が出ることが多い。
七 オーシャンモンスターの維持・指揮する十体の『魔人』が確認されており、この魔人を倒すことでオーシャンモンスターを連鎖的に完全に絶滅させることができる。
八 特に分断されているエレメント大陸は他の島と比べて被害がひどく、このままではエレメント大陸の壊滅も時間の問題と考える学者も多い。
九 そんな中、信託と共に、異世界から素質のあるもの達を召喚することができる魔法を復活させることに成功した。
十 異世界から召喚された勇者たちには、十体の魔人を倒して、エレメント大陸、そして世界の平和を取り戻してほしい。
とのことだ。
そして、この説明を聞いた赤座が当然反論。
「ふざけんな!俺たちは何の力も持ってねえんだぞ!そんな化け物と戦えるか!」
「心配は無用です。皆様は特別な召喚によって呼ばれました。慈悲の女神チャリティ様から下賜された宝玉を使えば、皆様は特別な力を授かるはずです」
「特別な力?」
「はい。この儀式の部屋にて、宝玉の力を開放します。まずは、そこから判断していただきたい」
そういって、アルガードは指示を出す。
ただ、赤い鎧ではなく白い鎧の兵士が何人かいて指示を飛ばしているので、どうやら赤い鎧はイーストフレア。白い鎧はホーリーセントラルと考えてよさそうだ。
アルガードが水色の宝玉を手にして、祈りをささげる。
……傍目にはじっとしているようにしか見えないのだが、それはそれとしよう。
数秒後に宝玉が光り輝き、天井付近に水色の魔法陣が出現する。
『人の子よ。私からの慈悲を受け取りなさい』
女性の声が響いて、部屋全体が光に満たされた。
強烈な光に全員が目を閉じる。
数秒で光は収まった。
「ギフトテキスト。と呼ばれるものが召喚された皆さんに備わっているはずです。目の前に出てくるように意識していただくだけで、誰にも見える形で確認することができます」
「なるほどな」
赤座が早速試している。
すると、赤座の傍に半透明の水色の板が出現する。
「……む~?私もなんか出てきた!」
隣で冬美がはしゃいでいる。
その中身を確認してみると……。
【白雪冬美】
『ギフト一覧』
・最上級回復魔法 最上級までの回復魔法を使える。
・最上級氷属性魔法 最上級までの氷属性魔法を使える。
・豪雪の祈り あたり一面を豪雪地帯にする。時間と範囲は消費魔力による。
・雪ウサギ召喚 百度くらいまでなら大丈夫の雪ウサギを大量に召喚できる。
・最上級薬品作成 最上級のポーションを作ることができる。
『強い』といえるだろう。
氷という汎用性が高そうな魔法を使えるうえに、回復魔法とポーション作成を持っている。
雪ウサギの耐久度がちょっと物理法則を無視している気がしなくもないが、汎用性は高そうだ。
近距離戦闘、遠距離戦闘、回復役、偵察、調合師のすべてをこなせるといっていい。
そしておそらく『豪雪の祈り』は最終手段といえる『切り札』といえるものだろう。
「なるほど、俺は勇者というわけか」
宝生はさも当然と言いたげな様子で、ギフトテキストを掲げる。
するとテキストが大きく表示された。
理央は『そんな機能があったのか』と謎の感心をしながらその内容を見る。
【宝生正樹】
『ギフト一覧』
・勇者の剣 聖剣を召喚できる。
・勇者の鎧 聖なる鎧を召喚できる。
・勇者の剣術 勇者専用の剣術を使うことができる。
・勇者の魔法 勇者専用の魔法を使うことができる。
・極光覇王斬 勇者専用の必殺技を使うことができる。
(手抜きか?)
強そうではあるが、面白みのない内容である。
バーンズは驚いているようだし、アルガードは腹黒い笑みを浮かべているので、どうやら『重要なこと』だとは思うのだが、理央の視点では手抜きとしか思えない。
そもそも『ギフト』と呼ばれるような特別な力なのであれば、わざわざ枠を五つも使うのではなく、『勇者の力』とか『勇者の資格』みたいなギフトでひとまとめにしてしまってもいいはずだ。
おもったより一つの枠のキャパシティがないのだろうか。
理央としてもまだ判別不可能である。
「なるほどなぁ。まあ宝生が勇者だろうと関係ねえな。見ろ!これが俺のギフトだ!」
そういって、テキストを掲げる赤座。
【赤座亮平】
『ギフト一覧』
・最上級炎属性魔法 最上級までの炎属性魔法を使える。
・最上級地属性魔法 最上級までの地属性魔法を使える。
・最上級風属性魔法 最上級までの風属性魔法を使える。
・最上級水属性魔法 最上級までの水属性魔法を使える。
・最上級魔力量増強 体内の魔力量が増強される。
(手抜きだな)
初見の感想はそんな感じである。
というか、本人はバリバリの肉体派なのに、ギフトは全部魔法。
ギフトという以上、これから必要になってきそうなものや個人に合ったものが渡されると思うのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「素晴らしい。本来、最上級のスキルは、才能のある者が二十年以上の年月をかけて手に入れるのが世界の常識です。そんな中で、ギフトとして五つも持っているとは……」
アルガードが驚いている。
宝生の時は腹黒い笑みを浮かべていたが、どうやら驚愕度は赤座の方が高いように見える。
で、そんなアルガードの言葉に上機嫌になった赤座が、理央の方まで歩いてきた。
「なあまぐれ野郎。お前はどんなギフトが手に入ったんだよ。どうせクソダセエのが手に入ったんだろ?」
ニヤニヤと馬鹿そうな笑みを浮かべている赤座。
「残念。その予想は外れだ」
そういって、理央は自分のテキストを見せる。
【天道理央】
『ギフト一覧』
そこには、何も記載されていない。
「は?……え?……おいおい。これって、何もギフトが手に入ってないってことじゃねえか!」
「その通り。予想が外れたな。クソダサいものが手に入ったのではなく、そもそもギフトがない」
淡々と答える理央。
次の瞬間、理央が行ったのは、『視野を広げる』ことだ。
だれがどんな反応をするのか。要するにそこである。
クラスメイトのほとんどは驚愕している。
そして、『まぐれだけの男』だと思いつつ、冬美や真澄と絡みがある理央に対していい感情を持っていない生徒は、赤座を含めて馬鹿そうな笑みを浮かべている。
次にバーンズ国王だが、驚愕してはいるものの、ならば保護する必要がある。という表情にすぐに切り替えた。
正直どうでもいいので放置。
最後にアルガードだが……正直、見下している感が満載の表情だ。
(こうもわかりやすいとどうしようもないな)
内心でそんなことを思う理央。
「ハハハハハハハッ!おま、お前、ギフトなしでどうやって戦うんだよ!向こうじゃただのまぐれ野郎だったのに、ここで運に見放されるとか!ハハハハハハハッ!」
赤座はとても楽しそうだ。
ただ、理央の表情は変わらない。
変わっていないが、最初から、赤座に対して冷たい目を向ける。
「あっ?なんだよその目、反抗的じゃね?」
「だったらどうするんだ?」
「ハッ!こうするに決まってんだろ!」
赤座はそういうと、腕を振り上げる。
行動が予測できた理央は、そばにいる冬美の視界を左手で覆った。
「!?」
驚いている冬美。
だが、赤座は理央しか見ていないようで、右手の上に炎の玉のようなものを出現させる。
そしてそれを理央に向けて放とうとして……消滅した。
「なっ!?」
赤座が驚いている。
そして、後ろから空気を感じて振り向いた。
その視線の先では、いつになく真剣な目をした小百合が、炎の玉があった位置に手を向けていた。
「か、神薙さん……」
見たことがないほど真剣な顔をしている小百合の雰囲気に呑まれている赤座。
「さ、小百合。いったいどうしたんだ?そんな真剣な顔をして……確かに赤座のあの魔法はやりすぎだと俺も思うけど……」
「そっちじゃない」
小百合は正樹の言葉をバッサリと切り捨てる。
「理央君。右手のそれ。いったい何をするつもりだったの?」
小百合の視線の先は、理央の右手。
親指と中指の先端を合わせて、まるでパチンと鳴らすつもりだったような、そんな形をしている。
「……さあ?なんだと思う?」
理央はそれには答えず、少し微笑みながら、冬美の視界を覆っていた左手をどけた。
「むうう!理央君!何するのさ!」
「まあまあ、あとで飴ちゃん上げるから」
「本当!わーいわーい!」
安い子である。
緊張感が緩くなってきたので、バーンズが手をパンッと叩いた。
全員の視線がそちらを向く。
「何やら、君たちを呼ぶよりも前に因縁があるようだが、まずは落ち着きたまえ。これから協力し、オーシャンモンスターを倒してもらわねばならぬ。切磋琢磨するのならともかく、ここでは一度、皆で協力してもらいたい。我々も、最大限の支援を行おう。これから宴会を開く。そこで英気を養ってもらいたい」
それから、とバーンズは理央の方を見てくる。
「理央。といったかな?何か私に聞きたいことはあるかね?」
「そうだな……三つ……いや、四つかな。一つ目は、さっきから戦うって言ってるけど、非戦闘系のギフトしか持っていない生徒も戦わなければならないのかな?」
「何を言ってるんだ!天道!俺たちには戦う力があるんだ。逃げることなど許されない!」
「そうだそうだ!自分にギフトがないから引きこもろうって魂胆なんだろ!このチキン野郎め!」
宝生と赤座がうるさい。
そんな二人に対して、理央は冷たい目を向ける。
理央は『とりあえずここからのことは聞かせない方がいいか』と考えて、両手で冬美の耳をふさいだ。
「え。何!?」
驚いている間に全部言い切ることにした理央。
「遊びのつもりか?油断したらその瞬間に死ぬっていうのがわからんのかお前ら。ギフトの力を無力化されたり、奪われたりした時点で、俺たちは平和な世界で生きてきた何の力もない学生に過ぎないってことを忘れるなよ。心臓を剣で一突き?生身を食い荒らされる?魔法で全身丸焦げ?死ぬだけじゃすまないかもしれないぞ?ギフトを持っている者の体がこの世界の人間とどう違うのか確かめるために、腕や足の切断と再生を繰り返されるかもしれないし、女子生徒はグロテスクなモンスターに強姦され続けて一生を終えるかもしれない」
「んなっ……そ、そんな……」
理央の言葉に、全員の体に再び緊張感が戻ってくる。
赤座と宝生はとりあえず状況を理解……とまではいかないが、一応言葉を頭の中でかみ砕いて理解するために時間が必要になったようだ。
冬美の耳から手を放す。
「むうう!いったい何するの!」
「まあまあ落ち着け落ち着け、あとで飴ちゃんあげるから」
「え、いいの!合計で二個だからね!」
「ああ」
「わっほおおおい!」
冬美は状況を理解していないので天真爛漫な笑顔で喜んでいる。
それを見て、緊張感で張り詰めていた生徒たちの心に若干の平穏が保たれたようだ。
「で、バーンズ国王。そこのところどうなります?」
「……どうしても戦いたくないというものに関しては、この城で保護することを約束しよう。ただし、君が言う通り、少しの油断が何に繋がるかわからない。鍛えておくことを勧める」
「まあ、そこからは『自己責任』でしょうね。二つ目。この世界って、異世界からの勇者の召喚って初めてなんですか?」
「む?いや。実際に文献を確認する限り、過去にも行われている」
「なるほど、じゃあ三つ目。俺たちは『日本語』って認識してる言葉をしゃべっているんだが、この世界ではどういう認識なんだ?俺たちの世界だと、国が変われば言葉が変わる。世界が移動しても言葉が一緒だとは思えないし、俺たちのギフトに『自動翻訳』が存在しないんだが……」
「ほう、国が変われば言葉も変わるのか。このグリモアでは、世界共通言語として『ジパング語』が使われている。方言により誤差はあるがな」
「……まあ、口の動きも全く俺たちと同じだから何となくそう思ってたけど……」
神様って元日本人なのか?と疑問に思った理央だが、最優先ではないので置いておくことにした。
「それで、四つ目は?本来は聞くつもりはなかったように思うが」
「ああ。俺たちは元の世界に帰れるのか?」
その言葉に、全員がバーンズの方を向いた。
そして、バーンズが口を開く前に、アルガードが説明し始める。
「それに関しては私から説明しよう。帰還用の儀式だが、現在紛失している」
「おい!なんだよそれ!俺たちは帰れねえじゃねえか!」
赤座が叫んだ。
それに続くように理央がつぶやく。
「さっきの説明で、召喚用の術式は慈悲の女神さまから下賜されたって言ったよな。慈悲の女神というからには一緒に帰還のための術式も受け取ってたんだろ。管理が甘いんじゃないか?」
責めるような言い方だが、理央の顔に『重要性』というものは感じられない。
アルガードはフンッと鼻を鳴らして答える。
「紛失したといったが、厳密には盗まれたのだ。現在、魔人がその帰還用の魔法陣を所有している。管理が甘かったことは謝罪するが、君たちも、君たちが元に世界に帰るのに必要な魔法陣を取り戻すために、戦ってもらいたい」
謝罪をするとは言っているが、誠意を示す気が一切ないのはわかった。
あと……理央が見る限り、全部嘘である。
(多分、帰還用の魔法陣はまだしっかり所有してるな。俺たちが魔人と戦う動機にするためってところかね?そんなすぐばれる嘘をよくもまあポンポンと思いつくもんだな。まあ、最終的には帰還用の魔法陣を人質にして神聖国で囲んでしまおうって魂胆か……雑だなぁ)
理央はそう思うのだが、言語が発達しきっていない世界で『嘘のレベル』が高くなるとは思えないので置いておくことにする。
というか嫌になったら勝手に帰る。実際に帰還することができる術式が存在する以上、独力でたどり着くことは可能だ。
ただ、一応気が付いてもらうために言っておくことにした。
「魔人の手の内の者に本拠地の奥まで侵入されてたのか。俺たちの世界だったらアンタはクビだな」
「……」
やっと額に青筋を浮かべてくれた。
「まあ、俺から以上だ。聞きたいことは全部聞いたよ」
そういって王様たちに背を向ける理央。
それにつられて、小さい質問をいくつか投げかける生徒たちだが、どうやら理央が重い雰囲気を作りすぎたようで、何か楽しめるような『娯楽』に関することを聞いているものが多かった。
(さてと、いろいろ抉っておいたし、後は勝手になんかやるだろ)
興味が尽きないことはいろいろある。
ただ、オーシャンモンスター云々はまだ気分が乗らない様子の理央であった。