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第十話 理央は喧嘩を安く買い叩く方針である。

 理央はバーンズの執務室を出ると、一旦部屋に戻ってアルテを回収。

 そのまま一階に向かった。


「あるじ。これから何をするの?」

「夜まで時間があるからな。特にやりたいこともないし、東に行くための通行証はバーンズ国王に頼めたから、本格的にすることがない」

「そっか……ん?」


 一階ロビーで二人の男性がテーブルを挟んでソファに座って話しているようだ。

 城は基本的に平民は入ってこられないので、こうして話す光景も見られる。

 それが貴族同士で上にいるものが下にいるものを見下すパフォーマンス中であればなおさらだ。


「ゴルド君。そろそろアングラ鉱山の権利を渡してもらいたいのだが。どうだろう?」


 豪華なローブを身にまとった四十代後半の男性が、しっかりしたスーツを身にまとったゴルドというらしい三十代半ばの男性に何かを要求しているようだ。


「いえ、まだあの鉱山をウィズダム・セイヴァーズに売るわけにはいきません。王族直下商会インフェルノートとして、王都から近い鉱山を売るわけがないでしょう。ユーシア様」


 ゴルドという男性の返答で状況を察した理央。

 どうやら。四十代の貴族の格好をした男性はユーシアといって、ウィズダム・セイヴァーズのトップなのだろう。

 そして、ゴルドと言う男性は、王族直下の商会であるインフェルノートのトップなのだ。

 鉱山というれっきとした(かね)の山が王都の近くにあり、発掘された鉱物に対する優先買い取り権を現在インフェルノートが所持している。

 しかし、それを売るようにウィズダム・セイヴァーズから要求されているのだろう。


「そういうがね。ゴルド君。こうして、数多くの貴族の間でも、ウィズダム・セイヴァーズに鉱山の譲渡をしてはどうかという署名を貰っているのだよ」


 そういってユーシアは紙束を取り出してテーブルに置いている。

 一番上の紙には、鉱山の譲渡に対する賛成意思があるかどうかということが書かれており、一番下には『ユーシア・リングライト』と書かれている。

 おそらく直筆のサインだろう。

 数多くの貴族のもとにこの紙を送り、直筆のサインをもらったということだ。

 ゴルドの表情を見るかぎり、どうやら伊達ではないらしい。


「アングラ鉱山は強力なモンスターが近年出現傾向にある。インフェルノートが抱える商売人たちだけでは対応できないのでは?こちらには最高であるSランクの冒険者も多数抱えている。我々が鉱山を管轄するべきでしょう。それによって鉱物をこれまで以上に採掘可能になれば、王都の鉱物の原価も下がって活気があふれる。それくらいのことは分かっているでしょう」


 ユーシアは馬鹿にするような目でゴルドを見ている。

 ただ理央から見ると、ユーシア自身、それがわかっているようには見えない。

 覚えてきた原稿をただ言い連ねているような、そんな雰囲気しかしない。


「……強力なモンスターが出てくる原因がわかってないのなら、意味なんてないと思うんだがな」

「ん?」


 理央のつぶやきが聞こえたようで、ユーシアがこちらを見る。


「誰かな?」

「俺は天道理央。召喚された勇者の一人だ」

「ほう?君かね。ミーティア様の体を治療したポーションを作り上げたというのは」

「……ああ、その通りだ」


 情報が速い。

 まだ朝早いというのに、もうそれを知っているとは……。


「君は確かギフトがないそうだな……リングライト侯爵家として命令だ。ミーティア様の治療に使ったポーションのレシピを私に教えろ」

「……」


 理央は内心で溜息を吐いた。

 教えるのが嫌なのではない。

 そもそも、治療魔法ではなくポーションである以上、スキルと材料をそろえることさえできれば誰にでも作れる。

 加えて、この手の情報において重要なのは、『そのポーションの作成方法を入手する』ことではなく、『これ以上の販売を理央にさせないこと』であり、大して意味はないのだ。

 そして、仮にそこを要求されたとしても、結果的に同じ効果を発揮するが、成分がまるで違うポーションを新しく作ればいいだけのことだし、ポーションがダメだというのなら新しく魔法を作ればいいだけのことである。

 そのため、嫌とは言わない。

 そもそも薬の情報程度のことで金を貰おうとは考えていない。


 理央は鞄から一枚の紙を取り出すと、そこに念筆で一瞬で記載した。


「こんな感じかな」

「フフフ、これをウィズダム・セイヴァーズで独占すれば……な、なんだこれは!?」


 愕然とするユーシア。

 彼の驚愕は当然のこと。

 この世界におけるポーションの作成は、『調合』というスキルで魔力を操作して行われるため、材料さえそろっていれば問題はない。

 問題なのは、その材料だ。

 もっと言うと、『理央がミーティアのために作った完成版』の場合、緻密な分量構成が求められる。


 素材の種類は六十種類を超えて、全て少量なのだが、求められる精度が小数点第七位までという凶悪的なもの。

 そもそも調合スキルは、そのスキルの範囲に配置されている素材全てを対象にして行われるため、正確な分量は自分で測らなければならない。

 しかし、小数点第七位ともなると、目に見えないレベルの粉末が秤に残っていたとしても失敗するレベルだ。


「もちろんぴったりにする必要はないけど、俺が使ったのはまさしくこれだ」

「こ、こんなもの!できるはずがないだろう!私を馬鹿にしているのか!」


 そういいながら渡した紙をビリビリに破くユーシア。

 理央は『今更気が付いたのか?』と思ったが、それは内心で止めておいた。


「だが、事実だ。計測器を発展させてしっかり頑張ってくれ」

「ふざけるな!侯爵家を馬鹿にするのもいい加減にしろよ若造が!」

「こんな人目の多いところで叫ぶなよ」

「!」


 ユーシアが周りを見ると、城で働くメイドや使用人がこちらをチラチラとみていた。

 衛兵も対応に困っている様子である。

 侯爵家の屋敷ならともかく、ここはバーンズ国王がいる城。

 ユーシアが今の地位に立つ以前にも、馬鹿なことをして消えていった政敵は多いはずだ。

 こういう言い方をすると効くのである。


「フン!私に恥をかかせたこと、後悔させてやるからな。ではゴルド君。近日中にアングラ鉱山の譲渡の証明書をまとめておくことだ。あとになってから泣きついてきても遅いから早くしておけ」


 そういって、ユーシアはロビーから歩いて去っていった。


「馬鹿な年の取り方をするとああなるってわけか。クラスメイトの反面教師にちょうどよさそうだ」

「あるじ。あまりいじめないであげた方がいいと思うよ?」

「それもそうだな……あ、そうだ」


 理央は鞄から白紙の紙を二枚取り出すと、それぞれ念筆を使う。

 数秒で完成したそれをゴルドに渡した。


「ん?こ、これは……」

「片方はユーシア様に渡したものと同じだ。もう一枚は、若干性能は落ちるが作成難易度が下がった簡易版だよ」

「これで、ミーティア様と同じ悩みを抱えたものを救えるのか?」

「俺がミーティア様にやったのと同じ速度で治るわけじゃないけど。まあ治せるよ」

「……こちらをユーシア様に渡さなかったのだな」

「ああ。ミーティア様に渡したポーションのレシピを渡せって言われたけど、その簡易版を渡せとは言われてないからな」

「……なるほど、フレーデル様が言っていた通りだ。君を敵には回さないでおこう」

「好きにしろ」


 そういって、理央もまた、城から出ていった。


「……あるじ。冬美ちゃんに言わなくていいの?」

「別に遅くまで外出するわけじゃないさ」


 それ以上は何も言わずに、理央は城を出ていった。

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