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第十七話 懸念的中

 理央はアルテを鞄に入れてバスタードストリートの広場にあるベンチで、新聞を読みながら座っている。

 四種の亜人たちの国の位置はほぼ円の形におさまるもので、個体数の関係上、西側半分を獣人。東北を天使、東を竜人、東南をエルフがそれぞれ管理している。

 バスタードストリートに行くための道が整備されており、獣人の国を横断することになる。


 ちなみに、時速三百キロの物体は秒速で大体八十三メートルあるので、近くに通ったら正直目で追える速度ではなく、隠蔽魔法込みでぶっちぎれば獣人も気が付かないレベルだ。

 繁殖力が他の亜人に比べて高く、夜目が利いて動体視力が高い獣人は広範囲を監視可能である。

 とはいえ、さすがに隠蔽魔法を使っている人間二人分くらいの大きさで秒速八十三メートルを正確に認識するのは酷というものだ。


 そのため、バスタードストリートの門で通行証を見せて、初めて驚かれたのである。

 本来ならば、獣人たちがそれよりも早く伝達しているのだろう。狐の耳を持つ男がものすごく驚いていた。

 その隣でエイドがヘロヘロだったが。


 さて、改めて情報を集めるとしても、言うほどできることは多くない。


「ふーむ……あくまでも獣人が他三種の亜人をフォローしてる感じなのか」

「まあでも、戦闘力と繁殖力を考えたらそうなるんじゃないかな」


 新聞を読みながら状況を察する理央と、それに納得している様子のアルテ。

 バスタードストリートからさらに東に進んだところにハートライト王国が存在し、こちらは『厳密の意味で東を守護する国』である。

 イーストフレアの影響力が大きい東エリアは、大陸の北をゼロ度として四十五度から百三十五度が該当するのだが、大陸と呼ばれるひろさのそれを一つの国が守り切るのは不可能である。

 東エリアには三つの砦となる国が存在し、天使、竜人、エルフがそれぞれ対応。獣人族は持ち前の数とパワーを活かして補助をしているようだ。

 ハートライト王国は竜人が担当している。


「まあでも、よくよく考えてみたら不自然な点はないな」

「獣人たちが不当な扱いを受けていないのなら何も問題はないね」


 獣人たちの補助があるからこそ活躍できる部分はあるだろう。

 身体能力を強化するマジックアイテムを身に着けるだけでかなりの機動力を発揮するはず。

 優秀な補助が行われない戦場など何の意味もない。

 オーシャンモンスターの討伐数は三種族の中でも競い合っている状態なので、戦闘意欲は高い。

 獣人たちが全面的に戦う構造がない以上、功績という点で考えるとどうしても劣ってしまうが、この状況下では必要なことをやる立場の者が必ず必要なので、たとえ荷物持ちだろうが誇りを持ってやるべきだ。

 職業というものに貴賤はない。


「これが東の対応の仕方ってわけか……まあ、竜人が実際にどう戦っているのかは、ハートライト王国に行ってみればわかることか」

「この街でできることは少ないもんね。ただ、なんだか金払いの良さそうな商人が多いし、活気はあるみたいだね」


 実際に商店街に目を向けてみても、活気はある。

 オーシャンモンスターの討伐によって手に入れたアイテムが最も流通する場所であり、職人たちにとってここ以上に喉から手が出る土地はないと言っていい。

 ハートライト王国は本当の意味で『砦しかない国』なので、真の意味での流通はバスタードストリートになるのだ。

 ちなみにハートライト王国に砦しかない理由だが、そこに商人や職人が入ってきて余計な派閥ができると動きが遅くなるからだ。

 二日に一度、オーシャンモンスターという明確な敵が出現する場所なので、ナショナリズムが鍛え上げられていないと壊滅してしまう。

 というか徹底具合を見る限り、壊滅寸前くらいまではいったことがあるかもしれない。


「亜人たちの王様の情報はなさそうだね」

「ああ、ただまあとんでもなく強いとだけ書かれてるな。とはいえ、オーシャンモンスターの中でもやばい個体が出てこないと出撃しないらしいが、逆に言えばもともと亜人たちが強いってことなんだろう」


 新聞を畳んでカバンに突っ込む理央。


「……なあアルテ、なにか聞こえないか?」

「?……なんの音?」

「街の中じゃなくて、街の下だ」

「下?」


 アルテがカバンの中から身を乗り出して、下を見る。

 だが、石畳で作られたきれいな地面が見えるだけで、特に異変はない。


「何も聞こえないけど……」

「そうか」


 周囲を見ると、どうやら獣人たちが訝しげな表情をしているものが多い。

 そしてだんだん、理央がいる噴水広場に視線が集まってくる。


 次の瞬間。


「来たか」

「え?」


 理央は跳躍強化の付与を自分にかけて、その場から離れる。

 すると、噴水広場をバラバラにしながら、地面がひび割れて、巨大なカエルが姿を現した。

 全長五メートルは超えるほどで、ギョロギョロと目を動かしながら周囲を見ている。


「うわっ!何これ!?」

「エイドの懸念通りになったか」


 エイドの『横穴をほって大陸内部に移動してくる』という説の実例ということになる。

 理央は自分の掌から魔力を出して固めると、それを両手剣にした。

 それを構えて、威圧系の魔法をカエルに放つ。

 カエルはビクッとして、理央を真正面から見据えた。


「これがオーシャンモンスターってこと?」

「だろうな。あとはこいつがどれくらい強……」


 途中で言葉を切って、横に飛ぶ理央。

 すると、理央がいた場所にカエルの長い舌が襲撃してきて、石畳の地面を簡単にえぐった。

 そのまま受け身を取って、アルテが入っているカバンをそばに放り投げる。


「うわあああ!」


 急に放り投げられて驚いているが、うまく着地している。

 買った荷物を抱えて、アルテが戦闘領域から離れていった。

 どうやら、手っ取り早く逃がすために放り投げたことはわかっているようだ。他にやり方があったかもしれないけど。


「思ったより早いな。予備動作を見逃してたら危なかったかもしれないが……まあ避けれたからいいか」


 理央は剣を構えて突撃する。

 その際に追加の付与は必要ない。

 そもそも走るという行為は前に飛び続けることと同じなので、十分速度は出る。

 ただ、その理央の速度を、カエルはしっかり認識しているようだ。舌を伸ばしてくる。

 理央は舌に剣を振り下ろすが……斬れない。


「防刃ベストを切ったような感覚だな」


 やったことあるの?

 というツッコミは置いておくとして、舌を受け流した。

 そのまま突撃して、剣に付与をして攻撃力を上げ、剣を下から振り上げる。

 顎に剣があたって少し食い込んだ。

 浅い。

 しかも、カエルが痛がっている様子がない。

 舌が襲いかかってきたので跳躍で回避して距離を取る。

 斬った部分を見ると、再生能力だろうか。傷がふさがっていく。


「……痛みを感じていないのは、傷というものを恐れていないからか?いずれにしても再生は面倒だな」


 とはいえ、オーシャンモンスターの図鑑で予習した限り、強い個体ではない。


「まあ、付与を本気でやれば勝てる相手ではあるか」


 どうやらもう気持ちが萎えたらしい。


「まあ、大陸内部への潜入が初の試みで弱いのが送り込まれただけだろうし……」


 つぶやいているときに舌を伸ばしてきた。

 理央は剣を魔力に分解して、その魔力を使って筋力強化の付与を行う。

 舌をがっしりと受け止めて、全力でそのまま持ち上げた。


「調子に乗るな!」


 そのまま全力で背負い投げ……と言えるのかどうかはよくわからないが、カエルを背中から地面に叩きつける。


「おおっ!すごいねあるじ!」

「余裕だな。アルテ」


 それはそれとして、増援が来る様子はない。

 必要はないが、どうやら間に合ってすらいないようだ。

 一応警備隊くらいはいるようだが、一体どうなっているのだろう。


「まあいいか」


 理央は収納魔法に手を突っ込むと、城で開発しておいたスイッチを一つ取り出す。


「アルテ。お前も戦ってみるか?」

「え?」


 急に話を振られて驚いているアルテ。


「安心しろ。俺の最初の部下にふさわしい力をくれてやる」


 そう言って、理央はスイッチを投げ渡した。

 アルテが受け取って確認すると、『Genius』と記載されている。


「むう……わかった!」


 触手を体から出して、スイッチを押すアルテ。

 すると、アルテの体が光り輝く。

 アルテの視界にテロップが流れた。


『アルテマシフトスイッチを起動。『スライム』を『スライム・ジーニアス』に究極移行(アルテマシフト)させます』


 光が収まると、外見上は変わらないアルテがそこにいた。


「……なるほど、そういうことか」


 なにかに納得した様子のアルテ。


「ゲロロ……」


 カエルが再起動した。

 そして、恐れたように理央を見たあと、アルテを見る。

 アルテに高速で舌を伸ばした。

 だが、アルテは触手を十本出現させると、五本で受け止めて、五本の先端から水の刃を飛ばす。

 切り飛ばすことはなかったが、カエルの舌がズタズタになった。


「!?」


 悶絶しているカエル。


「あるじ。なんていうかこう……わかるっていうのは素晴らしいことなんだね」

「まあ、そういうことだ」


 アルテはカエルの方を見る。

 そして、再度十本の触手を出現させて、その全てで大きな綱を作るように編み込んでいく。

 先端に、水の砲弾が生成されていく。


「おりゃあああっ!」


 水の砲弾が音速を超えて飛んでいき、カエルの胴体を貫いた。

 先程は再生能力が起動していたが、アルテがカエルのオーシャンモンスターとしての核を狙って破壊したことで、再生することなくそのまま倒れて動かなくなった。


「すごい!今までできなかったことが、緻密な作業がいくらでもできる!」

「そりゃよかった。うまく起動したようで何より」


 オーシャンモンスターは二日に一回出現するが、その時の個数は一体ではない。

 必ず部下のモンスターを十体から十五体程度連れてくる。

 だが、その部下のモンスターであったとしても、二人で余裕を持って倒すことは、ほぼありえない。

 その『ほぼ』というのも世界最強クラスの存在が関わったときだけだ。

 冒険者ギルドからの援軍でAランク冒険者が来ることもあるが、部下モンスターをパーティーで倒すことがほとんど。

 最高位であるSランク冒険者がそれ相応にやる気を出さなければ、部下にすら勝てない。


 もちろん、オーシャンモンスターを倒し続けているハートライト王国の軍人なら、数人で部下モンスターを倒すことができるだろうが、それとは無縁の男だ。

 最初は見守っていた観客達も、理央とアルテの『強さ』を読み取る。

 一目散に逃げた人間の商人はともかく、二次災害を回避するために集まっていた亜人の警備隊は、倒れて動かないカエルの対応をしながらも、自らの王にどう報告するのかを考えていた。

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